街に忍びよる魔の手
レリアたちが宿に戻ると、パトリシアの乳母ダリアがヤキモキしながら待っていた。ダリアはパトリシアの姿を見ると、悲鳴をあげた。パトリシアには美しいお姫さまの面影はなく、口のまわりは何かのタレで汚れ、服はみそぼらしく、しかも所々泥に汚れ、レリアの契約霊獣ブラオンの毛がくっついていた。
これは、ロザリアがパトリシアに買い食いした食べ物を食べさせたのと、原っぱで駆け回って、モフモフのブラオンを抱っこしたからだった。パトリシアのあまりの様相にダリアがブルブル震えて怒っていると、それにはちっともとんちゃくしないパトリシアが、ダリアに抱きついて言った。
「ダリア!とってもとっても楽しかったの!ダリアにおみやげがあるのよ?ドーナツ!すごく美味しんだから」
嬉しそうにはしゃぐパトリシアを見たダリアの顔がゆっくりと穏やかになる。そしてまとわりつくパトリシアを優しく抱きしめた。きっとダリアは、パトリシアの事をとても愛しているのだろう。レリアは暖かい気持ちになった。
翌日は、ベルケル子爵がパトリシアたちをボート遊びに招待してくれた。当然レリアたち護衛も一緒だ。馬車で一時間ほど行くと街の郊外に、大きくて穏やか湖が広がっている。パトリシアは、ダリアとシルビアと船頭とボートに乗り込み大はしゃぎた。ベルケル子爵はレリアとブラオン、ロザリアもボートに乗せてくれた。ベルケル子爵は湖のはしにしつらえたイスにどっかりと座ってパトリシアたちを満足そうに見つめていた。レリアは思わずつぶやいた。
「のどかねぇ」
その日はとてもいい天気で、日の光が水辺に反射して、キラキラと光り輝いていた。レリアの膝の上で寝ているポメラニアンのブラオンも気持ち良さそうだ。ブラオンのフワフワの毛がそよそよと風にゆれている。
その時は突然やって来た。ドーンッと大きな音がしたかと思うと、街の周辺の空が真っ赤に染まった。レリアは突然の出来事に悲鳴をあげて、自身の契約霊獣に叫んだ。
「ブラオン!何かしら?!」
『わかんねぇ!だが、すげぇ魔法の力を使った奴がいる。街が攻撃されているんだ!』
レリアたちはただちに湖から上がった。パトリシアはダリアに抱きつきながら不安そうだ。シルビアはパトリシアの側で膝をつくと、優しい声で言った。
「パット。街で何か起きているようだ。私たちは街の人たちを助けに行く。パットはダリアたちとここで待っていてくれるか?必ず迎えに来る」
パトリシアは恐怖におびえながらも、しっかりとうなずいた。シルビアもうなずくと、立ち上がりベルケル子爵に声をかけた。
「ベルケル子爵、街が何者かに攻撃されているようです。貴方もここで待っていてください」
「いや、わしはグレブンの街の領主じゃ。わしはグレブンの民を守らねばならん」
ベルケル子爵の決意に、シルビアはうなずいた。レリアたちはこの場に残るパトリシアとダリアに三人の兵士を護衛につけた。そして大きくなってもらったポメラニアンのブラオンに、レリアとシルビア、ロザリアとベルケル子爵が乗った。ブラオンは風のようにグレブンの街に飛んだ。
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