【単話】お人形遊びも、ここまで行くとすごいでしょ?
今日は学校の卒業記念パーティー。
そんな中私の婚約者様が目の前で、わんわん騒いでいるのだけれど…誰に向かって話してるのかしら?
「レイラ・ドール!貴様との婚約を破棄し、私は真に愛すべきノーラ・リゼル男爵令嬢と婚約する!!」
あ、婚約破棄でしたの。
ただ、婚約者であった第二王子は私の方を向いていない。
ドール公爵家の長女レイラ。
それが私の名前。
我がドール家はちょっと特殊な魔法が使える家系である。
それについては後程。
「婚約破棄ですか、承りました。では魔法はすべて解除して問題ないですね?」
殿下が向かい合っている淡い青い色のAラインドレスを着た銀髪の令嬢が答える。
因みに、それは私ではない。
「は?何を言っている」
「…ケイヤクカイジョがショウニンされました。システムのキテイにシタガイ、テイシします」
突然カタコトでは話し始めた令嬢は、急に糸が切れたように動かなくなると、がっくりと倒れ込んだ。
それと同時に、殿下の後ろに仕えていた側近や騎士が数人その場に崩れ落ちる。
周りのご令嬢達から悲鳴が上がる。
「な、なにをした!?レイラ!!」
殿下が、恐れおののいて叫んでいる。
バカな男爵令嬢を一緒にヨイショしていた側近候補達もビビっているな。
ふむ、そろそろちゃんと名乗ってあげるか。
「せめて人の顔を見て話しかけてくださいませんか?第二王子殿下」
婚約者であった間であれば名前で呼んでやらなくもなかったが、向こうから正式に破棄しやがったんだ、もう名前で呼んでやる義理などないだろう。
「…は?」
ようやく殿下の目が此方を向く。
まぁ吃驚するだろう。
何せ私は、先程”レイラ”と呼ばれた人形の横にメイドとして立っていたのだから。
当然メイド服である。
というか、侯爵家の令嬢がぶっ倒れたのに横のメイドが何もしないわけがないだろ。気が付けよ。
「ご存じありませんでしたか?レイア・ドールとは私の事。
ドール家が何と呼ばれているかご存じないようですね?」
狼狽える殿下達が面白い。
てか、男爵令嬢はついさっきまで親しく話していた騎士やイケメンが無表情に転がっているのに恐れおののいている。
「メイド風情が戯言をドール家といえば人形を作る事しか能のない役立たず侯爵ではないか!
それよりお前の家の令嬢が倒れているのだぞ!貴様何故介抱も何もしない!!」
なんだ、ご存じなかったのか…これだからバカはダメなんだ。
ドール家の長女たる私が王家に入る意味も理解していないとは…
私はもう一段階魔力を切ると、今度は給仕達がこと切れる倒れ始める。
また悲鳴が上がったが知った事か。
「殿下、そちらは人形です。私がレイラ・ドール本人ですわ」
そう言って私はウイッグを外す。
赤茶のウイッグの下から私の本来の銀糸の髪があふれる。
あー面白かった。
あっけにとられるバカ殿の顔が楽しいわ。
「ドール家が”人形を作るしか能のない役立たず”ですか、面白い事をおっしゃられますね」
私はそういうと魔法を使って目の前のレイラドールを操る。
何に支えられるわけでもなくヌルりと立ち上がる私ドール。
結構怖いよね。まぁ怖く見せるように動かしているんだけど。
「わがドール家は、自らが作った人形を自在に操れるのです。
この人形は私に似せて作りましたが、5割ほど不細工に作って正解でしたわね。
殿下は見た目で女性をお選びになるような方ですし、見事婚約破棄いただきましたから」
さっきからずっと目を丸くしている殿下は、私を見つめている。
バカが、レイラドールが王城に王妃教育に行く傍らに、メイドとしていた私をナンパしてきたようなクズに誰が礼を重んじるか。そして愛など芽生えるわけがない。
「今頃、王宮の殿下がお住みの区画は大慌てでしょうね。
半分ほどの従業員が動かぬ躯になっている筈ですわよ」
「は?」
「あぁあと、こうして卒業式を台無しにされたのですから、後始末はお願い致しますわね」
私はぐるりと見まわす。
皆不安な顔を押している。
それはそうだろう、ドール家を怒らせると後が怖いんだぞ。
それも知らぬとは、側近ともどもバカとしか言いようがない。
「私は在校生代表として、この学園の生徒会長としてこの卒業式を準備させていただきましたので、このパーティーの給仕はすべて私の魔法で自立稼働する人形ですわ。
私は不要で無能との事でしたので、人形への魔力供給を停めました。
