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4話 人間関係

投稿してから一時間位で点数が付いていてびっくりです。

ありがとうございます。

 八雲達は長い廊下を苛ついた様子を隠すことなく歩いていた。


 彼等の後ろを歩いているアルフがそれを注意することはない。表情には出していないが、彼女もかなり苛ついているようだ。


「ッチ。あの豚、屑だな。玉座よりも養豚所がお似合いだっての。あんなののハムなんざ喰いたかねぇが、その方がよっぽどましだろ」


「幸助がそんな悪態付くなんて珍しいね。まぁ、僕も止められなかったら確実に殴ってたけど」


「…申し訳ありません」


 幸助達はこの国の代表らしい人物と先ほどまで謁見をしていた。


 見る目を持っている人であればその国の代表を見ただけで国の将来がある程度分かると聞いたことがあるが、流石にそこまでの目を持っているとは彼らも思っていない。


 が、それでもこの国は長持ちしないと二人は心の底から思う。


「援助も説明も殆んど無しで魔族を倒せと。意見すれば『我々が喚んだのだから我等の為に闘うのは当然だ』とか、バカか」


「しまいには、エーヴェルバインさんに『生きているのならもう一度やれ』だもんね~。……今からUターンして殴って来ていいかな?」


「やるんなら付き合うぜ?」


 既に玉座の間からは大分離れた場所まで移動している。だからこそ、彼等は居ない者に向けて遠慮なく悪態を吐き続ける。


 結局、玉座の間で得られた情報は殆んど無く、会話事態も重要でも何でもない『王の代わりにこんなことしてる』と、自慢話のような物を聞かされただけだった。


 その自慢話が終わると、そのままの流れで『魔王を倒せ』である。


 戦力も戦況も、現状の一切の説明もなく『あっちに魔族の王が居るから倒せ』とだけ。情報など向かう方向位しか分からない。


 しかも、それすら確証のあるものでは無いように思えた。


 魔族があっちから来ているから、とその程度の情報で判断しているように見えてならなかった。


 なので、現状と判断の証拠もしくは推測理由をできるだけへりくだりながら尋ねたのだが、彼等は取り合わなかった。


 曰く『お前らは我々に従っていれば良い』とのこと。


 彼等は幸助達のことを『道具』としか見ていない。


 その時点で幸助は『こいつ殺してやろうか?』と思っていたのだが、グッと堪えた。


「…申し訳ありません」


「…エーヴェルバインさんは悪くありませんから、そんなに謝らないでください」


「害悪はあの豚だ」


 玉座の間を出てから謝罪しかしていないユスティアリカに二人はそれぞれ思っていることを口にする。


 それでも、彼女は顔を上げない。


 理由は何となく分かっている。


『守る』という約束を守れない事を一番気にしているのだろう。


 幸助達への命令を終えた代表は次にユスティアリカへと再度召喚を行うよう指示を出した。召喚が命に関わるものだと知っていた八雲はその時点で殴りかかろうと立ち上がったが、それをユスティアリカが止め、彼女はそのまま代表の言葉に意見をしていた。


 が、前を向いて意見を述べていた彼女だが、言い合っているうちにその声が次第に弱くなってしまい、最後には召喚を行うことを了承してしまったのだ。


「で?何を握られてる?」


「…本当に、申し訳……え?」


 幸助の問いが理解できなかったのか、彼女は疑問の声を出しながら顔を上げる。


 玉座の間からここまで一度も上げなかった顔を。


「あの流れで分からないわけねぇだろ」


「だよね。幼い妹とか人質にされてるんじゃない?」


「いや、国民全員とかあり得るぜ?何せ彼女は『姫様』なんつう御大層な肩書きを持ってる御方だ」


「ん~。流石にそれはちょっと困るかな。助けきれない」


 二人は軽い話のように、まるで彼女を現状から救うのが当たり前であるかのように話していた。


 それが、信じられなかった。信じることが、できなかった。


「どうして……」


「ん?」


「私は貴方達を誘拐した人物です。それなのに、どうして、そんなに……」


 ユスティアリカは幸助達をこの世界に連れてきた張本人だ。元の世界には家族も居ただろうし、いろいろ言っていたが友人だってきっと居ただろうと思っている。


 そんな関係を壊したのが自分なのだと、彼女は思っている。


「僕達がエーヴェルバインさんを助けたいと思ってるからです。他の理由は特にありません」


「いや、俺を含めるな。俺は八雲(こいつ)と違って誰でも助けるような善人じゃねぇ。が、おたくには『助ける』と言っちまったからな。言ったんなら、そりゃ助ける為に動くさ」


