05.敷島美織 Scene2
「あのときの私は荒れていました。肌も心も髪の毛もすべて。家に帰っては親が喧嘩をし、学校では何の面白みのない授業。部活ではどこにも私の場所なんてなかった。そんなことが積み重なって私は自殺をしようとしたのです。図書委員だった私は放課後、当時三階にあった図書館で試みようとしました。窓枠に立ち、あとは前に体重をかけるだけというところでした。そのとき、『ご、ごめん!遅れちゃった!』そういいながら私の運命の人が現れたのです。」
まあ、その日当番じゃなかったらしいけどね。
「それが悠樹なのね。」
「そうです、そして悠樹様は言いました。『何やろうとしてるのか知らないけど、死ねないよ?』と。」
「は?何言ってるの悠樹、止めなよ。」
すっかり話に聞き入っているかすみがもっともなことを言う。
「そして悠樹様は続けて言いました。『そこじゃ、きっと痛いと思うよ。もっと楽に死ねる場所あるし連れて行ってあげようか。』そう言われました。仕方なく私は連れて行ってもらうことにしたのです。」
「本当に何やってるの?悠樹?」
屑を見るような目で俺を見る。もう許して。
「そして連れてこられたのは屋上でした。学校のではありません、廃墟のような建物に囲まれたもっと大きい建物でした。そしてかなり高くて見晴らしのよい場所まで連れてこられました。そして彼は言いました。『どう思う?』私はこう言います。『こんな綺麗な場所で死ねるなんて嬉しい。』そして彼はおもむろにナイフを取り出し言いました。『じゃあ、ここで俺がナイフで君を殺しても文句はないよね?』と。
このとき私は気づきます。周りに誰も人が居ないことに。そして思ってしまったのです。怖い、死にたくない、と。」
「もはや、私が知ってる悠樹じゃないんだけど。誰これ?悠樹って実は殺人鬼なの?」
「違うわ。」
「私は泣きました。しかし、彼は私にナイフを突き刺します。私はこれから死ぬことを後悔しました。しかし、彼のナイフは私の体を貫くことはありませんでした。それは偽物の刃で出来ているもので、私の体に刺すことで柄に入っていきました。私はあまりのことに愕然とします。そして彼は少し笑いながら言いました。『君は今一回死んだんだよ。どうだったかな。もう一回死にたい?』私は泣きながら言います。『私はもう嫌だ。だけどあなたはむかつくから死んでほしい。』あれが本心かどうかは正直私にはわかりません。そして彼は言いました。『ごめんよ。本当は君があまりの高さに、やっぱやめたいって言うのを待っていたんだけどさ。』彼は私が泣き止むまで手をつないで居てくれました。」
「他の女と手をつなぐとか最低。」
「えっ、そこなの?」
かすみの思考が不思議でたまらない。
「だって最初から悠樹言ってるじゃん。死ねないよって。」
そのかすみの言葉には俺への信頼が見え隠れしていた気がした。
「泣きやんだ私に彼はこういいました。『今度何かあったら俺に相談してほしい。』それから私は彼のところへ何かある度に行きました。そしてその度に彼は私の悩みをいとも簡単に解決してくれました。そうしてるうちに、いつしか部活そっちのけで彼のもとへ行くようになりました。そして退部届を顧問に投げつけて、彼、悠樹様と一緒にいたいと思うようになりました。」
「卒業式に自殺しそうね。」
「やめて!縁起でもないから、それ!」
「悠樹様が中学卒業した後、私たちは別々の道を歩むことになりました。ただ、私はいつだって悠樹様とスマホで連絡が取れました。だから寂しくはありませんでした。悪い虫がつくのは心配だったのですが。」
そういうと美織はかすみの方を睨む。
「その件なんだけどさ。俺、スマホ解約しちゃって。」
今までのことをすべて話す。
「そうだったんですか、それは大変でしたね。悠樹様にもそんな事情があったなんて。かすみさんもありがとうございます、私の旦那様を助けてもらったみたいで。」
「いえいえ、お礼なんていりませんわ。だって私の許婚で、かつあなたのお友達なんだから。」
「そうだ、悠樹様。午後が空いてるなら私とカラオケに行きませんか?」
綺麗に無視したよ、この人。
「確かに久しぶりにいいかもね。」
「ちょっと、私も混ぜなさいよ。」
「仕方ないですね、今日だけですよ?」
「別にあなたは居なくてもいいのだけど。」
二人が火花を散らしているせいで、保健室のK子先生は俺の健康状態について話しかけるタイミングをつかむことができなかったのだった。
どの娘も魅力的に描けるように頑張ります。