抗議があれば、ドール家へどうぞ。
では、ごきげんよう」
私は綺麗にカーテシーをして前のレイラドールだけを抱えると会場を後にする。
その辺に転がっている人形はすべて”学校の備品”だ。
別に回収する必要もない。
私は魔法で馬車を操り家に帰りついた。
馬車の馬も人形である。私の魔力供給で操るタイプだ。
餌も要らなくて便利である。
メンテナンスに金が掛かるので結局チャラな気もするが。
「あれ、お早いお帰りですねレイラ様」
屋敷のメイド長リラが出迎えてくれる。
ちなみに、このリラ、お父様がお手つきした私の妹に当たるのだが、平民との子なのでメイドとして働いている。
ちなみに彼女の母はもう居ない。
それもあって幼少期から私のメイドとして働いてくれている。
ちなみに仲は頗る良い。
「ただいま。バカから婚約破棄されたから帰って来たわ。これで私も傷者ね。
結婚しなくて済むわ」
「侯爵家当主の言葉ではないかと…聞かなかった事に致します」
「別に貴女も居るじゃない」
「私では家督は継げませんよ」
「まぁそうね」
ちなみに、私が当主になったのは昨日の話。
バカ殿下が婚約破棄を企んでいるのを1週間前から人形を使って察知していたので、父に話し、国王陛下へ猛抗議して、先に婚約破棄の了解をもらっている。
第二王子がちゃんと状況を把握して騒ぎを起こさねば、婚約解消だけで済むが、事を起こせば廃嫡される事だろう。
そして、「じゃあ娘に家督譲って夫婦で隠居するわ!」と王都のタウンハウスを両親が後にしたのが昨日の話。
現在この侯爵家の屋敷には、私とリラの二人しか”人間”は居ない。
「むかついたから王宮の人形も全部切断してやったわ」
「今頃大騒ぎでしょうねぇ…王宮のメイドって半分はお嬢様の制御じゃなかったですか?」
「そうよ。人形本体の製作費は王城から貰っているから回収しないけど、動かない事については知った事ではないわ」
王宮で王族が快適に過ごす為の下働き達は、代々ドール家当主が制御をしている。
王宮に入る為には”身分がはっきりしている”必要がある為平民がおいそれと働きに入れない。
かといって貴族家を出た者が下働きなど働けるわけがない。
そこで、人員不足をドール家が下支えしているのだ。
その分お金を貰っているけれど。
因みに、ドール家は領地を持たない。
持っているのは王都のタウンハウスと別荘地にある屋敷だけ。
それ以外は”メイドや従者の仲介”で利益を上げている。
この国の貴族で、我が家の人形を1体も持っていない貴族など居ないだろう。
ちなみに、お父様は雇い主の好みの人形を作る事に関しては天下一品で、愛玩用として作られた人形も一定数ある。
私はその辺りが苦手だが、量を動かせる。
人形作成の時間さえあれば、王国騎士団を殲滅出来るだけの死なない軍隊も準備可能だ。
「仕方がない、今日の魔力供給をしよう」
私はメイド服から動き易いワンピースに着替えると、屋敷の執務室に向かう。
此処には大きな水晶体があり、ドール家が代々作ってきたドールへ一括で魔力を供給できるシステムになっている。
此処から魔力を供給してやれば、決められたプログラム通りの行動を毎日するのだ。
屋敷の掃除をするメイドや、花に水をやり庭の通路を掃除する庭師、屋敷前の護衛騎士など、ドールの種類は事欠かない。
壊れた場合のアフターサービスは10年まで。
それ以上経過して壊れた場合は契約終了である。
継続して使いたい場合は、新規に契約を結んでいただく事になる。
1体あたり金貨1,000枚、毎月金貨1枚の契約である。
普通のメイドさんのお給金が毎月金貨3枚~5枚なので格安だ。
食費も要らないし、故障メンテナンス費は10回まで無料なので。
「さて、今日の修理は3体かぁ」
「レイラ様、お手伝いいたします」
「よろしくねぇ」
リラと二人で大体1時間ほど。
3体の人形のメンテナンスが終わる。
動作確認をして問題もない事を確認。
後は勝手に歩いて帰ってもらう。
「しかし、愛玩用の修理は嫌ですねぇ」
「しょうがないわよ、男女ともにそういう使われ方をするから壊れ易いもの」
今日は修理の内1体が愛玩用の男性人形だった。
まぁどんな激しい使い方をしたのか、下半身が半壊していた。
女性人形についてもよく腰回りが壊れるが、たまに胸周りが壊れたものも来る。
せめて掃除してから修理に回してほしい。
「でも、一番儲かるんですもんねぇ」
リラがため息をつく。
