魔物
レリアは自分たちが落ちた谷間の壁を見上げた。相当高い谷底に落ちたようだ。それにレリアたちに助けを求めた冒険者は何故レリアたちを谷底に落としたのだろう。冒険者は、自分が助かるためにレリアたちを谷底に落としたと言っていた。それまでブラオンとロザリアの言い争いを聞いていたシルビアが話し出した。
「どうやら我々は先ほどの冒険者にはめられてしまったようだな。あの冒険者が投げた宝石は爆発する魔法具だったようだ。我々をこの谷底に落とすのが目的なのだろう。皆周りに注意しろ」
シルビアの言葉にレリアたちは緊張の顔でうなずいた。すると、レリアをしっかりと抱きしめていたブラオンが叫んだ。
「何か来る!皆俺の後ろに隠れろ」
レリアを抱きしめるブラオンの腕に力が入る。ブラオンはレリアだけに聞こえる声で言った。
「嫌な気配だ。レリア、絶対俺から離れるなよ」
レリアは緊張しながらうなずいた。ブラオンの言った通り、暗い谷底の奥からズルズルと何かを引きずるような音が聞こえた。音の主は、ブラオンの灯りの魔法の近くまでやって来ると、恐ろしい姿をあらわにした。それは一見ヘビのような姿をしていた。だがヘビにしてはものすごく巨大だった。牛や馬などは簡単に飲み込んでしまえそうだ。そしてヘビの頭から背中にかけてトゲのようなものがびっしりと生えていた。
ヘビのバケモノは人間の言葉でレリアたちに言った。地をはうような恐ろしい声だった。
「獲物は人間が三人に霊獣が一匹か。悪くない食事だ」
レリアは突然現れた化け物に恐怖を感じ、ブラオンにしがみついた。ブラオンは低い声で言った。
「こいつは魔物だ。おそらく捕らえられた冒険者たちはもう死んでいる。俺たちはさっきの冒険者に、新たな犠牲者として谷底に落とされたんだ」
レリアは心配そうにブラオンに聞いた。
「ブラオン、勝てる?」
ブラオンはチラリとレリアを見てから、後ろのシルビアたちを見て言った。
「レリア、後ろのシルビアたちを守りながら魔物と戦うのは難しい。レリア、よく聞け。俺が魔物から守る防御壁を作る。そうしたら俺は巨大化した姿になるからレリアたちは俺に飛び乗れ。まずはこの谷底から脱出だ」
レリアはうなずいた。ブラオンは強力な火防御壁魔法を発動した。魔物とレリアたちを炎の壁がへだてる。レリアは後ろのシルビアたちに叫んだ。
「皆!早くブラオンに乗って!ここを脱出しましょう!」
ロザリアは顔を青ざめさせながらうなずくが、シルビアは何故か苦笑しながら答えた。
「いや、魔物は私たちに任せてくれないか?できれば私の事を嫌いにならないでもらえたら嬉しい」
レリアはシルビアの言う事がわからず首をかしげた。私たちとはどういう意味なのだろうか。レリアか不安げにシルビアを見るとシルビアはおもむろに自らの鎧の下の腹を出した。シルビアの白い肌には、彼女には似つかわしくない剣のイレズミがされていた。シルビアはイレズミの剣をつかむようなしぐさをした。すると、驚いた事にシルビアの腹から剣が出てきたのだ。その剣はとても大きな大剣だった。そしてさらに驚く事に、剣が話し出したのだ。
「久しぶりのシャバだぜ!シルビア、アイツを倒すんだな!」
「ああ、グラディウス。頼む!」
シルビアは大剣と会話をした後、グラディウスと呼ばれた大剣は光だした。するとシルビアの右手と大剣は、まるで大地に根をおろした大木のようにしっかりとくっついてしまっていた。話をするおかしな大剣とくっついたシルビアは、人間とは思えない速さでヘビの魔物の前に踊り出た。レリアは悲鳴のような声で叫んだ。
「シルビア!危ない!」
ヘビの魔物はその巨体に似合わずものすごい速さで移動し、強力な攻撃魔法をやたらめったら放った。攻撃魔法は、ブラオンの作った火防御壁魔法にぶち当たる。だがブラオンの作った防御壁はビクともしなかつた。
レリアは防御壁からシルビアを心配そうに見つめた。だがシルビアは素早い身のこなしで、ヘビの魔物の攻撃魔法を避けていた。ヘビはシルビアを嫌がって徐々に後退していく。シルビアはしつようにヘビを追いかけ、そして大剣を構えた。そして目にもとまらぬ速さでヘビの魔物を斬りきざんだ。ヘビの魔物は細かく斬り刻まれ、ボトボトと地面に落ちた。レリアたちの目の前に起きた事は一瞬の出来事だった。レリアはただただぼう然とシルビアの背中を見つめていた。
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