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1話 呼び出された者達

明けましておめでとうございます。新年に新作を投稿いたします。


指摘、感想よろしくお願いします。


本日は3話分投稿いたします。

「痛ったぁ!」


「っと」


 尻から墜落した友人を横目で見ながら軽やかに男―――九条(くじょう) 幸助(こうすけ)が着地する。


 身長は170後半。肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪が少し遅れて幸助の背を叩く。髪型は首の後ろ辺りで乱雑に括ったもので、前髪も特に整えられている様子はない。


 イケメンとまでは言えないがそれなりに整った顔立ちをしている青年だ。


 幸助は横の友人―――神無月(かんなづき) 八雲(やくも)にその鋭いつり目を向ける。


 自身と同じ高校の制服を着ている黒髪黒目の青年。身長は180程。高校では珍しく髪型が校則で縛られていないにもかかわらず、横髪が耳にもかからない程に短い髪型にしている優等生。


 顔立ちは整っている。笑えばクラスの女子から黄色い声が上がるほどに整っている。


 そんな友人がお尻を押さえて唸っている姿を確認して幸助は安堵する。


 完全な不意打ちだった。


 幸助は八雲との下校中、唐突に現れた魔法陣によって何処かへと引きずり込まれたのだ。


 周りの事など一切考慮せずに魔術を放たれる、などという常識外の行動に、幸助ができた対応は巻き込まれそうになっていた少女を魔法陣の範囲外へと蹴り飛ばす事だけだった。


 そして、気づいたらここにいた。


(天下の往来で、なんとまぁ……)


 日本の裏のさらに影で行動している魔術師の一人である幸助は内心で呟く。


 現代日本において魔術というのは秘匿されている。


 秘匿されているからこそ神秘が未だに残っており、魔術として機能しているのだ。


 往来で魔術を扱うなど神秘を削る行為であり、魔術を衰退させる一因となる。


 魔術師であれば、いの一番に教わることであり、同時に、往来での使用に制約を掛けられるのが常識なのだ。


「うぅ……。痛い……。なにコレ。超痛い。これコンクリートじゃないよ?」


「いやいや。気にすんのはそこじゃないっしょ?」


「……幸助は普通に着地したんだね。そんな君に、お尻を叩きつけた僕の気持ちは分からないよ。っあ~縦に割れたよ、これ」


「ハイハイ。冗談はそこまでにして現実を直視しようぜ?ほれ、右に左に足下に。いや~正直、ドン引きですわ~」


「……うわぁ」


 幸助の言葉にようやく周りを認識した八雲は顔をひきつらせる。


 全く知らない場所、というのは正直あまり気にならなかった。


 それ以上に、この場が異常だったのだ。


「魔法陣……とかなのかな?」


「おそらく、としか言えないわな。俯瞰してみると形が分かるかもしんねぇが。こっから見たら『どことなく規則性があるような気がする』って思うのが関の山だろ?」


 周りを見渡すと部屋に引かれた白い線が足下や壁に無数に引かれているという光景が広がっていた。


 八雲はその白い線に触れたり沿って歩きながら、幸助はグルッと部屋全体を回るようにしながらそれぞれ観察を始める。


「チョーク、じゃないね。何だろう?触っても擦っても消えない」


「いやいや、いじんなよ。帰れなくなったらどうしてくれる」


 と、幸助は八雲に注意するが彼自身も触れているので説得力が欠片もない。


(なんだこの召喚陣?いや、そもそも魔法陣か?書き込まれてる文字?がわからんが、法則性どころか形にすら意味が無い?この魔法陣で何で発動する?いや、本体が別にあるのか?)


