16.共通+α Scene5
今日は日曜日だ。この近くでお祭りがやっていて夜は忙しくなるらしい。気合を入れてロッカールームに入る。
「おはようございます、今日も頑張りましょうね。悠樹様。」
「おはよう。そうだね、今日は大変みたいだけど一緒に頑張ろう。」
俺は美織といつも通りあいさつをする。
「悠樹君、今日はごめんなさいね。ほんとうちの店のために予定空けてくれてありがとう。悠樹君がいれば百人力だわ。」
店長は若い女性でこの人が目当てでお客さんが来るのではないかというほど美人だ。感謝されて喜ばない人はそうそういない。……と睨んでる美織に心の中で言い訳をする。
「おはよ、悠樹。」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします、悠樹。」
「おはよう、二人とも。今日は手伝ってくれてありがとう。」
「いえ、好きでやってるのですから気にしないでください。欲を言うなら、またデートなんてしてくれたら嬉しいです。」
「確かにリリーとのデートは楽しかったし僕は別に構わないよ。」
「やった!またキスしてくださいね?」
「……それは駄目。」
決して誘惑に負けそうになった訳ではない。
「悠樹……私も悠樹と遊びたいな……なんて。」
「いいけど、二人で?」
「……うん。」
「もうホテルには連れ込まないでくれよ?」
「わ、わかってるもん。……悠樹の変態。」
否定はしないがそれはお互い様だ。
「悠樹様、私ともよろしくお願いします。」
「いいよ。大丈夫だよ。」
借金返済……遠いなー。
「その前に私とだから。ねぇ、悠樹。」
いつの間にか来ていたかすみに耳元でささやかれる。
「ひゃうっ……」
俺のこの声は誰が得するのだろうか。
「はい、可愛いです。」
「可愛らしい声ですね、悠樹様。」
「前から思ってたんだけど悠樹って女装したら私たちより可愛いと思わない?」
「確かにそうね。今度させましょうか。」
「絶対嫌だ。それより時間来るし手を洗って出勤するよ。」
『はーい!』
お店もそろそろ終盤にさしかかる頃、俺はナンパされていた。大抵はすぐ諦めてくれるのだがお祭りで頭が麻痺しているのかなかなか離してくれない。
そんな時だった。
「すみません、そこの店員さん。オーダーいいですか。」
「なによ、邪魔する気?」
「いいえ、店員さんは仕事中ですから。もしそういうのが目的なら違うお店に行ってみてはいかがですか?私たちにもいい迷惑ですし。」
店内から沸き起こる同意の声。……仕方ない。
「皆さん、かばっていただいてるのは嬉しいのですが店内ではお静かにお願いします。お姉さんもこれ以上の行為は遠慮していただきたいです。業務妨害に当たる可能性がありますので。」
「わ、わかったわよ。お会計して頂戴。」
「はい、かしこまりました。」
俺はあの人を見送った後、助けてくれた人の元へ向かう。
「お久しぶりです、薫子先生。助けてくださってありがとうございます。」
姫里薫子先生、僕の元担任の先生だ。
「いいのよ、私の元教え子なんだもの。それよりオーダーお願いするわ。」
「かしこまりました。」
「餃子とビール、それと悠樹君ください。」
嬉しいけど、そこのレパートリーに入れられたら流石にときめかないよ。
「はは、相変わらず冗談が好きなんですね。かしこまりました。」
「……悠樹君はこの後空いてたりする?」
「それがなんかかすみ……今お世話になってる花宮さんに呼ばれてて。」
「私も付いていっていいかしら。教え子の保護者に挨拶しておきたくて。」
「わかりました、伝えておきます。じゃあ仕事に戻るので失礼します。」
仕事が終わり、かすみと先生そしてなぜか美織と時雨、リリーまで一緒に帰ることになった。
「なんでみんないるの?かすみ。」
「悠樹のストーカーじゃない?他人の許婚を狙うなんて嫌な女たちよねー。」
「悠樹君、この子は今なんと?」
「ああ、僕とかすみは許婚の関係なんです。といっても今は僕に親はいないんで微妙なんですけどね。」
「それでも許婚という関係には変わりありませんわ。」
「悠樹君、好きでもない子との結婚は良くないわ。大体、結婚するなら料理が出来る時雨や私とかにしたほうがいいわ。」
「その通りだと思います。なんでもお金で解決するような女なんて駄目女の極みですよね。」
「薫子先生といったかしら。さらっと自分を攻略対象に入れるような発言は止めてくださるかしら。年増のおばさんは黙っていてほしいわ。」
「失礼ね。私はまだ二十代よ。悠樹君、花宮から家出したくなったらいつでも私に頼っていいからね。」
「だ、抱きつかないでください!」
「うちで働いてもいいのよ?先生、独身だから。」
耳元でささやかないでほしい。
「あなたは一生独身でいればいいのです。悠樹は私にプロポーズしてくれたんですからいい加減私だけを見るべきですよ。」
リリーが突然顔を近づける。
「離れなさい。というかもう家の前なんだからリリーも落ち着きなさい。余裕がない女ははしたないですよ?」
「はいはい、あなたもあと数年したらきっとわかるわ。」
「ほんとそうですね、きっと誰とも結婚できないと思います。せいぜい性格に難ありって返品されるだけですよ。」
「私には悠樹がいますから心配しなくても大丈夫です。さあ行きましょうか。」
微妙にギスギスした雰囲気の中俺たちは中に入るのだった。
今回長めです。