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2人の客人

 気がついた少女達は交互にぽつぽつと話だした。

「救ってくれてありがとう」

「指輪…… 持ち主に戻った」

「指輪…… 浄化の力…… 天界に知られては…… ダメ」


「アナタ達が白銀の狼なのかしらぁ?」

ウェーライが興味津々に尋ねた。


「そう…… けど、違う」

「私たち…… 肉体持たない」

「あの子は使い」

淡々と二人は答えた。



「あの黒い(もや)はなんなんだ?」

「あれは…… 魔物の瘴気」

「黒い靄ぁ?」

「瘴気? なんのことだ?」

父もウェーライも眉をひそめた。


「魔物の体から出てた奴が、同じように銀狼の体から出てたんだよ」

「そんなの見えたか?」

「私には見えなかったわよぉ」

二人とも目を見合わせて言った。


「この辺りの瘴気…… 私達浄化してた…… でも限界来た。

私たちに溜まった瘴気浄化してくれた。

天界の力無い者…… 瘴気見るのも浄化も出来ない」

「レニには天界の力があるってことなのぉ?」

「ある…… でも、人間に答えられるのここまで」

そう言いながら少女達がじっと俺の目を見つめた。


――口を動かさないで心を動かして――


(どうして力を取り戻させた?)



――もうすぐ神々の黄昏(ラグナロク)が始まるの――



(神々の黄昏? なんのことだ)


――愚かにも神王ティレーニアを追い出した報いとして――



――地上にも(わざわい)がもたらされる――



――救えるのは大いなる神ティレーニア――



――けれども神々の黄昏は止められない――


「俺の息子が特別なのはわかったが、レニにも何も教えてくれないのはなぁ」

父が頭を掻きながら訴えるように言った。


「こんな高位の精霊が人前に表すのも珍しいのに、団長みたいに適正の無い人間にもはっきり見えて会話までしてくれてるんだから、これ以上は高望みよぉ」


(どうやら俺達の会話は時間軸ではほんの数秒なんだな)


「父さん、ウェーライ、大丈夫だよ心配しないで」

「私達水の精霊、アナタとも契約してあげる」

「聖霊とも呼ばれるほど高位のアナタ達と契約できるの?」

ウェーライの声はうわずって震えていた。


「浄化してくれた…… 人間にお礼」

少女の片割れがウェーライに水の水晶が施されたイアリングを手渡した。

「指輪持たない者…… それで私達呼び出せる。

でも魔力無いと…… 危険」


なによりも高価なアクセサリーを貰ったかのようにウェーライは声になら無い喜びを表していた。


そして少女達は白銀の狼となって去っていった。





ウェーライは我に帰ったのかポツリと言った。

「今の夢じゃないわよねぇ?」

「レニの指を見る限り現実だったみたいだな」

「イアリングもあるわぁ」

彼女は恍惚の表情を浮かべている。


「じゃ、帰るか。今からなら陽が沈む頃には家に帰れるだろ」

父の一言で俺達は湖を後にした。



ヴァキュラの森を抜けた頃ようやく口を開いたのはウェーライだった。

「レニが天界の力を持ってたなんて、ますます団長の子供か怪しくなったわねぇ」

「失礼なこと言うなよ。誓ってコイツは俺の息子だ」

「わかってるわよ、団長とエミィさんにそっくりだもの」

父とウェーライは目を見合わせて微笑んだ。


「あのさ、指輪の力の事なんだけど、秘密にしておきたいんだけど…… いいかな?」

「なんだかあの子達もバレてはいけないみたいな事言ってたわねぇ」

「だから父さん、今日の事は母さんにも誰にも秘密にしておきたいんだ。お願い」


父は俯きしばし沈黙した後に言葉を探すように話した。

「俺は正直どうすればいいかわからない。

人智を超えた話で動揺している。その当事者が自分の息子だから尚更だ。

本当なら母さんに話すべきだし、国王に報告する義務すらあると思う。

だが、神に近しい存在を見ちまったし、そいつらの忠告なんだから従うのが正しいと思う。

だから俺は父親としてじゃなく、王国騎士として言う。レニ、お前に全てを託す」

父の表情はどこか晴れやかだった。


「ありがとう父さん!」

「しかし、だからこそ備えなければならないとも思った。

明日からの稽古は厳しくなるが、覚悟は良いな?」

そう言うと父はにこりと笑った。





村についた頃にはとっぷりと日が暮れていた。

「あらぁ? 誰か来ているようねぇ?」

家の前の木に2頭の馬が繋ぎ止められ、寄り添い合っていた。


家に戻ると、母が2人の客人をもてなしていた。

一人は眼鏡をかけた華奢な男で、もう一人は屈強な体格と髭面が特徴的な男であった。


「ラウ・ケルト隊長ご無沙汰しております」

二人の男は立ち上がり、屈強な男は父に礼をした。


「その呼び方はやめてくれ、俺はもうお前の隊長ではない。

それに将軍が村のしがない衛兵をそんな呼び方するもんじゃない。

ジョッシュ・ワッケナー将軍」

「いえ、自分にとっては今でも尊敬する上司であります! 

