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空を旅する物語  作者: エディ
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子供の頃の思い出

 「今日はどこに行こうか。」

 君との会話は、いつもこのフレーズから始まる。昨日は夕日がきれいな丘に。一昨日は朝露がきらめく草原に。二人で飛んでばかりいるから、かなり遠くまで飛べるようになった。君の翼はたくましいけど、僕のはまだ小さいままで見た目は頼りない。それでも飛んでいるときは楽しくてたまらない。

 「今日は暴風域を越えた先に行こう!大丈夫。僕たちなら行けるよ!」

 そう君は自信満々に話すけど、暴風域はとても危ないところなんだ。荒れ狂う風が止まることなく吹き荒れ、岩石があちこちに飛びまわり、大人達も行こうとしないところだ。唯一通れる道があるが、一歩間違えれば大怪我を負ってしまう。そんなところを通っていくのは自殺行為だ。

 「そんな危ないところはまだ行けないよ。この前も怪我人が出ていたじゃないか。」

 「でもそれは僕たちより小さい子供がいたからだろう。もう少しで大人になる僕らなら行けるよ!道も今日の為に覚えてきたし、準備もしてきたんだ。ほら見て!」

 君はそういってリュックに詰め込んでいたものを見せてきた。

 「準備してても初めて行くところなんだよ?大人も一緒じゃないんだからやっぱりやめようよ。」

 僕が止めようとしても君は折れなかった。

 「行ってなかったけど、僕は一度家族で通ったことがあるんだ。小さい頃だったけど無事だったから、二人なら大丈夫だよ!そこを超えた先の景色を君に見せたいんだ!」

 君は僕の目を見つめてそう言った。僕がその目に弱いのを知っていて君は僕を見てくる。

 「...分かったよ。今日はそこに行こう。でも、危険だと思ったらすぐ引き返すからね。僕は君より弱いんだから。」

 「ありがとう!ちゃんと僕が君を守るから、安心してついてきて!」

 僕が返事をすると君は頬を緩めてうれしそうに言った。

違うんだ。僕が心配しているのは君が僕をかばって怪我をすることなんだよ。そう思っていても、僕は楽しみにしている君に言うことができなかった。


----------------


 広い草原を抜けて、暴風域まであと少しのところについた。空には厚い雲がかかり、どんよりとした空気が漂っている。僕たちはお昼ご飯を食べてから暴風域へ行くことにした。

 「ここまでは順調に来れたね。」

 「君に鍛えられたからここまでは余裕だよ。問題は次だからね。」

 僕のお母さんが作った弁当を2人で食べ、最終確認として地図を見る。

 「ここの道を進んで、ここでいったん休憩して……」

 普段の君からは想像できないほどしっかり準備していた。いつもは感情の赴くままに空を楽しそうに飛んでいるから、暴風域の危険性について理解してるのだと思った。一度行ったことがあるから僕が知らない情報まで知っていた。これなら本当に2人で暴風域を越えられるかも知れない。話が終わって、ご飯も食べ終えた。

 「…よし、暴風域のその先を2人で見に行こう!」

 「うん!ちゃんと君について行くよ!」

 目的地に無事に着くことを祈って、僕たちは暴風域へと進んでいった。


---------------


 風が吹き荒れる中、僕たちは順調に進んでいた。途中飛んできた石に驚きながら、怪我もせずに中間地点についた。

 「いったんここで休憩してから先に進もう。」

 「そうだね、さすがに翼を休ませないと帰りの体力がなくなっちゃう。」

 そう言って僕は荷物から水筒をだした。空気中にあった砂が口の中に入っていて気持ち悪いが、この先も同じなので諦めて喉に水を流し込んだ。休憩中でも君は周りを警戒していた。君が言った言葉を忘れずに守ってくれているのが僕は嬉しかった。


 「ここからは暴風域で一番危ない場所だ。しっかり僕の後ろに着いてきてね。」

 「うん。君も危ないと思ったら僕にかまわず逃げるんだよ。」

 「はは、そんなへまはしないから安心して着いてきて!」

 今にも飛ばされてしまいそうなところでも、僕を安心させるために君は声をかけてくれた。君だって不安なことはあるだろうに、僕はその言葉に勇気づけられた。

 「っあぶない!」

 君に向かって大きな岩が飛んできた。僕はただ声をかけることしかできなかったけど、君は間一髪で岩石をよけた。

 「っ大丈夫!僕は大丈夫だから、気をつけて君も来るんだ!」

 安心したのもつかの間、こんな危険なところ僕が……。最悪な場面を想像してしまい、僕の身体は動かなくなってしまった。君はこんなにも勇敢なのに、僕は恐怖に支配されてしまった。情けない…。

 「今のタイミングで来るんだ!今なら大丈夫だ。さあ早く!」

 頭の中では大丈夫だと理解していても、身体が動ことしない。

 「…ごめん。恐怖に足がすくんで身体が言うことを聞かなくなっちゃった。道は覚えてるから君だけでも先にいっててくれないか。」

 「……そこで待ってて。大丈夫、僕が必ずあそこに連れて行くから。安心して待ってて。」

 そう言って君は僕のところまで戻ってきてくれた。僕は情けない気持ちと安心感で泣き出してしまった。君は僕の背中をなでながら、涙が止まるまで寄り添ってくれていた。

 「僕がそばにいるからもう大丈夫。今度は手をつないでいこう。一緒に行けば怖いものなんかないさ!」

 君の言葉は魔法のように僕のなかに入ってきた。さっきまで動けなかった体に力が湧いてくるみたいだった。

 「…うん!君と一緒ならなんだか行ける気がする。」

 君は僕に微笑んで、手をつなぎ、言った。

 「さあ、2人でここを超えてあの地に行こう!」

 もう僕の心の中には恐怖は無かった。


---------------


 「「…ついた!!」」

 危ない場面もあったが2人で暴雨風域を越え、目的地につくことができた。

そこは海を一望できる、まだ見たことのない景色だった。

 「僕、初めて海を見たよ…。こんなにきれいなんだね。」

 僕たちの町は山に囲まれており、暴風域を越えた先にしか海がなかった。初めての海は、今思い出しても言葉にはできないほどのものを感じることができた。

 「僕のお父さんは旅人だったんだけど、お母さんと結婚してからはこの町に定住するようになったんだ。成長してからお父さんにここに連れられてきたときは、僕もすごくきれいだなって感動したんだ。」

 「だから、この景色を君に見せたくてここまで連れてきたんだ。」

 僕は君がただの好奇心で暴風域の先に来たいだけだと思っていた。まったくそんなことはなかった。ただただ感動して海を見入ってる僕に、君は言った。

 「また、一緒に色んな景色を見に行こう。二人ならどんな困難でも乗り越えられる。」

このときの君は今までで一番良い笑顔で笑っていた。

この日は二人の思い出の中でも一番大切な、忘れられない大事な日になった。

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