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庶民未満な俺はお前らよりも許婚と結婚したい!  作者: 棉咲 暦
第二次正妻戦争
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18.5 立花悠樹 Different dream

18話で悠樹がかすみと一緒に寝たときの話です。

 俺は時々思うんだ。あのとき俺がもっと素直だったらお母さんにありがとうって伝えられたのかなって。後悔しても何も変わらないってわかってる。けど……夢を見るんだ。心地よくて温かいお母さんの夢を。崩れていく家族の夢を。決められた運命の中、何とか伝えたくて手を伸ばす自分の夢を。そこに奇跡なんて起きない。けど諦めたくはなかった。ありがとうって言いたかった。何度手を伸ばしても指先からこぼれるお母さんの温度。届かない夢でも映し出す日がくるのを信じて。


「悠樹、今日はお母さんの誕生日だよ。ほら、お母さんにいうことあるだろ?」

「おめー、じゃ友達と遊んでくるわ。」

「悠樹!待ちなさい。お前もっと言い方あるだろ。」

「は?なにが?もう言ったじゃん。それじゃ。」

「悠樹!!今日は家族で出かけるって言っただろ!」

「まあまあ、良いじゃないですか。お友達と遊ぶことは大切ですよ。」

「お前がそうやって甘やかしてるのがいけないんだぞ。」


「悠樹、今日はどこで遊ぶの?」

「んー、かすみちゃんは行きたいところある?」

「うん!博物館に行きたいの!」

「わかった!」


 かすみちゃんはすごい。俺よりもずっと足速いし、なにより力が凄い。この前腕相撲の大会で小学校の先生に一瞬で勝ってたし。まさにみんなのお姉ちゃんだ。

 博物館に着いたときだった。携帯から音が鳴る。


「お父さんからか……もうすぐ博物館だし切っておこうかな。」


 さっきから少し頭が痛い。けどここで帰ったらかすみちゃんに悪いし。


「悠樹……。」

「えっ!?どうしたの、具合悪そうだよ?」

「……電話に出なさい。」

「電話?これお父さんからだし別に気にしなくても……」

「いいからでなさい!!」


 気づけば俺は携帯を開いてお父さんの声を聞いていた。


「悠樹!!やっとつながった……お母さんが大変なんだ!急に倒れてしまって……お前もなんとかして早く来い!」

「わかった!……ごめん、かすみ。俺もう行かなくちゃ。」

「私もいく!」


 俺はかすみと走る。混濁する記憶。くらくらしてまっすぐ走れない。


「あっ」


 足がもつれる。立とうとしても体が言うことを聞かない。


「大丈夫よ、悠樹。絶対に今度こそ助けるんだから!悠樹には私がいるわ!!」


 瞬間、決まっていたはずの世界の色が変わる。


「……ありがとう、かすみ。やっと目が覚めたよ。」

「遅いわよ、悠樹。」

「ごめんな。いつも待たせちゃって。」


 俺たちは病院に駆け込み玄関ホールで待っていてくれたお父さんとともに病室へ向かう。


「お母さん!!」

「お母様!!」

「……悠樹……かすみちゃん……」


 お母さん……。


「俺、いままでお母さんに碌なことしかしてなかったけど……本当に感謝してるんだ。お父さんが怒った時いつもかばってくれたし、優しく接してくれた。なのに俺……お母さんに怒られて当然なことばかりしてきた。けどいつだってお母さんは怒らなかった。嫌な顔一つしないで、辛い時だって支えてくれた。そばで見守っていてくれた。……ありがとう、お母さん。そして、お誕生日おめでとう。」

「悠樹……あり……とう……。かすみちゃん……悠樹を……よろ……し……。」


 お母さんは言い終えた最後、ほほえんだ。俺の心に刺さっていた何かが抜けた音が聞こえた。


「はい。……孫が出来たら報告に参ります。それまで待っていてくださいね、お義母様。」

「じゃあ……またね、お母さん。」


 そうして世界が閉じる。俺とかすみは静かに目を閉じた。

 俺は目を開けるとかすみのほうを見た。かすみもまた俺のほうを見る。


「悠樹……あれは夢なの?」

「わからない、けど俺はお母さんにありがとうって伝えることが出来た。それは事実だよ。」

「そっか。……ねえ、何か私に言うことはないの?」

「助けてくれてありがとう、結婚しよう。」

「みんなを納得させて借金を完済させてからね。」

「当たり前だ。」

「けど……キスくらいはいいわよね、リリーとか美織としたほうの。」

「……わかったよ。」


 俺はかすみと口づけを交わす。


「悠樹、かすみ……ちょっと今のキス、話を聞かせてもらいましょうか。」


 ドアから覗く三つの顔。その目にはどれも光がともっていなかった。俺はかすみの手を引いて逃げ出す。そして花宮邸を走り回っているのを香奈さんに見られ、俺たちは全員、床の上に正座で朝食をとる羽目になったのだった。

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