02.花宮かすみ Scene1
かすみの家までしばらく吊られてきた俺は驚く。
「ここがかすみの家なのか!?ご、豪邸じゃないか!」
見たこともないようなデカい家だ。入ったら余裕で迷子になりそう。
「そうよ、言ってなかったかしら?というか花宮って聞いて何も思わなかったの?」
「花宮って……あの花宮だったのか!?」
花宮といえばあの花宮財閥だ。まさかかすみがそんなお金持ちだったなんて。十五年一緒にいたのに全く気づかなかった。家じゃあんまり遊ぶものがないって言ってたからてっきり庶民なのかと。
「そうね、まあ私は次女だから家を継ぐのはお姉ちゃんなんだけど。さあ入って。」
「いや、下ろしてくれないと入れないから。」
なんとか下ろしてもらい、やけに長い廊下を歩きリビングに着く。
「久しぶりですね、悠樹君。」
かすみのお母さんだ。五年前とあまり変わっていないと思うほど若く見える。
「お久しぶりです、香奈さん。元気そうで何よりです。で、その……借金の話なんですが。一体どういうことでしょうか?」
「それね、実は佳代……あなたのお母さんが生前、私にもし悠樹君に何かあったときのためにと預けてもらっていたお金なの。まあ悪く言うとへそくりね。まあ本当はかすみとの結婚資金のためだったみたいだけど。足りない分はこっちで払わせてもらったわ。」
「お母さん……」
泣きそうになるのをこらえて聞く。
「すみません、払ってもらった分は必ず返します。それでいったいいくらなのでしょうか。」
「んー、ざっと六百万くらいかしら。」
結構足りてなかったみたいだ。
「ありがとうございます。しかし、全額返すのにはかなり時間がかかりそうです。」
「そこで提案なのだけど……うちの娘と結婚してくれたら全額払わなくていいわよ。」
香奈さんの提案に俺の心臓が止まる。状況が理解できない。そんなの俺にとってメリットしかないのだが。
「その提案はありがたいですし満更でもありませんが、やっぱり無理です。頑張って全額払います。そしたら……娘さんと結婚させていただきます。」
許婚の親に父の借金を払わせて結婚なんて俺には無理だ。
「ふふ、悠樹君は昔と変わらず素直でいい子ね。隣を見なさい、かすみが顔真っ赤にしてるわ。もう悠樹君にメロメロみたいよ?」
「か、からかわないで。お母さん。そんなことないから。」
少し照れた反応が可愛い。
「で、悠樹君。働くところはあるの?」
「すみません、ないです。」
自分でも情けなく感じた。
「そっか、じゃあうちで働かない?学校終わったらでいいから。」
「いいんですか?というか俺、学校退学していますよ?」
「校長先生から連絡があって聞いたわ。だから、かすみと同じ高校に入学することになったから。よろしくね、悠樹君。」
この手の回しよう、本当に何から何まで感謝しかない。
「えっ、お母さん?私女子高のはずよ?」
「特待生ということにしてもらったわ。なんていったって悠樹君は地元一番の進学校の学年首位なんだから。」
全然理由になっていない。花宮家の権力の暴力が見えた気がした。やることがめちゃくちゃだ。
「わかりました、これからよろしくお願いします。」
「素直でよろしい。かすみの家庭教師の代わりにもなるだろうし、頼りにしてるわね。」
「何から何までありがとうございます。」
「そうだ、女子高だからってかすみ以外に手を出したら大変なことになるかもよ?」
横からすごいプレッシャーを感じる。
「肝に免じておきます。」
そう決めた悠樹だが、悠樹が痛い目をみることになるのは結構すぐだった。