09.共通 Scene3
「久しぶりだね、かすみちゃん。」
「久しぶりね、時雨。」
二人とも表情は笑ってるけど、勿論目の奥は笑っていない。
「私の悠樹と婚約してるんだってね?私、そんなこと知らなかったんだけどなー?」
「時雨が知ってようがいまいが私と悠樹が婚約者だという事実は変わりませんよ?それに悠樹はあなたのものになんかなりません。」
「ふーん、そうなんだ?けどまだ結婚はしてないんだよね?じゃあここで悠樹の心奪っちゃおうかな?」
質問を質問で返す二人。小さいころにも似たようなことがあったような気がする。
そんなこと考えてたら時雨の顔が俺の顔まで15cmもないところまで来ていた。
「悠樹!!」
かすみが駆け寄るが間に合いそうになかった。
「ちゅっ……んっ……」
強引に舌まで入れてこられた。ちらりと見えたかすみは、絶望した表情……ではなく悔しいようなほんの少し安心しているような表情をしていた。
「これが旦那様の味……美味しいです。」
「美織!?」
俺が時雨だと思っていた舌は美織のものだった。まあだからといって許婚の前でキスしたという事実にはなんら変わりないのだが。
「いざという時のために気配を消しておいて良かったです。まさか悠樹様と深いほうのキスができるなんて思ってもいなかったですが。これでまた一歩、私の本当の旦那様へと近づきましたね?悠樹様。」
いや、俺はなんて返せばいいんだ?
「美織、悠樹は私の許婚なのよ?その行為が何を意味するか位わかってるんでしょうね?」
かすみは美織をじっと見つめる。
「はい。私はあなたに宣戦布告をいたします。お手柔らかにお願いしますね?私の恋敵様。」
いや、前からしてたと思うんだけどな。
「それと森月さんでしたっけ?幼馴染か何か知りませんが、私たちの悠樹様争奪戦に横槍を入れないでほしいのですが。あなたはただの幼馴染です。それにあなたは悠樹様に好きだと一度でもいったのでしょうか。私は悠樹様のことが大好きです。誰にだって渡したくはありません。だから私は相手が花宮家だろうと何だろうと悠樹様が決心してくれるまで戦い続けます。あなたは果たしてどうなんでしょうか。」
美織の真っ直ぐな気持ちが俺の心に刺さる。
「そ、それは……」
時雨に迷いが生まれるのがはっきりと分かった。当たり前だ。俺たちは最近まで『仲のいい幼馴染』ってだけだったんだから。きっとさっきの行動は寂しさから来た勢いだったのだろう。
「話にもならないわね。幼稚園から一緒にいてまだ決心できてないなんて。美織のほうがよっぽどマシだわ。ちなみに私は好きよ、悠樹のこと。ずっと前から。勿論、美織よりもね。」
「いえ、私はもう特別なキスだってしたんですから私のほうが上なのではないでしょうか。」
美織が張り合う。恥ずかしいから俺のいる前では止めてほしい。
「俺、かすみの家に行かないとだからそろそろいいかな。」
本当だ。決して逃げようとしているわけではない。……本当だ。
「思ったのですがそれは少しずるいのではないですか?私も悠樹さんと働きたいです。」
「えっ。」
別に、かすみとは一緒に働くわけじゃないよ?
「確かにフェアじゃないわね。一緒の家に住んでるのだもの。そうね……じゃあこうしましょう。週のうち二日間あなたに悠樹を貸すわ。勝手にバイトでも何でもしなさい。そして悠樹には四日間私の家で働いてもらうから。私からお母さんにそう頼んでおくわ。悠樹もいいわね?」
「かすみがそういうなら勿論いいよ。」
「さすが私の恋敵です。感謝します。」
こうして、これからに希望を抱いてるような表情の美織、黙ってうつむいている時雨、そしていつもどおり澄まし顔のかすみ。それぞれが違った感情を抱き、それと等しく、共通した感情を持ってホテルを出たのだった。
戦争は始まりましたがヒロインはまだ出てきます。あと一人か二人が限界だとは思いますが。