Episode:100
『そなたもしかして、シュマーのグレイスか?』
俺の隣で、ルーフェイアのヤツが息を呑んだ。
たぶんコイツにしてみたら、いちばん言われたくないはずの言葉。
「シュマー……?」
案の定、先輩は聞き逃さなかった。
「先輩、それ聞かなかったことにしといてください」
「あら、そういう要求するのね?」
ため息つきたくなる。なんでこう上級隊ってのは、他人の弱みに付け込むヤツばっかなんだか。
「まぁどうしてもって言うなら、聞かなくもないわよ? 何しろ可愛い子猫ちゃんのことだもの。でも、見返りが欲しいならねぇ」
「……俺が可能な範囲にしといてください」
そうは言っても何が出てくんだか、分かんねぇのが怖いとこだ。
「そうね、じゃぁヒマな時に食事でも作ってもらおうかしら? 子猫ちゃんと食べてあげてよ」
「そんなんでいいんです?」
たしかにこれなら「可能な範囲」ってやつだけど、ちょっと拍子抜けだ。
「あら何? 嫌なら変えてあげるわよ?」
「いえ、いいです。つか、またルーフェイア持ってくと思ってただけなんで」
あんなに囲い込むのに熱心だったのに、どういう風の吹き回しなんだか。
けどこれ言った瞬間、先輩がふて腐れた顔になった。
「だってこの子、恐ろしく寝つきがいいんだもの」
「なる……」
笑うしかない。
基本ルーフェイアのヤツは、どこでも速攻寝ちまう。んでこないだの夜も、それ披露したんだろう。
「まさか、ヘタに起こすわけにもいかないし」
「死にたくなきゃ、そのほうがいいです」
こいつを叩き起こしても身の危険がないのは、ほんの数人だ。
「まぁそういうわけだから、安く美味しいものを、子猫ちゃんと一緒に食べるわ。あぁ、材料費は当然だけど、あなた持ちよ」
「げ……」
俺が甘かった。
「えーと、あの、俺あんま金ないんですけど」
「なら子猫ちゃんにでも借りるか、違う方法で埋めてもらうかだわね。だいいちあなたの懐具合なんて、私には関係なくてよ?」
もうとりつく島もない。
「えっと、イマド、あたしが払うから……」
ルーフェイアのヤツが見かねて言ってくれてるけど、なんか複雑だ。かといって断るのも出来ねぇのが、我ながら情けない。