 だからこそ、何故ここまでしてくれるのか、彼女には分からなかった。


 彼女とて王族の端くれ。王族であるからこそ、無償で助けられる事など考えられない。


 彼女は彼等が自身を利用しようとしているのでは無いのかと、疑いを持ってしまった。


 信じきることができなかった。


「……分かりました。私の『握られている弱み』の元に御二人をお連れします」


「お嬢様……」


 けれど、信じたいという思いも残っている。


 いや厳密には違う。


 彼女は自身が呼び出したのだから、()()()()()()()()()()という思いを持っていたのだ。


 それを彼女は自覚している。


 現在の自分が頭の中だけで判断をすることはできないと、そう客観的に判断した。


 だから、彼女は彼等を試すことにした。



 ◇◇◇◇◇



 幸助達が案内されたのは先ほどの玉座の間より少しだけ狭い部屋。正直、部屋というには広すぎる場所だ。


 テーブル、本棚、机、その他どれもが幸助達の知っている物よりも一回り以上大きい。どれも新品同様、いや、新品よりも綺麗なのではないのかとすら思う。


 部屋は綺麗に整っているのだが、何処と無く生活感が薄く見える。綺麗にしているだけで、あまり使われていないように幸助達には感じた。


「こちらです」


 そんな整いすぎた部屋をユスティアリカはスタスタと歩き、部屋の中にある扉の前まで移動する。


「お嬢様、私はここで」


「ええ。お願い」


 扉の前でアルフがユスティアリカに軽く一礼をし、扉を開く。


 何のやり取りか分からずに幸助達は首を傾げるが、問いかける前にユスティアリカは部屋の中へと歩いて行ってしまう。


 二人は伺うようにアルフの方へと視線を向けるが、彼女はただ伏し目がちにして扉の横に立ち続けて居るだけだった。


 彼女達は『弱み』とやらを実際に見せるまで説明する気は無いらしい。


 二人は諦めてユスティアリカに黙って付いていく事にする。


 部屋は明かりが付いていないようで薄暗い。先ほどの部屋が明るい部屋だった為、中の様子がよく分からない。


 しょうがないので幸助は魔力で視力を強化する。


 こちらの部屋も綺麗にされているようで足下に何が落ちている様子はない。部屋の中央には長い、それこそアニメの貴族が座って食事をするような、端と端で会話ができないのでは?と思う程に長いテーブルが、これまた新品以上の綺麗さで鎮座している。


 部屋の左側には扉のない入り口がある。シンクっぽい物が見えているので台所だと思われるが、細かくは見えないのでおそらく、としか言えない。


 視線を今いる部屋に戻して奥を見れば、離れたところにある壁に人物画が飾られているのが強化した視力で見えた。銀髪に金の王冠を着けた男性の人物画のようだ。


 そして、そこの下でしゃがみこんで『何か』をしているユスティアリカの姿も見つけた。


 幸助は周りの安全を確認し、彼女の元へと向かうためにスタスタと部屋の中に踏み入る。


 八雲は少し遅れて、足下に注意しながら幸助を追いかける。


「暗いのによく見えるね?」


「ん?わかんねぇのか?魔力を目に集めてみたんだが」


「そうなんだ。全然分かんなかった」


 魔力が分かるのだからてっきり強化系の物もバレると考えていた幸助だが、予想に反して八雲は驚いた様子だった。


 思い返して見ると、この世界に来た時に幸助は知覚能力を向上させる魔法を扱ったが八雲はそれに気づいた様子はなかった。


 その事から、彼の知覚能力がどのような強化をされているか幸助は考察する。


「……体内までは見えねぇのか。八雲もやってみろ。暗い部屋がよく見えるようになるぜ?」


 八雲が見えるのは外側だけのようだ。扉から漏れ出た音、匂い、振動。人の体から漏れ出る鼓動、吐息、そして、魔力。


 これ等の物であればかなりの知覚強化が為されている。はっきり言って強化した幸助と同等か、それ以上の物だ。しかも、常時発動している。


 術師である幸助から見れば、正直、できるはずのないあり得ない物なのだが、現に目の前で出来てしまっている存在が居るのだから認めざるを得ない。


 だが、それも万能という訳ではないようだ。


 先ず魔術師ならば真っ先に強化をする眼についてだが、動体視力や遠視についてはどの程度かわからないが強化をされている。でなければ玉座の間に行く途中で見た魔法戦の詳細は見えないだろう。


