Episode:11
「先祖のせいで迷惑だとも思うが、まぁ仕方あるまい。本当に竜と戦って死者が出ていた昔を思えば、格段に楽な話だしな」
なんだかよく分からないけど、伝統というのは、いろいろ難しいらしい。
そんな話をしてるうちに、車が速度を落とした。ところどころに黄色の混じった、山と谷とが迫ってくる。頂上のほうはもう、雪が降ってるみたいだ。
「この先揺れますので、お気をつけください」
「あ、はい」
川の見える谷間の道を、揺られながら行く。ヘタに喋ると、舌を噛みそうだ。
やがて少し開けた場所で、車が止まった。
「殿下、お送りできるのはここまでになりますが」
「分かっている」
どうやらここから、例の「儀式」とやらになるみたいだ。
谷の奥に視線をやると、少し先に一対の、竜の石像が乗った柱があった。あそこが入り口になるらしい。
「荷物を降ろしますので、今しばらくお待ちを」
「分かった、待とう」
そうやっている殿下の姿が、写影に収められる。きっと公式の何かに使うんだろう。
「あぁ、そこの者たちは写すなよ。何かと面倒だ」
これはありがたかった。殿下いつの間にか、こういうことにも考えが及ぶようになったらしい。
「ですが、それでは国民から……」
「構わん。もしあんまりアレなようなら、個々人の保護のため、とでも言っておけ。
それより、今のうちにあれを持て」
殿下の命令で、綺麗に装飾された箱が配られる。開けると中身は、首飾りだった。
「終わるまで、これを身に着けておけ。でないと、儀式にならんのでな」
「……?」
意味が分からないまま、みんなでひとつづつ手にする。短めの金の鎖に、見たことのない石が下がっていた。
「持ってりゃいいんです?」
「そうだ。だが首からさげておくのが、いちばん楽だとは思うぞ」
それもそうだと、みんなで首にかける。その間にお付きの人たちが、後ろの輸送車から荷物を降ろした。
「これ、全部……?」
みんなであきれ返る。
いつの間にか出された荷車には、水に食料、小さい冷気箱、分厚い布団、天幕等々……たしかにどれもあったら便利だけど、多すぎだ。
「さぁ、運ぶぞ」
「え?」
殿下、「当たり前」という顔だ。
「ちょっと待って殿下、運ぶってどこに? っていうか、運んでもらえないの??」
ナティエスが声をあげる。
殿下が一瞬考えたあと、何かを思い出した顔になった。
「そういえば、言うのを忘れていたな。谷に入れるのは、公爵家の者だけだ。なにしろ結界が張ってあるからな」
さっき立ち入り禁止とは言ってたけど、実際はこの谷、「立ち入れない」場所らしい。
「じゃぁこのペンダントが、その結果を無効にするもの?」
「そうだ」
肯定してから、殿下が続ける。
「儀式の間だけは、僕が選んだ同行者は入れていいが、それも15歳未満だけの決まりでな。だから、この者たちに運ばせるわけにはいかない」
「えー」
ナティエスはまだ不満そうだけど、イマドがあっさりと動く。
「どうせここで騒いだって、誰も持っちゃくれねぇんだろ。ほら、とっとと運ぶぞ」
荷車の持ち手に、彼が手をかけた。