17.共通には戻れない
俺は玄関を抜けリビングに入る。
「ただい……」
≪パーン≫
『悠樹(君)お誕生日おめでとー!!』
あまりのことに言葉が出ない。
後ろからもクラッカーの爆ぜた音が聞こえたってことはみんなグルだったのか。悔しい……けど嬉しい。
「俺……その……五年ぶりに祝われて……自分でも忘れてたくらい久しぶりで……だからなんて言えばいいのか……。」
やばい、泣きそうだ。
「悠樹様、大丈夫ですよ。思ったことを言ってくだされば私は満足です。」
「美織……わかった。」
俺は呼吸を整える。
「俺は少し前、父に捨てられて……借金も背負わされた。辛くて、悲しくて、もう生きるのがどうでもよくなるくらい自暴自棄だった。もう誰とも関わりたくないって思ってた。だけどかすみに救われて、人の温かさにもう一度気づくことができた。かすみや拾ってくれた香奈さんには俺みたいなのでも家族のように接してもらって嬉しかった。」
泣きそうになるのを堪え、なんとか言葉を綴る。
「美織は今みたいに俺のこと気遣ってくれて……俺のほうが照れるくらい真っ直ぐに好きでいてくれた。初めて会った時とだいぶ印象が変わってて、初めは驚いたけど今のほうが断然可愛いと思うよ。」
最後思ったこと言ったら口説いているみたいで心の中で何言ってるんだろうって思った。
「時雨は幼稚園からそばに居てくれた。けど俺はそんな時雨から何も言わずに離れた。もしあそこでかすみが助けてくれなかったら、そんなこともわからずに死んでいたのかもしれない。ずっと謝りたかったんだ、ごめん。」
「わ、私って可愛いと思う?」
急に何を言い出すんだろうか。
「可愛いよ。幼稚園からずっと。」
「し、仕方ないから許してあげる。」
「ありがとう。」
「か、かか、勘違いしないで。別に悠樹に可愛いって言われたから許した訳じゃないんだから。」
「そ、そうだな。」
時雨のお母さんがガッツポーズしてるのが見える。
「リリーとは一緒に花火をみてデートをした。初めてのデートで緊張したけど、リリーと一緒に居て楽しかった。リリーのお母さんにはリリーとデートさせてくれて感謝してるし、自分の子のことを第一考えてていいお母さんだなって思った。リリーの私服も似合っていて可愛かったよ。」
リリーは俺と目があうと恥ずかしそうにしてうつむく。
「ねえ……悠樹。私ももっと褒めてよ。」
「あら。余裕がない女が何でしたっけ、かすみ?」
「…………」
悔しそうに歯を食いしばるかすみ
「じゃああとでな。恥ずかしくなってきたし。」
まあ結局何が伝えたかったかというと。
「みんなと出会えてよかった。正直、俺……自分のこと不幸だって思ってた。けど違った。こんないい人たちに恵まれた。人生捨てたものじゃなかった。この先どんなことがあるかわかんないけど、この気持ちだけは忘れたくない。祝ってくれてありがとう。」
そうしてお誕生日会は過ぎてゆく。俺はお酒が入ったお母さん方や先生に毛布を掛けて借りている部屋に戻った。
部屋に入るとかすみたち四人がベッドや床にくつろいでいた。
「……何やってるの?」
「悠樹を待っていたに決まってるじゃない。」
「……何のために?」
「悠樹が誰のことが好きか教えてもらうためよ。」
とうとうこの日が来てしまったか。
「一人だけ……なんだよな?」
「当然です。」
「俺が一人選んだらどうなるの?」
「…………」
何で黙るの!?こわっ。
「俺が好きな人は……」
誰を選んでもバッドエンドにしかならない。だけど……。
「俺の一番好きな人は……かすみだ。」
「いいわ、今すぐ式を挙げましょう。」
「いいや、俺はまだかすみとは結婚できない。」
「借金ならこれから私たちで何とかすればいいわ。」
「違うんだ、かすみ。俺は美織や時雨、リリーにかすみとの結婚が認められなければ、かすみと結婚するつもりなんてない。」
酷い言い方だ。自分でもそう思う。
「どういうこと?」
「俺はかすみ一人のために他の三人を捨てることなんて出来ない最低な男だってことだ。ここでかすみに見限られるかもしれない。そう思っても俺は美織や時雨、リリーを傷つけるなんてこと出来ない。」
「本当に最低ね。だけどもっと最低なのは、私が悠樹を見限ると少しでも思っていたことだわ。私は悠樹のことが本気で好きだって思ってる。それはここに居る全員がそう。悠樹が一人を選んでもきっと諦めきれないわ。私だったらなおさらね。」
美織や時雨、リリーがうなずく。
「だから今、宣戦布告しようかと思うの。」
かすみは俺を抱きしめて横目でチラッと美織たちのほうへ視線をやる。
「奪えるものなら奪ってみなさい!これは戦争よ!!」
ここから戦争パートです




