第3窯 作戦会議
第3窯 作戦会議
この物語は、ひょんなことから巻き込まれた大学生 千里大次郎が、焼き物の精霊 焼き物ちゃんと、
がっつり傾いて潰れかけの喫茶店を今一度盛り上げる物語である。
物語は千里大次郎の視点で進む…
「はい!話がそれちゃったけど、この風前のともし火のお店を立て直すための、会議を始めますよ!」
唐津焼ちゃんが音頭を取る。
この子が司会をしなければいけない時点で、結構先が思いやられる・・・
そんなことを思いながら、まずは方針を聞いてみようと、メモの準備をする。
「では、大次郎くん!あとはまかせた!」
「いきなりかよ!!」
0文字でバトンが回ってきた。
これを無茶ブリと言わずなんと言うのだろうか。
この自分で考えようとしない最近の若者なのか、いやこいつらはそもそも若者なのか
そんな思考が巡る。
多少上がった血圧を押さえ、唐津焼ちゃんに目をやる。
奴は既に、自分の仕事は終わったと言わんばかりに、饅頭を食べながら茶をすすっている。
本来なら、お前がやれと言うべきなんだろうが、俺は知っている。
こういうやつは意地でも動かない。
その意思があるならばやれるのでは?と思うくらいに動かないのだ。
寝不足そうな九谷焼ちゃんは既に軽く寝落ちしかかっている。
これは俺がやるしかないのか…
責任感だけは無駄にある性格が災いしている気がする。
ただこの「焼き物ちゃん」という存在にちょっと興味があるのも事実だ。
何よりこの店をどうにかしたいという気持ちは一緒だ。
「わかったよ。。まずは現状を整理したい。色々質問するから答えてくれよな。」
「ありがとうー!もちろんです!」
唐津焼ちゃんは邪気のない笑顔をこちらに向けてくる。
ちょっとだけ考えた後、まずは核心をついてみることにする。
「じゃあ、まず、、”焼き物ちゃん”ってなんだ?」
「見た通り、焼き物の精霊だよ〜」
まったく答えになっていない答えが返ってきた。
質問を続ける。
「焼き物ってのは、食器ってことだよな?」
「まあ、大きくいったらそうだけど、各地の職人さん達が、その土地の土や素材を使って、何回も何回も工程を経て生まれる、
すごく手間と想いがこもったものなんだよ!」
なんとなく得意げな表情だ。
そういえば、日本に住んでいるのに焼きものに関心を持ったことはなかったな。
なんとなく、お金持ちや年配の方の趣味なのかと思い込んでいた。。
「私たちは自由きままな存在。持ち主さんと一緒に長い年月過ごすお守りみたいなものなの!」
こいつは守るというより、より災いをもたらしそうだが。。。。
「あー信じてないなー!!!」
ブーブー言う唐津焼ちゃんを無視して話を進める。
自由きままというのは憧れる。
俺も目の前で饅頭を頬張る、こいつらみたいな生活をずっとしていくのが夢だ。
「他にも焼き物ちゃんたちはいるのか?」
「はい…います…」
今度は、九谷焼ちゃんが答えてくれた。
なんと他にも、まだいるらしい。
「他の焼き物ちゃんたちはどこにいるんだ?」
「みんなは…出稼ぎにいっています…」
前言撤回、焼き物ちゃんたちも大分大変そうだ!
「どうして出稼ぎに?」
「お店を守るため…それぞれができることをやろうとなりました…私と唐津焼ちゃんはお店を守り、他の子は何かお店を盛り上げるヒントを探しにいっています。」
淡々と喋る九谷焼ちゃん。その表情から感情を読むことは出来ない。
「なるほど、、それは大変だ、、、ところでどうしてこの店は閉店することになったんだ?」
今度は唐津焼ちゃんが答える。
「そりゃあ、1番はお客さんが来ないからだよ!常連さんもどんどん減っちゃったしね」
聞いていてちょっと心が痛む。
とても大切な場所と思っていたのに、どうして自然に足が遠くなるのだろうか。
いや、自然にまかせているからなのだろう。
本当に大切な場所ならば、意識して通い、守っていかないといけないのかもしれない。
「おじいさまの...ノリと丼勘定の経営スタイルも問題かもしれない...」
九谷焼ちゃんが続ける。
「それはそれで大いに問題がありそうだ、、、そうだ!あともう1つ思っていたんだが、、このビルこんなに入りづらかったか?」
お店に人が来ない。
と言われた時に感じたのがこれだった。
店は雑居ビルの2Fにある。
割と薄暗くはあるけれど、逆にそこが秘密基地ぽくて、入るのに抵抗はなかった。
しかし、何か人を寄せ付けないと言うか、、入るといいことがない気がしてしまうというか、、、
とにかく負のオーラに満ちているのだ。
「特に前と変わってるとこなんて無くて、感覚的な話で申し訳ないんだが…」
話ながら、もう少しまとまなことから話せば良かったと若干後悔。
「う”、気付いちゃった!?」
唐津焼ちゃんから意外なリアクションがある。
「気付いちゃったとは?」
思わぬ、温泉を掘り当てたようで、興味が湧く。
「実は…このビルには秘密があるの。」
唐津焼ちゃんは声のトーンを1つ落として話し始める。
>>つづく