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谷底

 レリアたちは辺りの気配に注意しながら息を殺して森の中を進んだ。やがて、冒険者の男が言っていた山賊の隠れ家の側だという谷間にさしかかった。その谷間はとても深く、人が隠れられるような場所にはとうてい思えなかった。レリアが不思議に思って、冒険者の男を振り向くと、男は顔を真っ青にしてブルブル震えながら叫んだ。


「これしか方法が無かったんだ!生け贄を連れてくれば俺だけは助けてくれると言ったんだ!悪く思わんでくれ、うらむなら何の疑いもせずに俺の話を信じた自分たちをうらんでくれ!」


 冒険者の男は、まるで自分を弁護すかのように大声でまくし立てると、手に持っていた何かをレリアたちの前に投げつけた。レリアが地面に叩きつけられた物を見ると、それは輝く宝石の原石のように見えた。するとその原石は突然爆発した。谷間を覗きこんでいたレリアたちの立っていた地面に亀裂が入る。レリアの契約霊獣のブラオンが叫んだ。危ない、と。その言葉の直後、レリアの身体が落下し始めた。レリアたちは谷間に落ちてしまったのだ。


 レリアは恐怖のあまり、声にならない悲鳴をあげた。このままでは谷間の底に叩きつけられてしまう。だが、しばらくするとレリアの落下が止まった。何か温かいものに包まれるような感覚。レリアはその理由がわかって安心したように、レリアを包んでくれているものにしがみついた。



 ロザリアは悲鳴をあげながら落下を続けていた。ロザリアは混乱する頭の中で、何かこの窮地から逃れる魔法はないかと考えた。だが焦るばかりで何も思い浮かばなかった。こんな事で自分は死んでしまうのだろうか、ロザリアは落胆した。ロザリアはやっと魔法学校を卒業し、冒険者になったのだ。これから沢山の冒険をして、素敵な恋人を見つけるはずだったのに。ロザリアは残念で仕方がなかった。だが、突然ロザリアの落下が止まり、フワフワと身体が浮いているのがわかった。そしてそのままロザリアは谷間の底にゆっくりと落ちていった。


 これはロザリアの魔法ではない。シルビアは魔法の素養が皆無だといっていた。それなら残るは、レリアの契約霊獣ブラオンの魔法だろう。ロザリアたちは危なげなく谷底に降り立った。真っ暗やみだったその場に光の火魔法が浮かび上がった。ぼんやりとした光がロザリアたちを照らし出す。レリアが言った。


「二人とも無事?」


 ロザリアは声のする方に振り向いた。そして驚きの叫び声をあげた。


「ちょっとレリア!誰なのその美少年は!」


 レリアはそんじょそこらではお目にかかれないような美少年にお姫さま抱っこされていたのだ。美少年はロザリアをにらみながら、レリアを抱きしめて離さない。レリアはキョトンとした顔をして言った。


「?、何言ってるのロザリア。この子はブラオンよ?」

「ええ!この美少年が毛玉なの?!」


 レリアは美少年ことブラオンの胸をポンポンと叩いた。ブラオンはしぶしぶといった顔でレリアをおろした。だがブラオンの腕はちゃっかりレリアの細い腰に巻きついている。レリアはスタイルがいい、出るところは出て、腰はキュッとしぼられている。ツルペタなスタイルのロザリアとは大違いだ。ブラオンはロザリアをキッとにらみながら言った。どうやらブラオンは人型をとると、人間の言葉が話せるようだ。


「おい!チビ女、俺は毛玉なんかじゃない!ブラオンだ!」

「口悪!私だってチビ女じゃないわよ!」


 ロザリアはブラオンにくってかかる。みかねたシルビアが口をはさむ。


「ロザリアも毛玉も落ち着け、今はそんな事を話している場合ではないだろう」

「俺は毛玉じゃねぇって言ってんだろデカ女!」


 シルビアは素直にブラオンにわびた。


「それはすまなかった。ブラ・・・、長いからブーちゃんでいいか?」

「いいわけねえだろ!何でロザリアは呼べてブラオンは呼べねぇんだよ!ていうかお前ら、もふもふで可愛らしい俺に反応薄すぎるんだよ!女ならもっと俺を褒めそやせよ!」


 ブラオンはどうやらロザリアとシルビアがポメラニアンの自分を可愛がらないのを不満に感じていたようだ。どうやらブラオンは女は無条件で動物を可愛いと思うと考えているようだ。ロザリアは人さし指を振って、チッチと舌打ちしながらブラオンに言った。


「いい事毛玉。女の子は皆モフモフが好きだと思ったら大間違いよ?レリアのように動物が大好きな人もいれば、私みたいに男の人の前だけ動物好きをアピールする女もいるのよ。それに、犬嫌いのシルビアもいるしね」


 ロザリアの言葉にレリアは驚きの声をあげた。


「えっ?シルビア犬苦手だったの?!」


 レリアの言葉にシルビアは苦笑いをしながら答えた。


「面目ない。幼い頃、剣の師匠と共に魔の森に迷い込んでしまってな。どうやらケルベロスのテリトリーに入ってしまってな。命からがら逃げたんだ。だからそれ以来犬は少し苦手でな。だがブーちゃんは小さいからそんなに怖くないぞ?」


 ブラオンはバツが悪そうに顔をしかめてから言った。


「べ、別にかまわねえよ。良かったな、ケルベロスにやられなくって」


 ロザリアもついでにブラオンに言った。


「私だって毛玉の事、ちょっとは可愛いって思うわよ?でもお洋服に毛がつくから近寄らないでくれる」

「一言多いんだよチビ女!」


 それまで黙っていたレリアが言った。


「ねえ皆、そろそろここから抜け出さない?」



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