過去、今、未来、僕
まるで影のように走っても振り切れず、幼い弟が兄の後ろをついて回るようにぴったりと貼り付いた不安を抱えて眠る夜の街を一人歩く。見慣れた景色をこの目に映し、振り切れないその不安を必死に振り切ろうとする僕は僕自身から逃げ出したかった。せめて、せめてこの不安を表すにふさわしい言葉を散らかった頭の中から拾い上げれたら楽なのに。
僕が僕についてきた小さな嘘が大きな塊となり坂の上から僕を目掛けて転がり落ちてくる。分かっている。種を蒔き、水をやり、その花を咲かせたのは誰でも無い僕自身だと。未来という名の君の声には耳も貸さず、過去に浸り、過去に生き、僕は笑っている。この街の1番大きな公園、フェンス越しの木製のベンチ。あいつとタバコと缶コーヒーを手に夢を語り合ったあの時。あの時間は戻らない。そんなことは分かっている。うまくいかない今を無意識に拒絶をし、そんな透き通った記憶の海に足をつけている。
あの時にああしていたら、あの道に進んでいたら。無駄な思考を息が切れるまで頭のトラックで走らせる。馬鹿な人間だなと自己嫌悪の底が見えない、2度と戻って来られないと思えるような穴に足を滑らせて落ちてしまいそうになる。
後悔と反省。人生という広大な航海でどれだけの鍛錬を積んでもきっと完成には辿り着かない。ただその感性をいつまでも過去の箱に押し込めて置くのか、箱の蓋を開け先の謎に目を向けて歩きだしていくのか。
不安定で不完全な未完成な人間。今、感じている不安も氷が溶けたコーヒーのようにいつかは薄まる。そう思えた瞬間、そんな気持ちも少し楽しめるようになった。
この先に待つその正体はまだわからない。僕が追い求めている君にに会うまで何度でもこの気持ちを味わっておこう。その方が、君に会った時に話す笑い話が増えるから。