第6窯 冬空とトルたくと
この物語は、ひょんなことから巻き込まれた大学生 千里大次郎が、焼き物の精霊 焼き物ちゃんと、
がっつり傾いて潰れかけの喫茶店を今一度盛り上げる物語である。
「調査の費用も必要かもしれませんので、先にお礼をお預けします。見つからない場合、返して頂きます。」
そう言って、依頼人は帰りがけに封筒を置いていった。
中身を見ると20万円ほど入っていた。
たくあんに20万円だと!!
ちょっぴり目眩しながら、厨房に戻る。
再び厨房に戻る。
唐津焼ちゃんと、九谷焼ちゃんは探偵の格好のまま、
話をしている。
「ふうむ。依頼人の留守を狙って被害者を拉致。痕跡をまったく残さないとは、かなり計画的な犯行だな・・・」
「…大きな犯罪組織も絡んでるかも…」
「そうだな、、その線も捨てきれない」
ため息を大きくつき、話かける。
「お前ら、この状況を楽しんでるだろ」
とりあえず困ってはいたからやれることはやろう。
どんな事件でも、人を助けることに変わりはない。
といっても、八百屋さんに聞いて、メーカーに電話し、、
もしそれでも見つからなかったらその時は仕方ない。事情を話、お金をお返ししよう。
そこまでのお手伝いだ。
そんなことを思いながら、コートを取り外出の支度をする。
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ピンポーン
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再びインタホーンがなった。
また依頼者か!?それとも108つの別のサービスの依頼者か!?
この店のインターホンが鳴ると、ろくなことはないと学習したばかりだ。
足早に扉に向かい、不安な気持ちでドキドキしながら、ドアを開ける。
今度は作業服を着たおじさんだった。
「あのー電機業者の者ですが、電気料金を頂きたく、先月お支払い頂いてないようで・・・」
そういっておじさんは、払込用紙を差し出しながら、言葉を続ける。
「いえね、普段はメーターをチェックして、ポスト投函させて頂くのですが、
このお店のポスト、何回入れても出てきてしまうんです。」
おじさんは困惑した顔だ。
「心霊現象みたいな変なことを言っているのは重々承知なんです。でも、本当に入れたと思ったら、出てくるんです。
なんか変だなー変だなーと思って、、、それでこちらに直接お持ちした次第です。」
「ほう、ポストに請求書が入らない。それはおかしな話ですね。」
そう言いながら、焼き物ちゃんの方に目線を向ける。
「…私の絶対防御壁を、こんな風にすり抜けてくるとは…」
九谷焼ちゃんが何か言っている。
10000%こいつの仕業だと確信した。
ポストに何か細工をして、請求書が入らないようにしているのだろう。
なんてこすいことをしてるんだ。
唐津焼ちゃんは”今、お母さんがいないから受け取れないと言え”と書いたプラカードをもっている。
そんな子供の言い訳は流石に無理がある。
「わざわざありがとうございます。まとめてお預かりします。」
「ありがとうございます。それではこちらよろしくお願いします。」
支払い用紙をまとめて受け取り室内に戻る。
あのばかちん焼き物共に声を掛ける。
「お前ら、ちょっとこっちに来なさい。」
唐津焼ちゃんと九谷焼ちゃんがおずおずと近寄ってくる。
「ポストに払込用紙が入らないようにしちゃダメでしょうが!」
2人はバレたという顔をしている。
「良いですか。使ったものは支払わなければいけません。」
「だ、だけどよタイジロウ。」
唐津焼ちゃんはバツが悪そうだ。
「だけどよじゃ、ありません!!」
ここはピシャリと言わなければいけない。
「ウチにそんなお金ないよ。」
そうだった、、ここは潰れかけ、というか潰れた喫茶店だった。
ちなみに支払わなければいけない金額はいくらなんだろうか。
電卓を使い計算する。
「2ヶ月で、に、20万円・・・・」
知らなかった。喫茶店経営とは光熱費で、月10万円もかかるのか。
この小さいスペースでもこのくらいだ。
駅前の大型喫茶店オノワールは途方もない額だろう。
改めてお店を続けていくことの難しさを知る。
しかし、電気、水、ガス。使ったのは紛れもない事実だ。
これは全て払わなくてはいけないものだ。
そして俺はある決意をする。
「お前ら…たくわん失踪事件、全力で解決するぞ!!!」
こうして、たくあん失踪事件は幕を開けた。
店内の一番奥の、4人がけのテーブル席。
そこに『たくあん失踪事件捜査本部』が作られた。
メンバー、俺、唐津焼ちゃん、九谷焼ちゃん。
それぞれの顔からはこの難事件を解決せんと並並ならぬ気合いを感じる。
それでは今から、たくあん失踪事件。第1回報告会をはじめる!」
まずは唐津焼捜査員から!
「はい、被害者に心当たりのありそうな漬物屋にはあらかた電話をかけましたが、取り扱いはありませんでした!」
九谷焼捜査員!
「…あらゆるネットショップを見ましたが、通販の取り扱いはなかったです…」
この2日は、ネットであらゆる検索をすることに時間をかけて、ネットは検索の仕方がとても大事だ。
あらゆるキーワードのパターンで探す。しかし、それも徒労に終わったようだ。
「なるほど。やはり、ネットとたくあんは相性が悪いな...仕方ない。外に出るぞ」
・・・
・・・
2人は答えない。
「どうした?外に行くぞ?」
聞こえない振りをしている。
「行くぞおおおおぉぉぉおお!!」
外に出ることをめんどくさがるアホ2人を連れ、
冬空の下、被害者の姿を最後に見たという八百屋さんに向かった。
八百屋さんの名前は、竹下青果。
店先に段ボールやカゴに入った野菜と果物が並び、威勢の良い店員達がその日の特売情報を発信している。
「右奥の黒酢コーナーの隣に、いつもあの子はいたんです。」
依頼人は涙ながらにそう語った。
たくあんのことを”あの子”という時点で中々に仕上がっている。
言われた通り黒酢のコーナーを探そうとしたが、すぐに分かった。瓶が大量に置かれており、驚きの健康をあなたに!のポップが異彩を放つ。
その横に漬物コーナーはあった。
依頼主が探していたのはなんて名前だったか。
スマホのメモを見る。
メモには、
”田舎育ちのトルネードスクリューたくあん”
とある。
なんのこっちゃ分からないが、同じ名前のものは見当たらない。
忙しそうに品出しをしている店員さんに声をかける。
「あの、すみません。」
「はい、なんでしょうか!?」
「…田舎育ちのトルネードスクリューたくあんを探しているのですが」
「ああ、トルたくね」
「あれはもう入ってこないんだよね〜作ってるところが生産をやめちゃってさ」
「そうなんですか。。」
「結構攻めた味だったから。」
たくあんに攻めた味があるとは。。たくあん界の奥深さを感じている。
しかし何とか確保せねば、光熱費のために。
「トルたく大好きな人がいて、最後に1つだけ食べたいと言われ探しています。何か心当たりはありませんか?」
「んー、最近で見かけたことはないなぁ。。。送ってくれていた製造元を教えるので、電話をかけてみたら?」
そうして次なる手がかりの電話番号をもらい、店を出た。
外は12月。冷え込む季節。
いつまでも同じものを売ってそうな”たくあん”だって本当は入れ替わっている。
同じに見えるが違うのだ。
いつまでもあると思い、うっかりしていると無くなってしまうのだ。
「これは喫茶店も同じだよな。」
ポツリと独り言をつぶやく。
白い息を吐きながら、トルたくの足取りを追う。
つづく