それに貴方が早々に将軍職を辞さなければ、今でも貴方が将軍であります」


「俺はエミィとのんびり子育てをするために今の職を選んだんだ。

それをとやかく言われる筋合いは例え将軍であろうとも許さんぞ」

父はギロリと髭面の男を睨みつ、一瞬にして周りの空気が張り詰めた。


「やめなさいアナタ! お客様に失礼でしょ」

「いえ、私が悪いのです。出過ぎた真似でした」

母の一喝で緊張の糸がほぐれたが、父は面白くなさそうにブスっとしている。


「ねぇ貴方達はそんな話をしにこんな片田舎までやってきたのかしらぁ?

そこの貴方は確か国が運営する学園の理事長さんよねぇ?」

華奢な男が眼鏡を手にかけ口をあけた。

「王国一の天才魔術師に知っていただけてるとは光栄です。

私はグンター・ガリウス。ご存知の通り王立グラティア学園の理事長です」


「ご用件は何かしらぁ? 私達の任務の報告を聞きに来たってわけじゃなさそうねぇ」

「えぇ、先ほど奥様にはお話ししたんですが、お子さんのレニ君の事でしてね」

ガリウスは俺を見据えると優しく微笑みかけた。


「もう来年の話をしに来やがったのか」

父は酒のボトルを開け、客人たちに振る舞い、ふんぞり返ってグラスを飲み干しソワソワとしている。

まるで今から語られる事を受け入れたくないかのようだ。


「えぇ、レニ君は話によるとあのテイア君にも引けを取らない程の才覚の持ち主と聞きました。

ですから、村ではなく是非王都で魔法や剣術や色々な知識を学んで欲しいのです」

「親元を離れて王都で学ばせるだなんて、親馬鹿としては当然看過できない事よねぇ」

狐目がチラリと父を見つめて言った。


父は溜息をつき、また酒を煽り、目をつぶり指をトントンとテーブルの上で叩いた。

そして俺を見ながら言った。

「コイツをヴァキュラの湖に連れて行ってわかったよ」

「まだ幼いレニ君を任務に同行させたんですか?」

髭面の男ワッケナーは大きな身を乗り出して驚いた。

その拍子に置いてあるグラスがガタンと音を立てた。


「落ち着きなさいよ将軍。ちょっと早めの社会見学に連れて行っただけよぉ」

「ねぇ?」と言って狐目の女魔術師は父を流し見た。


「あぁ。そこで魔物を一人で倒す息子の姿を見て、コイツにはあらゆる知識と経験を学ばせてやらなくちゃなと思ったよ」

「この年でもう魔物を、しかも一人で倒したと言うのですか?」

次は眼鏡をかけた男ガリウスが驚きのあまりグラスを鳴らした。


「そうよぉ。私達の助けも無く一人で倒して見せたわぁ」

「本当に大賢者の末裔であるあのテイル君にも負けないほどの力量だったとは……」

ワッケナーは顎鬚を撫でながら俺を見定めた。


「離れることになるのは寂しいが行ってこい。ここでただ時を待つより良い経験になるだろうよ」

ヴァキュラの少女の言葉を含んで言ったのだろう。


「わかった。行くよ」

「では、来年の春に入学試験があるので来てください。

詳しい事は追って封書でお送りしますね。では私は所用があるので失礼させていただきますね」

ガリウスはにこりと笑い母に挨拶して出て行った。


「で、お前は何しに来たの?」

「いや、隊長が親馬鹿なのは有名ですから、説得するのに将軍である俺も付いて行ってやれと陛下が」

屈強な大男が父を前にあたふたするのがなんだか可笑しかった。


「ワッケナー君とウェーライちゃん食事して行くでしょ?」

母がひょこっと様子を見せると二人は声を合わせて「もちろん」と嬉しそうに答えた。


父は溜息をつきながら客人をもてなし、俺は父の若い時の話を二人から聞く事となった。


こうして半年後に俺は親元を離れ王都に行く事となった。

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