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6話 表と裏

6話目です。

異界の欠陥魔法師という小説もやってます。

処女作なので初めの方が読みにくいかもしれませんがよろしければどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n0932cx/


※追記

予約投稿が上手くできてませんでした。ごめんなさい。

4日18:00投稿予定だったものです。

「国王陛下!」


 あれから程なくして、この隠し部屋に一人の男が入ってきた。長身でいかにもRPGゲームに出てきそうな黒いローブを身に纏い、先端がカタツムリの殻のようにクルクルと回っている身長と同程度の大きさの杖を手に持っていた。


 顔付きは痩せこけた頬に隈のできた目元を改善できれば、アイドルとまではいかないがそこそこの美形になると思われるもの。


 そんな彼は部屋に入るや否や長い杖の先端を幸助達に向ける。


「貴様ら何者だ!何故この部屋にいる!」


 部屋の入り口近くにいた幸助はすぐさま部屋の中央付近まで移動し、ユスティアリカ、八雲共々守れるよう身構える。


 男が杖に魔力を流すのが見えた。幸助は威嚇のため、すぐさま小さめの火球を見せ付けるようにして三つ浮かべる。


 幸助の狙い通り、男の警戒度が上がった。これで直ぐに魔法を放たれるという事態は避けられた。


 だが、それも一時の間でしかない。このままでは戦闘が始まってしまうだろう。


「ドーマ止めなさい!彼等は敵ではありません!」


 それを止めたのは二人の間に割り込んできたユスティアリカだ。彼女の制止を予測していた幸助は彼女の声を聞くのとほぼ同時に火球を引っ込める。


 ドーマと呼ばれた男が真っ先にこの部屋の住人を心配していた様子から、この部屋の事を知っている残りの一人、宮廷魔導師だろうと予測していたのだ。


「……これは、どういう状況でしょう?何故部外者がここに居るのですか?」


 ドーマも構え()解く。杖に込められた魔力はそのまま維持しているのでいつでも魔法を放てる状態なのだが、一応は落ち着いたらしい。


 彼は不審人物(幸助・八雲)を視界から外さない様にしつつユスティアリカへと問いかける。


「彼等は私がここに連れてきました」


 ドーマはその回答を聞いて、スゥ、と冷たい視線を、幸助達へと向けているのと同質の視線をユスティアリカにも向ける。


「…何故、そのような危険なことを?」


「私が彼等を信じる為に」


「その様なことのために、陛下を、御身までをも危険に晒したのですか?」


 ドーマの責めるような問いかけ。厳しい視線や態度を向けているが、言葉の内容はユスティアリカを心配しているものだ。


 だが、彼のこの問いにユスティアリカが声を荒げる。


「私にとっては『その様なこと』ではありません!私は彼等の居場所を奪ったんです!そんな私が!彼等を利用しようとしている私が!彼等に隠し事をして良いわけが無いのです!」


「……はぁ」


 その必死の声に対するドーマの反応は呆れたようなため息だった。


 彼は顔を伏せてしまったユスティアリカへと近付き、コツン、と彼女の脳天に杖を降り下ろす。


「私が何のために貴女からここの事を、半ば無理矢理聞き出したと思っているんですか。貴女が明らかに無理をしているのが見ていられなかったから、と言いましたよね?その時こうも言った筈です。『一人で背負うには無理がある。支え合うことも大切だ』と。男の私だけではと思ってアルフにも共有しているのですよ?今の心の叫びをアルフには言っているのですか?」


「……」


「はぁ……。言っていないんですね。まぁ、彼女も彼女で主を思い、話されるのを待つタイプですからね。察していても聞き出したりはしませんか。城で信頼できる者が少ない現状では贅沢を言えませんでしたが、彼女にももう少々積極性がほしいところですね」


 ドーマの優しいお説教をユスティアリカはただ黙って聞いていた。


 彼も返事を期待していた訳ではないようで、言い終わるや否や腕を引っ張り、背中を押すようにして彼女を入り口の方へと歩かせる。


 彼女と場所を入れ換える形になったドーマは苦笑いを浮かべ、幸助達にペコペコと頭を下げる。


「いや、先ほどは失礼致しました。私は現在この城で宮廷魔導師をやっておりますドーマ・フェデルバーグと申します。宮廷魔導師等という御大層な肩書きを名乗っておりますが、現状は国王陛下専用の医師とでも言った方が良いかもしれませんね」


「あ、いえ。ご丁寧にどうも。ヤクモ・カンナヅキです。えっと、自分で言うの恥ずかしいな……。勇者?として呼ばれたらしいです」


「……コウスケ・クジョウ」


 彼の自己紹介に八雲も同じようにペコペコと頭を下げて答えるが、幸助はただ簡潔に名前のみを答える。


 八雲は基本的に人を疑わない。だからこそ幸助は、初対面の相手、特に八雲が居るときにはしばらく警戒を解かないようにしているのだ。


(……?)


