第1窯 唐津焼ちゃん登場!
一生のうちに何度かある馴染みの店との別れ。
といってもその頃にはすっかり疎遠になり、なんかの拍子に閉店になることを知って、
慌てて駆けつけるという、なんちゃって常連なことがほとんど。
俺にとってはこのカフェ「ラヴァニア」がそれにあたる。
割と街の中央にありながら、雑居ビルの2Fで普通の人じゃ気づかない。
人が苦手で、人目を避けたい奴らが、探してたどり着くような場所だ。
相当な陰キャだった俺も例に漏れず、高校生の時に毎週のようにこの店に通った。
大学進学してからは、何故か疎遠になってしまった。
この店のコーヒーは湯呑みに入って出てくる時がある。
こっちの方がたっぷり飲めて、自分はお気に入りだ。
湯のみは土の温かみが感じられる灰色でシンプルな色合い。
ワンポイントで描かれている鳥らしき絵が、有象無象の器に埋もれるのを阻止している。
無骨ながら、持った時に感じる温もりが大好きだった。
「手に馴染むし、本当良い湯のみだよな〜。」
思い出の品として、いつまでも持っていたい。
そんな気持ちが独り言として口からこぼれた。
「ほぅ。。その湯のみ、そんなに気に入ってくれてるのかい?」
独り言のつもりだったが、聴かれいたのか、マスターのじいさんが話しかけてきた。
「今まで器なんて全部同じだと思ってたけど、この湯のみは何か、、ずっと持っていたいというか、相棒のような、、そんな気持ちになるんだよなぁ。」
普段家で出される飯を食い、食器など一切関心を持っていない自分からは、考えられない言葉が出る。
「ほう、そうかい。お前さんも”焼き物”の良さが分かる年になってきたんだろうねぇ。焼き物はパートナーなんだ。焼き物を選び、焼き物に選ばれる。」
店内を見渡すと、まばらに客が入っている。
皆、この店との別れを惜しんでいるように見える。
この店が、高校生の自分にとって逃げ場所で唯一の癒しの場所だった。
感謝の気持ちは一生忘れまい。
ひとしきり、店内の光景を目に焼き付け、再びコーヒーカップに目を落とす。
なんかいる。
顔っぽい何かがいる。
ほぼ飲み干しかけてたコーヒーの中から、
何か出てこようとしてる。
「んーー、んーーー、んーーーーー!!!」
むちゃくそ唸っている。
よく分からないが顔がとにかくつっかえていて、伸びたり縮んだりを繰り替えしている。
思考は既に追いついていないため、しばらくその光景を見ている。
しばらくの格闘のあと、ニュポンッと、ところてんのように鈍い音を発しながら、
湯のみから飛び出したのは湯のみと同じサイズの女の子。
「こんにちは、私唐津焼ちゃん!今日からあなたのパートナーよ。」
平和に今年が終わろうとしていた12月。
俺は焼き物ちゃんと出会った。