「ねぇ幸助」


「何だ?」


「僕、この展開。凄く覚えがあるんだけど」


「まぁ。あるだろうな。俺も既視感感じまくり。ってかそれ、俺が貸したラノベの話だろ?」


「そうそう。で、その流れだと」


「お偉いさんが現れて、魔王を倒してくださいってか?」


「そうそう。今回のそれだよ」


 互いに紋様の調査を止めずに会話をしていたのだが、八雲の断言に幸助の調査が一時止まる。


 八雲がそう言い切ったのだ。


 問いかけではなく断言。


 彼は幸助と違い魔術師ではない。


 彼とは小学生の頃からの付き合いだが、自身が魔術師である事を伝えていない。


 魔法など、アニメや漫画等の物しか知らないはずであり、そんな彼がこの召還陣を理解できたとは到底思えなかった。


「一応召喚物には他のパターンとかあるんだが……。その根拠は?」


「何か、凄く強くなった気がするんだ」


 自信満々に言い切る友人に対して、幸助は心底残念に思う。


 見た目よし、頭よし、運動神経よしと三拍子揃った(スーパー)イケメンだったというのに、と。


「……そうか。転移のショックで頭をやっちまったのか。医者、精神科医を探さないとな」


「いや、やっちまって無いから。ほら?」


 そう言って八雲は扉をノックするような感じで壁を叩く。


 ビシッ、バギギッ!と音を立てて壁に罅が入った。


「は?オイ、嘘だろ?」


 あまりの出来事に幸助は驚き目を見張る。


 壁に罅を入れる行為というのにはそれなり以上の力が必要となる。こんな軽い行為でできるような芸当ではないのだ。


 完全に力学を無視した現象。


 だからこそ、ただのイタズラ等ではないことが分かってしまう。


 さらに言えば、ここが地球であることすら疑わしくなる。


 幸助は高校生とはいえ魔術師の端くれだ。現代の魔術で出来るできない程度の分別はつく。


 人間を人間の姿のまま永続的に超上の力を与える、なんていう便利魔術など無いのだ。地球には。


「状況は同じだから幸助もできるんじゃないの?」


「いや~無いわ」


 無いと答えつつも、友人の手前やってみないわけにもいかず、幸助は壁に向けて拳を放つ。


 ゴツッ!と鈍い音。


「痛って~!なんだこれ?コンクリートじゃねぇぞ。普通にざらついた岩でできてやがる。……ちょっと血ぃ出ちまった」


「そっか。幸助はできないのか。……そっか」


「八雲さんや。何でおたくが悲しげな声出してんの?」


「だって。これ、狙いは僕で幸助を巻き込んだみたいだし」


 八雲の言葉は的を射ている。


 下校中に現れた魔法陣は八雲を中央にして現れていた。


 これで狙いが八雲ではない等と言ったら相手は相当な愚か者だろう。確証もないのに天下の往来で魔術を扱う者など他に言い表しようがない。


「八雲が気にする必要はねぇよ。つうか今更だろ?俺が一体何年おたくの無茶に付き合ってきたと思ってる?」


「……それ、君には言われたくないな。僕も随分君の無茶に付き合ってきたんだから」


「お互い様ってやつだ。今回だって何とかなんだろ」


「今回は随分レベルが違うけどね」


 そう言って八雲は苦笑いを浮かべる。


 苦笑いとはいえ、ようやく見せた友人の笑みに幸助の気分が幾分か楽になる。


 八雲は魔術等という物を知らない。


 気がつけば何処とも知れない場所にいる、等という現状に不安や恐怖を覚えない筈はないのだ。


「で、何とかするためには行動しなきゃならんわけだが……」


「うん。結構経ったけど、誰も来ないね……」


 幸助達がここに現れてからそれなりの時間が経過している。


 近くでこの召喚陣を発動したのなら召喚者が現れてもおかしくはないと思うのだが、その気配は無い。


「しゃーない。チュートリアル無しで進むか。何かあったら何かあった時だ」


 幸助はそう言って、部屋に唯一ある扉へと足を進める。


 八雲も、やれやれ、と言いたげに首を横に振って、その後を追いかける。


「まぁ、幸助ならそう言うよね。とりあえず外に―――待った。足音が聞こえる。数は……」


「三人。一人は武装してるなこりゃ。だが―――」


「残り二人は足音が、ぎこちない?」


「片方が弱ってて、もう片方が肩を貸してるみてぇだな」


「……何でそこまでわかるの?実は幸助も強化されてるんじゃない?」


「あー……。かもな。感覚だけされてんのかもしんねぇな」


 幸助の回答に少し嬉しそうにする八雲だが、残念ながら彼はこの召還陣によって強化された訳ではない。


 移動の際の警戒のために自身の魔力で強化したのだ。


(召還者は、一番弱ってるやつだな。まぁ、転移の魔術は埼玉から神奈川までやれば三日は目覚めないくらい疲弊するらしいし、ここが地球外と考えれば当然、いや、立ってるのがおかしいレベルになるわな)


