Episode:111
それらを見ながら、不思議とローウェルの心は澄んでいた。
不安はあるし、問題は山積みだ。妨害も多いだろうし、情勢も楽ではない。
だが、こうやって喜んでくれる民衆がいるかぎりやれるはずだし、やらなくてはならない。
「こ、この、人民の敵めっ!」
突然、怒声が響いた。
続いて発砲音。
だが弾は竜の持つ障壁に阻まれ、ほぼ同時に後ろの少女が動いた。
ふわりと飛び降り、発砲した相手――先ほどの隊長――へ一瞬で詰め寄る。
さらに強烈な蹴りが、容赦なく股間へ叩き込まれた。
「衛兵、この反逆者を捕らえなさい!」
よく通る声に命じられて、周囲の兵たちが慌て隊長へ飛びかかる。
「大丈夫か?」
答えはなく、少女がさらに動いた。
捕り物に参加せずこちらに銃を向けていた兵に、肉薄。
その男が倒れ伏した時には、もう一人の背後へ付いていた。
三人目が倒れて、やっと少女が動きを止める。
「あーもう、多すぎ!」
紛れ込んでいた左派の過激派が、多すぎると言いたいのだろう。
「……さすがだな」
「まぁねー。こういうのに特化して、鍛えられてるしー」
あっけらかんと言う。
やっと事態を理解したのだろう、今頃になって、広場に居合わせた人々が騒ぎ出した。
倒れた兵と広がる地だまりに女性が金切り声を上げ、その声で周りまでパニックに陥る。
「まずいな。子供が踏み潰されかねん」
他人を押しのけて逃げようとする人々は、弱者にとっては脅威だ。
「竜さん、ちょっと吼えて!」
『こうか?』
少女に応えて、竜が轟くような咆哮を上げる。害意がないと分かっているローウェルでも、思わずすくむほどだ。
当然ながら人々は、縮み上がって動きを止めた。
「殿下!」
「分かった」
ミルドレッドという少女、相当に頭が回る。たしかに今なら、人々を静められるだろう。
「――皆の者!」
不思議なほど、声が広場によく響いた。
「襲撃者はすでに排除した。もう安全だ!」
皆が驚いたような表情になり、次いで安堵の表情に変わる。
「動かないで、周りを見て欲しい。近くに怪我人は居ないか? 居たら、助けてやってくれ」
広場の何ヶ所かで、動きがあった。どうやら転倒した老人や子供を、助け起こしているらしい。
そこへ、兵たちを向かわせる。