愛玩用は販売価格が倍で、魔力供給価格は3倍もする。
それでも貴族は購入してくれるので、かなり儲けが出る。
だからこそ、わがドール家は初代から領地を持たないのだ。
リラとお茶をして寛いでいると、ノックされドアが開く。
「王城より使いの方がいらっしゃいました」
「あら、早かったわね第二王子殿下のかしら?」
「いえ、王太子殿下です」
「あらま、じゃあ直ぐお通しして」
私はリラに身だしなみを整えてもらい客間へ向かう。
王太子殿下が来られるとはどういう風の吹き回しか。
因みに、既に結婚されお子さんも居られる方だ。
「レイラ嬢、いやレイラ侯爵。弟が大変失礼をしたね」
「いえ、構いませんよ。10年来の懸案がなくなって清々しております」
「ははは、手厳しい。父上から聞いたが、国を出る気はないのだね?」
「えぇご心配なく。戦争を起こす気もありませんよ」
「それを聞いて安心した。君に本気を出されると国が転覆する」
「王太子殿下がこのまま王位についていただければその心配はございません」
殿下が真っ直ぐ私の目を見つめられる。
なので私も見返す。
実は殿下とはある密約を結んでいる。
「わかった、王となった日には約束を果たそう」
「えぇそうしていただける事を祈っておりますわ。でなければさっさとこの国を御暇いたしますので」
「大丈夫だ、問題ないよ」
がっちり握手をして、殿下は王城へ帰られた。
明日には第二王子廃嫡のニュースが入るだろう。
お掃除ができて良かったですわね王太子殿下。
「レイラ様。何のお約束があるんです?」
「あぁあれ?リラと結婚できるようにする法案等してもらうのよ」
「は?」
あ、リラが止まってる。
吃驚したかな?
「え、レイラ様なにを?」
「だって、リラ小さい頃から私と結婚したいって言ってたじゃない」
「え、あ、はい、言いましたね…」
「なので、結婚しましょう」
「いやいやいや、女同士ですよ!?」
「何か問題?」
「ドール家が潰えますよね…」
「大丈夫、そこも考えてあるから」
ふっふっふ、ドール家最大の成果がそろそろ誕生するのだ。
リラと結婚しても何の問題もない。
これからもドール家は安泰なのよ…ふっふっふ。
第二王子が廃嫡されてから3年。
王太子殿下が国王陛下に即位された。
即日施行された法律は、結婚に対する性別の廃止である。
そして、私はリラと結ばれた。
3年前のあの日、懐疑的だったリラだが、毎日愛を囁いて抱きしめて撫でまわして落とした。
私頑張った。
そして、ドール家が代々に渡り研究してきた成果も完成した。
そう”完成”した。
「さぁおいでローラ。新しいお母さんでお父さんよ」
「レイラ…それは混乱しませんか?」
結婚しても未だにメイド服なリラが胡乱な目で私を見てくる。
目の前にいるのは3歳ぐらいの女の子。
私とリラの血を継ぐ娘だ。
別名、ホムンクルスともいう。
「まさか、こんなものを作っていたとは…」
「ドール家の魔力にはドール家の血が最も向いていたのよ。無からホムンクルスを作るのではなく、私とリラの血を媒介に人を生み出す…ローラは間違いなく私たちと血の繋がった娘よ」
「大変恥ずかしい思いをしましたが…この為だったんですね」
「えぇ、私とリラに似て可愛いでしょ?」
「レイラおかあさま、リラおかあさま。ローラといいます。よろしくおねがいします」
ローラがたどたどしくカーテシーをする
「…よろしくねローラ」
「もうリラったら変な顔しないの。ほらローラおいで」
私はローラを抱き上げる。
ローラも嬉しそうだ。
「いろいろと心配なんですが…」
「3歳まで育ったから大丈夫よ」
実はこの研究何回も失敗している。
私のアレを使って何回か試したが1歳になる前に崩れてしまっていた。
今回、私とリラの”血”を使った事で、漸く形になったのだ。
やはり生命は血が混じらないとダメなのだろう…
「ローラはこれから侯爵令嬢として確り勉強しないとね」
「はい、レイラおかあさま」
「ローラ、まだ小さいのだから確り遊びましょうね」
「はい、リラおかあさま」
にっこり微笑むローラにリラも徐々に表情が柔らかくなってきた。
彼女には跡を継いでもらわないとけないからね、確り遊び確り学んでもらえば、今後もドール家は安泰でしょう。
当主まで”ドール”になりそうだけど…
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