Episode:108
結局、他人の環境は良く見える、というヤツなのだろう。得てして人はそういうとき、いい面ばかりを見て羨むものだ。
そんなことを言っているうちに、王都が見えてくる。
ここからは、王族である自分の戦いだ。
きちんと連絡が行ったのだろう、巨鳥部隊が出てきたが、攻撃されることはなかった。編隊が周囲に展開し、護衛をする。
「……彼らは何を、護っているのだろうな」
ふと出た疑問。
今でこそ王族だが、公爵家とて遥かに遡れば、どこかの一家族でしかない。
そもそも視点を変えたら、王や国というのも幻のようなものだ。時に生まれ、消滅を繰り返す。
この眼下に広がる大地は変わらないのに、だ。
「何って、自分自身じゃない?」
「……意味が分からん」
後ろから聞こえた声に、言い返した。突飛なのはもう嫌というほど分かっているが、せめて他人に分かるように言えと思う。
「だからぁ、自分自身。あとはせいぜい、家族?」
「それでは分からんと、今言ったのだがな」
言葉は通じるのに意味が通じない、これを今ほど実感したことはない気がする。
さすがに重ねて言われて、説明が必要だと悟ったのか、少女が考え考え話し始めた。
「えっとねー、国のためとか仕事だからとか、いろんな理由あるけど。でも結局、自分のためだよ。そうしとけば自分が安泰だから、理由つけて幻みたいなもの、護るんじゃない?」
「そういう考え方か……夢の欠片もないな」
あまりのドライさに呆れて言うと、またくすくす笑いが返ってきた。
「だってー。現実見ないと、足元すくわれちゃうしー。てかね、そう思ってて上手くいったら、よかったねーで済むもん」
「まったく。そこまで割り切られると、突っ込みようがないな」
口ではそう言いながらも、ある面では正しいとローウェルも思った。
一見華やかな王族としての仕事は、現実の中であがきながら夢を作り上げる、理不尽な作業の積み重ねだ。
「でも、何がどうだっていいんじゃない? それでみんな納得してるなら。紙切れ一枚が、山の黄金より価値持つことだってあるんだもん」
「そうだな」
結局誰もが実体のない何かを現実に重ね、それが集まって組織や国に繋がるのだろう。
悩まなければならないのは、その虚像が、上手く機能しているかどうかだ。
自身の持つ力もまた幻から来ていること。そうでありながら現実に影響力を持つこと。これを忘れなければ、そう大きくは道を外さないだろう。