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初登校

 入学式を終え、今日は初の登校日である。

おそらく小学年(ローエイジ)だけで故郷の村の子供達を遥かに上回る数が、学園に来ているだろう。

小学年から中学年(ミドルエイジ)までは1学年ごとに分かれており、さらに1学年でSクラス+1~4クラスの5クラスに分けられている。

Sクラスは各学年の上位15名で構成されるクラスであり、1~4クラスはそれ以下の生徒で1クラス60名で構成されている。

俺はどうやら上位15名に選ばれたらしい。


頬のそばかすが特徴的な赤髪の女と短髪の目つきの鋭い男が教壇で挨拶をした。

「私が君達の担任のイレリア・ロックハートよ。担当教科は魔術学よろしくね」

「俺は副担任のオイゲン・クラヴィスだ。剣術を担当している」


「君達が中学年に進級するまでSクラスは私とクラヴィス先生が担当します。

5年間皆さんが私のクラスの生徒であることを願っていますね」

「Sクラススタートだからと油断すると他の4クラスの優秀な生徒と入れ替わるから覚悟しておけ。

精々学年末まで他者に抜かれないように努力することだな」

各々そう言うと、クラス一人ずつの自己紹介を済ませ、担任達は退室した。


緊張が解けたように皆が一斉に溜息を洩らした。

「なぁ、副担任ヤバくないか?」

隣の席の少年が話しかけてきた。

癖のある前髪の隙間から覗かせる藍色の瞳が特徴的だ。


「うん。えぇっと、ウォン・ロウエン」

「ウォンでいいぜ。お前はレニ・ケルトだよな?」

「うん。よろしく」

俺が差し出した右手を藍色の瞳の少年は握り返した。


「ケルトって大ウソつきはお前だな?」

振り返ると年齢にしては大柄体系の少年がドカッと立っていた。

たしかアータ・アルベルトと名乗っていた。

その横には取り巻きであろう二人の少年がニヤニヤと俺の顔を見ている。

ヒョロっとしたのがキミト・アサクラで眼鏡をしているのがチョ・チョ。


「なんだお前ら?」

ウォンが訝しげな表情で尋ねた。

「ロウエンは知らないのか? コイツはな、一人で魔物を倒したって嘘つきなんだぜ」

アルベルトは俺に指をさしながら意地悪く笑うと、後ろの二人もケラケラと笑った。


「え? お前そんな凄い奴だったの?」

驚いたウォンに「いやいや」と俺が手を振ると大柄な少年は得意げに口を開いた。


「だから嘘に決まってんだよ。俺の父さんが魔物を5歳で倒したケルトって奴が学園に入学するらしいけど、にわかには信じられないって言ってたぜ」

「見てもないのに嘘って決めつけんなよ!」

ウォンが机を叩くと、3人組は一瞬怯んだ様子を見せた。


「ちょっと、初日からやめなさいよ!」

リリアーナ・イェニツィカと言う名の大きな目が特徴の人形のように愛らしい少女が仲裁に入った。

「魔物どころか女に庇われる雑魚じゃん」

アサクラが吐き捨てるように言うと、他の2人も同調しながら去って行った。


「イェニツィカ止めるなよ。ってかお前もなんか言い返せよ!」

ウォンは抗議の目を少女から俺へと向けた。

「いや、なんかめんどくさくて。イェニツィカさん止めてくれてありがとう」

「ケルト君が正しいよ。相手にするだけ無駄よ。リリィでいいわよ」

「なんかお前ら大人なんだな」

ウォンは納得いかない表情で天井を見やった。




家に帰りしばらくするとウェーライが、バタンとソファーに倒れこんだ。

「疲れたわよ…… 疲れたわよ…… 疲れたわよおおお!」

「おかえり。どうしたの?」

「入学初日から、勧誘の連続でしょ、それに何故かファンクラブまであって堪ったもんじゃないわよぉ!」

足をバタバタさせながら不満を言う彼女は年相応の少女に見えた。


「俺もそう言えば、大ウソつき呼ばわりされたよ」

「ん?」

彼女はうつ伏せの状態から反転してこちらを見た。



「この年で魔物を倒したなんて嘘つくなって。別に自慢することじゃないからどうでもいいんだけどさ」

「レニも大変なのねぇ。でもアタシみたいに突き抜けて有名になればそんな批判も無くなるわよぉ」

「その代償が大きくない?」

彼女はまたうつ伏せになり足をバタつかせなにか叫んでいた。



日が傾き空が赤くなる頃ウェーライは、少し落ち着きを取り戻したのか財布をひっつかみ俺を外へと連れ出した。

外食したことにより気も晴れたのか帰るころにはすっかりいつもの調子に戻っていた。


「明日を考えると憂鬱ねぇ。なんで入学したのかしらぁ?」

俺を抱きしめながらベッドの中で反芻する。

恐らく同じ言葉を10回は聞かされているだろう。


「お姉ちゃんは宮廷の仕事があったんじゃないの? なんで入学したの?」

「皇后様がねぇ、宮廷に籠ってないで同世代の友達も作りなさいって。それを陛下が聞いて学園に入学することになったのよぉ」

「それで仕事は問題ないの?」

「元々研究や論文の発表で学園を訪れる機会もあったのよぉ。だから差し当たった支障はないのよねぇ。

ただ学園に席を置くのと置かないのでは周囲の距離感が違うわよねぇ」


「お姉ちゃんってもしかして…… 人見知り?」

「違うわぁ。大勢の人と話すとちょっと疲れやすだけよぉ」

「それを人見知りって言うんじゃ……」

「黙りなさぁい」

頭をくしゃくしゃに撫でまわし、「おやすみ」と言って彼女は眠りについた。


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