シルビアと魔剣
シルビアは夜中に目を覚ました。ベッドを見るとレリアとロザリアはぐっすりと眠っていた。無理もないだろう、今日は魔物に襲われたのだから。そして魔物のえじきになった死体を沢山目の当たりにしたのだ。レリアもシルビアも夕食はのどを通らなかった。それはさすがのロザリアも同様だったらしく食事を残していた。
シルビアは不安に思う事があった。それは、今日魔物から助けてくれた魔剣グラディウスもまた魔物なのだ。レリアとロザリアはグラディウスとシルビアの事をどう思っただろうか。シルビアの事を気味が悪いと思ったのではないだろうか。そう考えるとシルビアは眠れなくなってしまったのだ。
シルビアは眠る事をあきらめた。窓を開けて、窓から宿屋の屋根に登った。身体を鍛えているシルビアには造作もない事だった。シルビアは屋根の上から夜空を見上げた。月と星はおだやかにシルビアを見下ろしていた。
シルビアは剣士の父と町娘の母の一人娘として生まれた。おそらく父は男の子が欲しかったのだろう。自分の後を継ぐ剣士が。だが生まれたのは娘のシルビアだった。父は大きな剣道場を開いていた。道場には多くの弟子がいた。幼いシルビアは、自分も父に剣の指導をしてもらいたいと願った。だが父は首をたてにふらなかった。女が剣を持つものではないと考えていたからだ。それでもシルビアは剣の道をあきらめきれなかった。根負けした父は、シルビアを友人の剣士に預けた。その剣士がシルビアの師匠になった。
シルビアの師匠は人嫌いで一人山に暮らしていた。だが冒険者でもあるので、依頼がくると剣をたずさえ旅に出た。シルビアは幼い頃から剣の師匠と共に色々な場所を旅し、剣の修行をした。そしてシルビアが十八歳の時、師匠から免許皆伝を言い渡された。だがその時、師匠の元にある依頼が舞い込んだ。それは魔剣の処分だった。師匠のところにやって来た魔剣には鞘が無かった。この魔剣の鞘は人間なのだ。この魔剣は人間に取り憑き、魔物を斬っているのだそうだ。そして取り憑かれた人間が動かなくなると、また別の人間に取り憑いて、その人間を操り魔物を斬るのだ。
師匠はこの魔剣を一目見て危険を察知したようだ。師匠はこの依頼を辞退しようとした。剣の専門の自分より魔法使いに頼んだそう方がいいと助言した。だがこの依頼を持ち込んだ相手はどうしても引き下がらなかった。仕方なく師匠が魔剣を手に取った瞬間、魔剣が話し出したのだ。
「やっと見つけた。俺にとって最高の鞘だ」
魔剣はすぐさま師匠の精神を支配しようとした。師匠は強靭な精神力で、魔剣の支配を押さえ込んだ。師匠は怯えるシルビアに言ったのだ。
「シルビア!これから俺はこの魔剣で命を絶つ。お前は決してこの魔剣に触れるでない。魔法使いを呼んでくるのだ。いいな」
そう言って師匠は何のためらいもなく自分の首をはねようとしたのだ。これには魔剣も驚いただろう。魔剣は師匠をどうにか支配しようとした。だが師匠の強靭な精神の方が上手だったようだ。シルビアは思わず叫んだ。
「魔剣よ!師匠から離れてくれ。そうすれば私がお前の鞘になろう!」
すると、師匠を操ろうと奮闘していた魔剣は、シルビアに向けて飛んで来た。魔剣はシルビアの腹に突き刺さると、ズブズブとシルビアの体内に入りこんでしまった。
シルビアの師匠は怒り狂った。魔剣に対しても、そしてシルビアに対しても。師匠はすぐに魔剣を出せとシルビアに要求したが、シルビアは言う事を聞かなかった。師匠は仕方なくシルビアに魔剣を任せる事にした。
シルビアは魔剣を使いこなすため、さらに二年の修行を経て冒険者になる事を許されたのだ。
シルビアは冒険者の資格を取りに行く道すがら、魔物に襲われる事もあったが、魔剣の助けを借りて危機を回避する事ができた。魔剣と共に過ごしてもう二年になるが、魔剣は案外いい奴だった。たまに会話もした。だがシルビアは不安に思う事もあった。シルビアは普通とは違うのだ。腹から魔剣を取り出して戦うシルビアは異常だ。したがって、シルビアは普通の人たちと触れ合ってはいけないのだ。だが、冒険者協会でレリアに話しかけられ、思わず仲間になってしまった。
レリアとロザリアと過ごした日々はとても楽しかった。シルビアはずっと剣の修行しかしてこなかったので、同年代の友達もいなかったのだ。シルビアにとってレリアとロザリアは、初めてできた友達だったのだ。
だがシルビアが魔剣を腹の中に入れている事を知って、きっとレリアもロザリアも、シルビアの事を気持ち悪いと思うだろう。もしかしたらパーティを解消されるかもしれない。
だがシルビアが一番許せなかったのは自分自身だった。口では魔剣グラディウスは自分の友だといっていながら、本心では自分は普通の人間であって、おかしいのは魔剣だけだと心の底で思っている事だ。
シルビアは自分が許せなくなり、腹の中のグラディウスに声をかけた。
「グラディウス、今日は助けてくれてありがとう」
「なぁに、あんなさんしたの魔物なんぞ俺にかかれば瞬殺よ」
「ああ、やはりグラディウスは強いな」
「・・・、どうかしたのか?シルビア。元気がなさそうだぞ?」
「いや、少し疲れただけだ。心配ない」
「なら早く寝ろよ」
シルビアは自分の腹を撫でながらうなずいた。グラディウスは魔物なのにとても優しい。それはシルビアが自分の鞘という事もあるだろう。だがグラディウスはシルビアにとって大切な仲間なのだ。シルビアは、どんな事になっても彼を大切にしようと思った。
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