表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/121

Episode:105

 これに加えてさっきちらりと竜が言ったことが本当なら、彼女は本来、裏の世界の人間だ。

 要するに……立つ場所が違いすぎるのだ。なのにこちら側へ来いと言うのは、おそらく悲劇しか生まない。


 それでもルーフェイアにその気があればいいが、残念ながらまったくなさそうだ。

 要するに、未練がましく後ろ髪を引かれながらも、心変わりを待つしかなかった。


「殿下もたいへんだねー。やめちゃえば?」

「それが出来るなら、こんなことをするか」

 同行したメンバーはもちろん、自分までもが命がけなのだ。やめる気なら、挑むほうがどうかしている。


「よーするに、公爵家に生まれたのが運のツキ、っと」

「まぁそうだな。だがそのぶん出来ることも多いし、いろいろ見られるからな。なんとも言えん」

 どんな立場であろうとも、同じことは言えるはずだ。ただその中でも今の自分の立場は、制約が多い反面、恵まれてもいるだろう。


「そういうお前こそ、なぜこの国にここまでする?」

 逆に訊いてみる。

 この少女、父親はユリアスの著名人だが、母はやむを得ぬ事情でアヴァンを出たはずだ。それなのに手助けに来るのは、なんとも不思議だった。


「お前の母親を、追い出したようなものだろう。憎くはないのか?」

「あたしのママ、そういうの言わなかったしー」

 間の抜けた答えと、くすくす笑いが返ってくる。


「おかしい?」

「分からん。だが不思議だな」

 一般的な行動から外れている人間など、理解できようもない。

 またくすくすと笑ったあと、後ろの少女が答えた。


「ママね、いっつも話してくれた。アヴァンがどんなに綺麗で素敵な国か。だからあたしまで、好きになっちゃった」

 呆れるほど、単純すぎる理由。


「そんなことで、いいのか? お前の一生を決めるだろうに」

「んー、でもほら、ちゃんと見たことないし。嫌うなら、見て聞いて知ってからでもいいかなーって」

 あっけらかんと言われたことに圧倒される。

 どこまでも自由。そんな言葉が脳裏をよぎった。


「ま、そう簡単に抜けらんないかもだけど? でも、きっと何とかなるよ。だってママが、あんなに好きだった国だもん」

 根拠というにはどうにも頼りないのに、揺るぎない自信。


「……礼は言おう。この国を嫌わなかったことに」

「じゃぁそのうち、返してもらうね」

 また聞こえる、くすくす笑い。

 過去は過去と割り切り、過去に押し付けられた犠牲も割り切り、この少女は前を向いている。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