Episode:01
◇Rufeir
「えっと、ここまでなんだ……」
メモを片手に、教科書をひとつづつ見ていく。
確かめていたのは、試験の範囲だ。最初来た頃は想像もしなかったけど、シエラは思ってたより試験が多い。年に5回もやってる。
ともかくこの準備がけっこう大変で、時間がとられてしかたがなかった。
時計を気にしながら、急いでやっていく。早くしないと、自主訓練に行く時間がなくなりそうだ。
そのとき。
『ルーフェイア=グレイス、至急作戦室へ。すぐに来られない場合は、理由を即刻連絡してください』
「え、あ、はい、すぐ行きます!」
通話石から聞こえた声に、慌てて答えて教科書を閉じる。
――今日は訓練、ダメかも。
ただでさえ試験範囲の確認でもたもたしていたのに、そこへ呼び出しまでされたら、訓練島へ行く時間はなさそうだ。
同室のナティエス――ロア先輩は上級隊に入って個室へ移った――に書き置きをして、部屋を出る。
何で呼ばれたのかは、見当もつかなかった。そもそも作戦室に、あたしの学年で呼ばれること自体が珍しい。
作戦室はその名のとおり傭兵隊、特に上級隊の先輩たちと教官が使うところで、任務の作戦立案をしたり指揮を取ったりする部屋だ。
だからあたしなんて、入るどころか近寄ることさえない。それどころか傭兵隊の先輩だって、しょっちゅうは行かないだろう。
シエラの上級隊は、軍で言う士官の役もこなす。この間の病院テロはその典型で、上級隊の指揮で、一般兵に当たる傭兵隊が動いた。
といってもふだんの派遣は人数が少ないことが多いから、上級でなくても学院からの指名で行くのだけど……。
寮からしばらく歩いて、ちょうど反対側の管理棟まで行く。作戦室はここの一階だ。
おそるおそるドアをノックすると、中から声がした。
「誰なの? ちゃんと名乗りなさい」
「す、すみません! あの、ルーフェイア=グレイスです……」
「あら、あなただったの。入っていいわよ」
促されて、入る。中に居たのは、春のテロ騒ぎのときのイオニア先輩と、ロア先輩だった。
「えっと、あの……」
イオニア先輩は、ちょっと苦手だ。いつも抱きしめてくれて優しいのだけど……独特の威圧感がある。
「ほら先輩、ダメですってば。ルーフェ怯えてますよ」
「え? あぁ、そういえばこのコ、そうだったわね」
つかつかっと先輩が歩いてきて、あたしの頭を撫でた。
「あら、ちょっと背が伸びたかしら? まぁこの年で、小さくなっても困るけど」
「……♪」
大きくなったと言われると、なんだか嬉しい。
「やっぱり笑うと可愛いわ。食べちゃおう」
「ダメですっ!」
なんだかロア先輩、すごい剣幕だ。
「あら、ひがんでるわけ? なら2人まとめて、面倒みるわよ?」
「お断りしますっ!」
何の話をしてるのか、よく分からない。
「ともかくルーフェは、返してもらいますから!」
「それはムリね。話が終わってないわ」
そういえばそうだ。話があるから呼び出されたはずなのに、その肝心の話を何も聞いてない。
不思議に思ってイオニア先輩を見上げたら、いきなり抱きしめられた。