Episode:113
◇Rufeir
アヴァンは平穏だった。
この国の人にとって「竜騎士」というのは、ものすごく意味を持つものだったらしい。あんなに公爵家を非難していた論調が、あっという間に変わってしまった。
それでも報道なんかはまだ、儀式の不正を言ったりしてるけど、国民はほとんど気にしてないと言う。
――いいのかな?
こんな簡単に考えが変わってしまうなんて、問題だと思うのだけど……。
あれほど大騒ぎして、公爵家を追い出してもいいってほどだったのだ。なのに竜を連れてきただけで正反対の意見になるなんて、ちょっと流されすぎだと思う。
ただ公爵家は、当面はこのまま刺激せずにやるってことだった。
いいかどうかは別にして、今のところ世論は、公爵家の味方だ。だったら下手にいじらず、この状況を利用しながら舵を取れば、ローリスクハイリターンになる。それを狙ってるんだろう。
どっちにしても当面はこの平穏が続きそうだから、悪くない結末だ。
「荷物、まとまったかい?」
「え? うん。もともと、そんなにないし……」
必要な物はアヴァン側で用意してくれたから、自分で持ち込んだものはほとんどない。使い慣れたツールキットや衣服、あとは武器くらいだ。
「あーあ。今回はドレス着れなかったねー」
「あんなヒラヒラしたもの、動きづらいだけじゃないか」
シーモア、やっぱりドレスはキライらしい。でも似合ってたし素敵だったから、もったいない気がする。
「お前がドレスとか、想像つかねーな。つか着れんのか?」
「うるさいよ!」
シーモアが殴ろうとしたけど、イマドは上手く避けた。
「なに避けてんだい!」
「ンなこと言ったって、ふつう避けっだろ」
やり取りが面白くて、思わず笑ってしまう。
「なんだ、ドレスというからには、パーティーでもしたいのか? それなら晩餐会でも開いてやるぞ」
そんなことを言いながら、殿下が部屋に入ってきた。
「殿下ほんと? 開いてくれるの?」
ナティエスの勢いに、殿下たじたじだ。きっと冗談で言っただけで、本気じゃなかったんだろう。
「いやその、あれだな、来月まで待てばあるぞ。僕の継承権が決まったからな」
「えー、それじゃ出れないじゃない。もっと早くしてよ」
ナティエス、メチャクチャだ。
「出来るわけがないだろう。内外から人も呼ぶんだぞ」
「あんもう、残念。こないだはテロで中断だったから、今度こそ出たかったのに」
中断されて残念だったのは分かるけど、何か間違ってる気がする。