 その強化された感覚で扉の向こうに続く階段にいる存在の状態を幸助は確認する。


 遠見の魔術は扱っていないため性別や武装の種類等の細かいことは分からないが階段の方から漏れ出てくる魔力で術者を予測する。


 遠見の魔術を扱わないのは魔術行使を相手に感づかせない為だ。


 自身を強化、特に触覚と聴覚を強化することによって相手の情報を探る間接的な物と違い、遠見の魔術は相手の近くに『魔力の目』を作って相手を探る。


 当然『魔力の目』は相手を見ている間、ずっと相手の近くに存在するため、魔術を学ぶ前段階、魔力の操作ができる時点で感づくことができるものなのだ。


「さーて、どうすっかな……」


「え?話を聞くんじゃないの?」


 幸助の呟きに八雲が問い返す。


 本来なら八雲に聞こえるような声量では無かったのだが、今の彼は扉の向こうにいる人物の足音から人数までわかるような感覚を与えられている。


 改めてそれを実感した幸助は、下手なことは呟けないな、と内心で思いつつ対応に悩んでいる理由を話す。


「敵か味方か分からない相手で少なくとも一人は武装してんだぜ?なら、こっちも攻撃手段位は持っとくべきだろ?」


「……その必要は無いと思うんだけど」


「……おたく、俺達の現状分かってる?見方を変えれば、これは誘拐された状態だ。ラノベのように相手が親切とも限らないって事を考えてる?」


「でも、何て言うか、大丈夫そうなんだ」


「はぁ?」


 八雲の言葉に呆れてものも言えなかった。


 そんな言葉で人が納得するとでも思っているのだろうか?と。


 だが、問答をしている時間は無い。


 しょうがないので友人の説得を諦めて、幸助は学校の指定鞄の中にある筆記用具からカッターを取りだし、ポケットに忍ばせておく。


 それを目敏く見ていた八雲が少し責めるような視線を向けてきていたが、彼も彼で説得を諦めていたようで何も言わなかった。


 ただ、幸助が行動した場合に止めるつもりなのか、八雲は幸助の前に出る。


 幸助もまた友人が信じているものに傷を付けられる様など見たくはない、と八雲の前に出る。


「今の幸助は好戦的過ぎる。交渉の前に攻撃しそうじゃないか。それじゃあ交渉にならない」


「八雲は楽観視し過ぎだ。現実を見ろ。現状を考えろ。ここが安全と決まったわけじゃねぇ。もし攻撃されたとき、俺達が構えてなきゃ何とかもならねぇだろうが」


「攻撃はされない」


「その根拠がねぇつってんの。それに、現状に興奮してんのはおたくの方だろ?一旦下がって頭冷やせ」


「頭を冷やすべきは幸助の方だ。向かい合って敵意を見せていたら話ができるわけないじゃないか。そんな状態で前には出せない」


 そう言って互いににらみ合う。


 足音は既に部屋の前と言っても差し支えないような距離まで近づいているのがわかる。


 本格的に時間切れだ。


 どちらかが折れなければならない。


「はぁ……。どうせこうなることは分かってましたよ。この頑固者が」


 折れたのは幸助の方だった。


 彼はため息と共に一歩下がる。


「ごめん。ありがとう」


「へーへー。感謝しとけ。お人好し」


 幸助のぼやきと共に彼等の目の前にある扉が開いた。


 そこから始めに現れたのはフルプレートメイルに身を包んだ騎士のような存在。


 騎士は何も喋らず、楽な格好で、けれど腰の剣を何時でも抜けるように立っている。


 対して八雲は軽く両手を上げて『なにもしません』というアピールをするが、幸助は何時でも対応できるようにポケットに手を突っ込みカッターを握っておく。


 相手が武器に手を置いている以上、警戒は必須だ。


 最も、あのフルプレートメイルがただのカッターナイフごときでどうこうできるわけがない。


 その為、切り裂く前に魔術の行使が必要になってしまう。


 その場合、友人への説明が面倒なのだが、背に腹は変えられない。


 友人は強化されたとはいえ日本の裏側も知らない一般人だ。当然命を奪ったことなどない。


 運悪くハンドガンを持った強盗の現場に居合わせた、等という命の危機に近い場面に遭遇したことはあるが、それでも直接狙われた訳ではない。


 いざとなれば、荒事に心得のある幸助が守らなければならないのだ。


 数秒経った後、騎士は剣から手を離し、その身を扉の前から退けた。


 幸助達が武器らしいものを手にしていなかったが為にこの場が安全であると判断したのだろう。


 甘い騎士だ、と幸助は思う。


 立ち姿や構え、行動一つ一つに細かい隙が伺える。錬度はそこそこ程度。強いと言えるほどの実力ではない。


「……ふた、り?」


 次に現れたのは銀髪の少女と、彼女に肩を貸してる金髪のメイドだった。


 最初に入ってきた騎士は彼女等の護衛ということだろう。正直、彼女等を一人で護れるほどの実力があるとは思えない。


 銀髪の少女は部屋にいる人物を確認すると、罪悪感に押し潰されそうな、そんな弱々しい表情を浮かべる。


「……姫様」


「……大丈、夫」


 心配して声をかけたメイドに一言言って、彼女は幸助達の前に一人で出る。


「……は?」


 思わず間抜けな声が幸助から漏れた。


 姫様と呼ばれた、恐らくかなりの地位の人物が膝を―――片膝とはいえ―――地に付け頭を下げたのだ。


「このような誘拐紛いの事を行ってしまい、申し訳ありません。その上、私は、貴殿方に、とても危険なお願いをしようとしています。……事が済めば私を処分して下さって構いません。私にできることであれば、何でも致します。ですので、どうか……助けてください」


 幸助と八雲は互いに顔を見合わせる。


 現状についていけていないから?


 いや、違う。


 同い年位の少女の涙に狼狽えたから?


 違う。


 互いの意思に相違がないか確認するためだ。


 八雲は幸助を見て笑みを浮かべた。


 それを見て、幸助はヤレヤレ、と肩をすくめる。


 そんな幸助もまた笑みを浮かべていた。


「勿論」


 困っているのなら助ける。


 八雲からすればそれが当然の行為だった。


「りょ~かい。何事も何とかしてやりますよ。お姫さん」


 そんな性格の八雲だと知っているからこそ、幸助は何時ものように軽い口調でそう言った。


本日は3話分投稿いたします。

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