15.5 敷島美織 Extra story1
この話の一人称は美織さんです。
「敷島さん!どういうことか説明してください!」
リリーさんが大声を上げて私の机をたたく。
「何のことでしょうか。詳しく言ってもらわないと困ります。」
「とぼけないでください!次の日曜は悠樹さんの誕生日です!そのときみんなでお祝いするからそれまで抜け駆けは禁止だって言ったじゃないですか!」
「そんなことありましたか?全く覚えていませんね。」
勿論覚えている。私だって好きで悠樹様の誕生日に独占しようとした訳じゃない。しかしこの人たちに言ったところで何か変わるだろうか。きっと納得はするだろう。しかし根本的な解決にはならない。
「まあ、リリー。そう怒らないでやれ。」
かすみが教室に入ってきて言う。
「だって……。」
「美織が悠樹の喜ぶことを妨害するなんてありえないわ。そして私が主催する誕生日会なんですから悠樹は必ず喜ぶわ。だから絶対に何か事情があるはずよ。」
「その自信がどこから沸いてくるのか知りませんが、確かにそうですね。私は好きで悠樹様と日曜日にバイトをする訳ではありません。」
「じゃあどうしてですか。」
「……飲食店付近にお祭りが開かれるからです。したがって沢山の客に見舞われることになります。そこで悠樹様の力が必要になるのです。」
「別に悠樹呼ばなくてもいいじゃない。」
「最近飲食店の従業員が減り気味なんです。たまたま都合のあわない人が多いというのもありますが。だからこそホールとキッチンの両方を完璧にこなせる悠樹様が必要なんです。」
「悠樹ってそんな料理や接客できるのですか?」
「入った時はそんなことはなかったのですが、日を重ねるにつれ料理は何処かのシェフが調理したような出来栄えになり、接客ではそれはそれは品のある仕草や笑顔で、罪のない女性たちの心を射抜いていました。逆ナンなんてこともよくありましたね。」
今思い出すだけで忌々しい。あの女たちを今すぐ消し去ってしまいたい。
「百パーうちで働いてるせいね。今の悠樹の女子力に勝てる人なんてめったにいないわ。」
「ですが夏祭りともなると悠樹様ひとりじゃ多分無理です。だれか料理が出来る人がいればいいのですが……。」
この二人はお嬢様。絶対に出来ないだろう。
「話は聞かせてもらったわ!料理は私に任せて!」
扉から時雨さんが入ってくる。とりあえず無視しよう。
「お二人方がどうしても手伝いたいというなら私が店長に連絡しますがどうしますか。」
『当たり前だわ(です)!』
「お願い、無視しないで!」
こうして騒がしい三人と共に日曜まで毎日バイトしたのだった。