謎の美少年
男たちはしめし合わせてニヤリと笑った。今回の商品はかなりの上玉だ。娘が三人、無防備に食事をしていた。男たちが酒をすすめるが、一番年長者と思われる剣士の女が男たちをいぶかしんで三人分の酒をすべて飲んでしまった。強力な睡眠薬入りの酒を。残りの二人も世間知らずなようで、女剣士が身体を張って守ってくれたのにもかかわらず、睡眠薬入りのジュースを飲んで寝こけてしまった。
男たちは三人娘のツレのふりをして、店員に食事の代金を支払った。娘三人の食べた食事にしては、かなりの高額だったが仕方がない、先行投資だ。男の一人は女剣士を背中にしょって、もう一人の男は娘二人を小脇に抱えて酒場を出た。足元に小さなポメラニアンがまとわりついて来たが無視した。きっと三人娘の誰かのペットなのだろう。
男たちは三人娘を抱えて、町外れの丘までやってきた。抱えていた娘たちをしばふにおろす。見れば見るほど美しい娘たちだ。女剣士は長身で黒髪の美人で、ローブを着た小柄な娘はプラチナブロンドの美少女だ。三人目のブラウンの髪の娘は健康的な美しさをしていた。
男たちは自分たちの仕事ぶりに満足した。男たちは女衒だった、若い娘をかどわかして金持ちに売りさばくのだ。男の一人がひとり言のようにつぶやいた。
「商品を客に販売するにはまずは具合を確かめなけりゃなぁ。この黒髪の女は俺好みだ」
もう一人の男もニヤニヤ顔でうなずく。
「俺はブロンド娘とブラウンの髪の娘がいいな」
「ロリコンめ」
男たちは笑いながら娘に手を伸ばそうとした。すると、背後で声がした。
「それ以上そいつらに触れてみろ、焼き殺してやる」
男たちが後ろを振り向くと、そこには星明かりに照らされた美少年が立っていた。美少年の身長は男たちの肩くらいまでしかなく、腕っぷしで負けるとは思えなかった。もしかするとこの美少年は娘たちの誰かの恋人なのかもしれない。男たちはうすら笑いを浮かべながら言った。
「やいチビ、お前一人で俺たちにかなうと思っているのか?ケガしないうちに消えな」
美少年は美しい眉を寄せてため息をついて言った。
「俺のレリアに触れた事、万死に値する」
美少年がそう言った途端、男たちの目の前に大きな炎魔法が出現した。男たちは慌てて逃げようとするが、身体が炎に巻かれた。男たちは叫び声をあげてしばふに転がり続けた。
美少年は叫び声をあげている男たちに見向きもせず、ブラウンの髪の娘を横抱きに抱き上げた。まるで大切な宝物のようにギュッと抱きしめる。そして黒髪とブロンドの娘たちに一べつすると、娘たちはフワリと空中に浮いた。美少年は何事もなかったように歩き出した。美少年の後には二人の娘がフワフワとついて行く。
レリアは激しい頭痛と吐き気で目を覚ました。グワングワンと頭がゆれて、今にも倒れそうだ。レリアが必死に上半身を起こし辺りを確認すると、そこは宿屋のベッドの上だった。レリアは不思議に思った。何故こんなに頭が痛いのか、昨夜シルビアたちと夕食を済ませた後の記憶があいまいだったのだ。
『やっと起きたかねぼすけが』
レリアに声をかける者がいる。振り向かなくてもわかる、レリアの契約霊獣ブラオンだ。レリアはブラオンに視線を向けながらおっくうそに言った。
「おはよ、ブラオン。私何でこんなに頭が痛いの?」
『あきれた!昨日の事覚えていないのかよ?』
レリアがうなずくと、愛らしいポメラニアンはハァッとため息をついてから言った。
『昨日酒場に来た男たちは女衒だったんだ』
「ゼゲン?って何?」
『女衒てのはな、レリアみたいな世間知らずの娘を誘拐して金持ちに売る仕事の事だ』
「何それ!ヒドイ!昨日の男たちはどうしたの?」
『俺が二度と女衒の仕事ができないように適度に焼いておいた』
「じゃあブラオンが私たちを助けてくれたの?!ありがとう!」
『当然だろ!俺はレリアの契約霊獣なんだからな!』
レリアは嬉しくなってブラオンを抱きしめた。ブラオンはシッポをピコピコふっている。ブラオンはレリアの頬に自分の鼻をチョンと押し付けた。するとレリアが感じていた頭痛と吐き気は瞬時に回復した。どうやらブラオンが火回復魔法を使ってくれたようだ。レリアはブラオンに頬ずりした。
ベッドで寝ていたシルビアとロザリアも頭をおさえながら起き上がった。レリアはブラオンに頼んで二人にも火回復魔法をほどこしてもらった。
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