 ドーマから興味や敵意とはまた別種の、意味深な視線を一瞬向けられた気がした。


「侵入者では無いということは、先ほどの非常連絡は陛下の容態に関してですね?雰囲気から良い報告。回復の兆しが見えた、と言ったところですか?」


 それが気のせいだと思えるほどに平然とした態度でドーマは振り返ってユスティアリカに問いかける。


「ええ」


「……今まで現状維持がやっとだったのですが、急に何故?」


「すみません。僕がその、国王様に魔力を流し込みまして……」


 ドーマの呟きが聞こえた八雲がおずおずといった様子で手を上げる。勝手なことをして怒られると思ったのか声も覇気のない弱々しい声だ。


 だが、彼の予想とは反してドーマは八雲の言葉を聞いて怒ることなく思案顔を浮かべる。


「……魔力の譲渡ですか。私もやりましたが、その時は特に効果は……。あぁ、成る程。召喚された勇者様だからかもしれませんね。私達とは魔力の質が違うとか、異世界の勇者様ですからね。可能性は高そうだ。っと、失礼。国王様の様態を確認させていただきます」


 そう言ってドーマは八雲に一言謝りベッドの横に膝をつく。


 八雲は怒られなかったことにホッとした様子でユスティアリカの元まで移動する。


 幸助もユスティアリカの近くまで移動するが八雲の様に並んでは立たず、二人よりドーマに近い位置の壁に寄りかかって様子を見ていた。


「……成る程。確かに()が弱まっています。が、魔力を過剰に与えすぎですね。これでは魔力が活性化し過ぎて体を傷付けてしまう可能性があります。かといって魔力を抜き過ぎれば残っている()がまた回ってしまうでしょう」


「ええっと……難しい話は良く分かりませんが、治るんですか?」


 八雲の問いかけにドーマが笑みを浮かべる。


「ギリギリを見極めて魔力を抜けば効果的でしょう。それに、勇者様がいらっしゃる間は魔力を与えられますから、ティア。これは、陛下の病を治せますよ!」


「……本当に?」


 今まで目覚めないのが当たり前だった。もう、目覚めないと、父が自分の頭を撫でてくれる事は無いのだと、心の何処かで諦めていたのだろう。


 それが、ここに来て急に治せると言われた彼女はここが本当に現実なのか分からなくなっていた。


 嬉しい筈なのに自身の口から出てきた言葉は感情の無い平淡な声による疑問。


 それがより一層ここが夢なのではないのかと彼女に思い込ませる。


「確実に、とは言いませんが、きっと治して見せます」


「良かったね。エーヴェルバイン様」


 八雲が彼女の腕を下から支えるようにして持ち上げ、その掌に右の平手を、パンっ、と下から上に振るうように叩きつける。


 その衝撃、そのほんの少しだけ痺れる様な小さな痛みで、ユスティアリカの意識が現実を認識し始める。


「……ぁ。ヤクモ様。ありがとうございます。本当に……ぅぅ、ぁぁ―――」


 現実を認識した彼女は感極まったのか、その場に泣き崩れた。


「……ずいぶんとまぁ、都合の良い展開っすねぇ」


 一緒になって喜んでいる面々を見ながら呟いた幸助の声はユスティアリカの泣き声に掻き消された。



 ◇◇◇◇◇



 ―――魔力の調整は難しく集中しなければなりませんので、皆様は先に戻っていて頂けますか?