 幸助の知る魔法で強化をしたのなら『眼で見る』という力が強化される。つまり『動いているものを見る力』『遠くの物を見る力』『広範囲を見渡す力』『暗闇を覗く力』『魔力を見る力』が強化される。


 そのはずなのだが、八雲の眼は暗闇の向こうが見えていない。


 他にも体外に全く漏れ出ない程にコントロールされた物であれば、例え隣にいても八雲は魔法の発動に気づかない等、むしろどうやったらそうなるのか分からないような中途半端な強化がされている。


 魔力を感じる知覚を得ているはずなのに相手がどの程度の魔力を保有しているか彼には分からないのだ。


 彼に分かるのは漏れ出ている、あるいは、放出されている魔力の量だけ。なのに漏れ出てさえいれば幸助よりも感知力が高い。


 そのちぐはぐな内容のせいで、強化の詳細が分からない。


「……むむむっ。……あ、本当だ。明るくなった」


「ん?眩しっ!お前何し、はぁ!?八雲、おまっ、目が光ってんぞ!?何がどうしてそうなった!?」


「え?魔力を目に集めてみたんだけど……」


絶対(ぜってぇ)違ぇ!何か魔法発動してるだろそれ!」


「え?えぇ?」


「……何をやっているのですか?」


 まるでビームを出しているかのように目を光らせた友人という魔術師でも訳の分からない光景に幸助はただ驚きの声を上げる。


 八雲も八雲で自身の姿を確認する術がなく、自身がどうなっているのかわからないために困惑していた。


 そんな彼等のやり取りに呆れながら、ユスティアリカが戻ってくる。


 ついでに背後の扉からは「何事?」といった感じでヒョコっとアルフが、何故か箒を持って顔を覗かせていた。


「すみません。部屋が暗くてよく見えなくて……」


「で、魔力を目に集めてみればっつったら……こうなったらしい」


 幸助は、意味わかんねぇよな?とユスティアリカに同意を求めるも、彼女はそれをスルーする。


「あまり目立つ行為は控えてください」


「だったら電気、じゃなくて明かりつけろよ」


 ユスティアリカの注意に幸助が注文するが、彼女は首を横に振った。明かりは点けないということだろう。


「理由は後程わかると思います。今はこのままついてきてください」


 彼女はそう言って、再度部屋の奥へと向かう。


 幸助も特に逆らう理由はないので光を納めた友人と共に彼女を追いかける。


「……ん?」


「どうしたの?」


 歩き出してすぐに幸助が首を傾げ、その際に漏れた小さな疑問の声に八雲が反応する。


「いや、何でもない」


「……明らかに何でもないって反応じゃないよね」


「いや、まぁ、何だ。ちょっと気になった事があっただけで、何か問題があった訳じゃない」


「じゃあ何?」


「……城の構造の事だからな。許可を貰わにゃ話せないな」


 幸助はそう言って誤魔化し逃げる、もとい、ユスティアリカを追いかけ部屋の奥へと向かう。


 八雲も幸助が追及を逃れようとしているのは分かっているのだが、それを無理して聞き出すつもりはない。


「まだよく見えないんだから置いてかないでよ」


 彼は軽く肩をすくめてぼやきつつ友人の後を追う。


 彼等の先ではちょうどユスティアリカが部屋の奥にある扉を開いているところだった。


 八雲は視力を強化(?)した状態で部屋を見渡していなかったから気付かなかった。


 幸助は視力を強化して先に部屋を見渡していたから気づいた。だから、疑問の声を上げてしまった。


 彼女が開いた扉は、この部屋に入ったときには無かったものであることに幸助は気付いていた。


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