Episode:110
報道陣はかなりギリギリまで粘っていたが、さすがに竜の下敷きにはなりたくなかったらしい。最後の最後で、転げるようにして逃げ出した。
その際本当に転んだり、写影機や何かが取り落とされたりしたようだが、なんとも思わない。むしろ、少しは思い知ればいいと思う。
思ったよりは軽く、だがそれなりの地響きを立てて、竜が降り立った。
広場にどよめきが走る。
衛兵たちが駆けつけ、竜と自分とを取り囲み、銃を構えた。
それを眺めながら、竜の上に立ち上がる。
居合わせたこの国の者だろう、「殿下?」という声がそこかしこで上がった。
念のため、竜に小声で尋ねる。
「あの程度なら、防げるのだろう?」
『無論だ』
自信に裏打ちされた答えが戻ってきた。
なんとなく頷いてから、兵たちに命じる。
「衛兵、その銃を下げろ」
駆けつけた兵たちの中から、隊長らしき人物が進み出た。
「自分は、殿下と確信しております。ですが、確認する術がございません。大変恐れ入りますが、このままでお許し願えませんでしょうか?」
「そうか、ならば許そう。但し撃つなよ?」
冗談交じりに言って、懐から竜玉を取り出す。
事の成り行きを興味津々といった顔で、報道が写影に収めていた。思う壺だ。
高く宝珠を掲げ、言う。
「我が名はローウェル=ジェレマイア=ド=ファレル。建国王メルヒオルの血を継ぐ者なり」
偶然居合わせた者たちが、一瞬にして聴衆へと変わった。
「まず儀式に絡み皆に心配をかけたことを、ここに詫びる。わけあって今日まで、公に出来ずにいた」
次に何が来るのかと、固唾を呑んで見守る聴衆たち。
それを見回し、さらに言う。
「だが今、僕は竜を得て戻った。よって宣言する。このローウェル=ジェレマイア=ド=ファレルこそが、継承権第三位なり!」
広場が水を打ったように静まり返ったあと、老人が叫んだ。
「りゅ、竜騎士じゃ! 伝説の竜騎士じゃ!」
一瞬の間。
そしてざわめき。
「殿下、無事だったの?!」
「建国王と同じ、竜騎士だって?!」
さらに歓声。
「ば、万歳っ! ローウェル殿下、万歳っ!」
「継承権、おめでとうございます!」
何度も何度も叫ぶ者。
隣と肩を叩き合う者。
感極まったのか、泣き出す者。記念とばかりに写影を撮る者、なぜか踊りだす者……。
人々の歓喜の声が、広場に幾重にもこだまする。