 との言葉に従って、幸助達三人は隠し通路の迷宮を歩いていた。


 彼等の前で涙を流したのが恥ずかしかったのか、ユスティアリカは顔を赤くして少し(うつむ)いている。それでも、喜びは隠しきれないようで、時折口元が弛んでいるのが見てとれた。


 今回は呼び出された時とは違い暗い雰囲気では無かったので八雲は特に何も言わず、彼女が喜んでいるのが嬉しい様でご機嫌で歩いていた。


 そんな中、唐突に幸助が立ち止まる。


 彼の視線は背後、先ほどまで居た隠し部屋の方向を見ていた。


「幸助?どうしたの?置いてかれるよ?」


 幸助が止まったことに気付いた八雲が問いかける。少し遅れてユスティアリカも気付き幸助へと視線を向ける。


「いや。回復系の魔法は見ときたかったなぁって思ってな」


「それでしたら後日私がお見せ致しますよ?」


「お、マジ?いや~ありがたいねぇ。できれば補助系統の(もん)を複数見ておきたいんだが―――」


 ユスティアリカの言葉に幸助の声音が楽しげに弾む。


 彼等は魔法についていろいろと聞きながら城へと戻っていった。



 ☆☆☆☆☆



「―――さて」


 ユスティアリカ達が充分に離れていったのを感覚だけでなく魔力の目を使ってまで観測したドーマだが、それでもなお気になるのか部屋への侵入を拒む結界まで構築する。


 既に彼の瞳はユスティアリカ達が居たときに浮かべていた喜色の色が消え、普段の魔導師としての冷徹な物となっていた。


「これは、どうするべきか……」


 自身と国王以外誰もいない部屋でドーマはテーブルに置いていた丸薬型の薬を片手に一人呟く。


あのお方(・・・・)は何も(おっしゃ)らなかった。であればこのままが良いのか?しかし、これでは三日待たずに国王が目覚める。そうなれば計画に支障があるはず……。いや、あのお方(・・・・)に取っては国王の目覚めなど些末事(さまつごと)という事か?」


 ドーマは呟きながら考えを整理していたのか、疑問系で独り言を終わらせながらも迷うそぶりなく懐から札を取り出した。


 彼はもう片方の手に持っていた薬を片手ですりつぶし、札に振り掛ける。


「……まぁ良い。目覚める必要が有るのならばあのお方(・・・・)が目覚めさせるだろう。なら、とりあえずはまだ眠っていただくのが最善」


 雑に振り掛けられた様に見えた粉末だが、札には複雑な紋様がその粉末によって描かれていた。


 その紋様を意識してドーマは魔力を籠める。


 反応は直ぐに現れた。


 手に持っていた札に描かれている紋様が禍々しい光を帯び、まるでウジ虫が這っているかのように蠢きだす。その様子にはドーマの表情もひきつっている。


(扱うのは二度目だが……やはり気味の悪い魔法だ)


 自身が発動しているにも関わらずドーマは手に持った札を手に持ったまま可能な限り遠ざける。まるで見たくもない程に苦手なものを無理やり持たされているかのようだ。


 だが、それも数秒で終わる。


 光が収まると粉末で描かれていた紋様は形を変え、別の紋様として札に、液体となって染み込んでいた。


 ドーマはその紋様が動いていないことを確認すると、そのまま札を国王の頭に貼り付ける。


 変化は直ぐに起こった。


 紋様がまたしても蠢きだす。


 今度は紋様を作るような物ではなく札の中央から離れるように外側へと。


 端まで到達した紋様だったものはそのまま札を飛び出し、国王の顔を這って移動する。


 そして、全てが札の外へと出て術が発動する―――


『―――良いもん持ってんな』


「誰だ!」


 ―――直前、ドーマ以外誰も居ないはずの部屋にドーマとは別の声が響く。


 ドーマが振り返りながら誰何(すいか)を投げたときには既に術が破綻していた。


「だが、今の術は自動に向かねぇよ。対象の状態、自身の状態、発動する空間、気温、湿度、気圧、等々(などなど)……。強力な代わりに固定できない変数がかなりある複雑な術だからな」


 ドーマが振り返った先には誰も居ない。代わりに背後から声が聞こえる。


 慌てて向き直ったドーマの視線の先では、声の主と思われる者が国王に貼り付けた札を片手にもってしげしげと眺めていた。


「……おぉおぉ。マジかすげぇなこれ。良くできてんな~。粉末の種類で術式、量で自身の状態、分布で空間か。簡易の術ならこれだけで充分じゃねぇか。あらかじめ術式を仕込んで取り出すと共に不意討ち一発。こりゃ良いできだ」


 その存在を認識したドーマは、あり得ないと内心で思う。この部屋から遠ざかって行くのを確実に確認していたのだから。


 だが、直後に理解する。


 ―――あぁ、このお方(・・・・)と人間にはこれだけの差があるからこそ、ここまで一方的に負けたのか。


「―――ご無礼をお許しください。魔王様」


 気づけばドーマは魔王―――コウスケ・クジョウと名乗った存在に対して片膝を地に付け頭を下げていた。


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