Episode:102
「なんだかよく分からんが、お前たちは僕と彼女、両方に仕えるということか?」
殿下の言葉に、竜が頷いた。
『そのようになるな』
「……万が一対立したら、どうするつもりだ」
責めるってよりは、呆れた口調だ。きちんと先まで考えろ、って言いたいのかもしれない。
『そなたたちが対立したときは、我らの意思で選ぶまでだ。どちらかを優先するという契約ではないからな』
「ずいぶんいい加減だな……」
殿下が眉根を寄せる。
『ならば、対立せぬよう上手くやるのだな。駆け引きは、人間は得意であろう?』
「話し合いによる合意、と言ってほしいものだな」
竜が嵐みたいな音立てて笑った。
『そういったものが上に立つものには必要だと、メルヒオルはよく言っておった。清廉潔白はよいが、巧妙でなくてはならないと』
「そうだな。裏も表もないようでは、勤まらんだろう」
話聞きながら、なんでこんな妙な儀式やりだしたか、分かった気がした。
「殿下、継承権の儀式で死んだ王家の人って、居ましたっけ?」
確認したくて聞く。
「死んだ人間か? たしか3代目の王の在位中に、1人亡くなったな。獣に襲われたはずだ」
「あーやっぱり」
点と点が繋がった。
継承権を持つだけの人なら、かなりの人数になる。現に今だって、数人居るはずだ。なのに死亡者が1人、しかも儀式そのもので死んでないんじゃ、メチャクチャ危険ってほどじゃない。
そもそも考えてみりゃ、罠かけてから竜の召喚が出来るって時点で、かなりインチキな儀式だ。しかも二代目でいきなり、ちゃんとした儀式してねぇんだから、いろんな意味でヤバすぎる。
「もしかしてこれ、『どんだけ上手く人使って、人間らしい姑息な手段で勝つか』っての見てません?」
『ほう、よく分かったな』
竜がまた、笑った気がした。
『人間がいくら強かろうとも、正面きって我らに勝つのは至難の業。ならばそれをどう埋めるか、メルヒオルから頼まれてな』
「……すっげーお人好し」
思わず言う。
何しろそれを頼んだ本人、とっくの昔に墓の中だ。
『お前たちにはそうでも、彼は友人でな。意思は尊重したい』
「なる……」
たしかにそういう視点なら、アリだ。
「そういった話、後で聞かせてほしいものだな。だが今は、頼みがある」
殿下が言って、竜をまっすぐ見る。
『なんだ、言ってみるがいい』
「僕を乗せて、この先の首都へ飛べ。しなければいけないことがある」
やる気だ。
そして殿下が、俺らに振り返って言った。
「ここまで、ご苦労だった。あとで褒美を取らせる」
水色の瞳にこもる、意思。
「――国を、取り返してくる」
その言葉に、みんなが不敵な笑みを返した。