Episode:115
「まぁお前、追試とか縁ねーもんな。出来っから」
イマドが笑いながら言う。
「てかさ、出来て追試なら、ルーフェが真っ先に追試だよ? たまに満点とってるじゃない」
「あ、そっか……」
言われてみればそのとおりだ。
「まぁその調子なら、少なくとも1人は問題なさそうだな」
殿下が楽しそうに笑う。このところ難しい顔が多かったから、ちょっと嬉しい。
「ところで明日は、何時に帰るんだ?」
「あら、聞いてません? ここの使用人、少々報告が遅いですわね。午前中には出ると伝えてましてよ」
先輩、絶好調だ。
「戻ってそのまま、この部屋へ来たからな。あとでまとめて報告はあるだろう。それにしても、午前中に発つとはな」
「何か問題でも?」
挑発的な先輩の口調を、殿下が手を振っていなす。
「大した話じゃない。時間があれば、竜に乗せてやろうと思っただけだ」
「え、やだ、あたし乗りたい!」
面白いことが好きなナティエスが、真っ先に声を上げる。
「先輩、乗りましょうよ。こういうの、めったにないし」
「別に私はいいわ。巨鳥と同じようなものでしょ」
先輩、取り付くしまもない。
「俺も別にいいな。ヘタに目立ってもヤベーし」
めんどくさがりのイマドも、乗る気はないらしい。
ちょっと考える。
イマドが乗るならあたしも乗るけど、1人でわざわざ、乗せてもらうほどのことでもないだろう。
それに確かあの竜は、あたしにも協力してくれると言っていた。だったら1回乗せてもらうくらい、お願いすれば出来るはずだ。
それを殿下に言うと、なんだか残念そうな顔になった。
「そうか、乗らないか……観光の時間もないからせめて、と思ったんだが」
「え、あ、えっと、あの、すみません……」
慌てて謝る。せっかくの殿下の気遣いを無駄にしようなんて、なんて気が利かないんだろう。
「そしたらあの、竜――」
言いかけたところで、はじけるような声が重なった。
「殿下ー、いーいのーかなー?」
ミルだ。
アヴァン出身なだけあって、ミルはこの国に知り合いが多いらしい。そのせいか谷から戻った後も、呼ばれては出かけることの繰り返しだった。
でも今日は、割と早く片付いたんだろう。