12.5 森月時雨 Extra story1
この話の一人称は時雨さんです。
私はあれから家に帰った後部屋にこもって泣いていた。最初は悠樹に会えただけで胸が躍るほど嬉しかった。私は悠樹のことが好きだった。それは明白だ。けれど同時に幼馴染という立ち位置から変わりたくもなかったはずだ。
しかし私はホテルに悠樹を連れ込んで一線を越えようとした。勢いであんなことをしてしまったのだろうか。もう悠樹に合わせる顔がない。棚の上に立てかけてあった幼稚園のお遊戯会の写真や小学校の運動会の写真や中学校三年生の卒業式の写真、それと高校二年の体育祭の写真。すべて悠樹とのツーショット写真だった。ただの幼馴染だったあのころにはもう戻れない。
放課後は部屋にこもりっぱなしだった。泣きながら夜をすごしたこともあった。
そんな生活を続けていたある日の朝だった。
「時雨、友達が呼んでるわよー。」
お母さんが一階から私を呼ぶ。鈴音だろうか。私は下に降りる。
「遅いわよ。」
「遅すぎます。」
「かすみちゃんと美織ちゃんだよね……どうしてここに?」
もう私とは何も関係ないはずなのに。
「悠樹を取り返しに行くために決まってるでしょう。」
かすみちゃんから話を聞く。
「けど私、悠樹のこと何にも考えてなくて……いまさらどんな顔してあえばいいかわかんないよ。」
「あなたがそのままの関係でいたいのなら、別にそれはそれでいいけれど。」
「私は行くべきだと思いますよ。悠樹様もあなたのことは大切な存在だと思っていますから。」
「なんでそんなことわかるの!」
無意識に声を荒げてしまった。せっかく来てくれたのに……。
「私たちはもう行きます。少しだけ外で待ってあげますから来たいのなら来なさい。」
そういって家を出て行くかすみ。
私は二階へ上がり、お気に入りの服を着て身支度を整える。
支度を終えて玄関に行く。
そこにはお母さんが立っていた。
「ファイト、時雨。」
「ありがとう、お母さん。じゃあ行ってくる!」
私は覚悟を決めて家を飛び出す。
「私は悠樹が大好きだから!あなたたちなんかに絶対渡すもんか!!」
「うるさい、朝から近所迷惑だ。」
「遅いですよ。新幹線に乗り遅れたらどう責任取るつもりですか。どうせ悠樹様は私のことしか眼中にないのですから支度なんて早く終わらせてください。」
そして外で待っていた生意気な恋敵たちとともに駅に向かったのだった。