11.朝比奈・シャーウッド・リリー Scene2
次の日の朝、俺はかすみと途中偶然会った美織と共に登校していた。学校に着き、下駄箱を開けると靴の上に手紙が置いてあった。
「悠樹様?」
俺の不自然な態度を美織が感じとったらしい。だって手紙貰うの初めてだし。
心の中で言い訳をしながらポケットに手紙を入れる。
「なんでもないよ。遅れると悪いしもう行こう。」
「悠樹?」
俺は怪しまれないよう足早に教室へと向かう。
「あれは何かあったわね。」
「そうですね、大方どこぞの女狐が手紙で悠樹様を誑かそうとでもしているのでしょう。許せません。」
「手紙?」
「はい。悠樹様が手紙らしきものをポケットに入れていたのを見ました。」
「なるほどね。じゃあ悠樹が怪しい行動をしたら尾行しましょう。」
放課後、俺は手紙で指示されていた場所へ向かう。あの後こっそり手紙の中を見たのだが場所と時間しか書いていなかった。
しばらく待っていると後ろから声をかけられた。
「お待たせしてしましたか?立花くん。」
「朝比奈さん!?いえ、僕は来たばかりですが。」
この前の話だろうか。少し緊張してきた。
「デートの件なんですが……その……理事長から封筒を預かっているので、ここではあれですから一緒に生徒会室で開けていただけませんか。」
「わかったよ。けどここじゃ駄目なのかな?」
「理事長がそういっていたので。それに、あそこを見てください。あの窓からすごい表情で花宮さんと敷島さんがこっちを見ています。」
心なしか向こうをさす朝比奈さんの指が震えている。
「ほ、本当だ。何でここが分かったんだろう。」
かすみたちは俺と目が合うと走ってどこかへ行ってしまった。
「わ、わかった。それじゃあ生徒会室に行こうか。」
「そうしていただけると嬉しいです。」
朝比奈さんと一緒に生徒会室に入る俺。
朝比奈さんは入ると同時にロッカーの中を見て誰も入っていないのを確認し、生徒会室に鍵をかけ、カーテンを閉めた。
「随分と慎重なんですね。」
「はい、他の誰かには聞いてほしくない話ですから。だから立花君の上着を少し貸してもらえませんか。」
「いいですけど今の話とどういう関係が?」
朝比奈さんは俺の上着を確認し始める。
「……やっぱりありましたか。」
「なんですか、それ?」
「盗聴器ですよ。かすみさんが仕掛けたんでしょうね。普通はこんなところに仕掛けるなんてこと出来ませんから。」
と、盗聴器!?まさかそんなものが仕掛けられていたなんて。けどそう考えると納得できることは多い。
「あ、愛が重いなー……。」
っていうか、かすみ全然俺のこと信頼してなくね?
「それにしてもすごいですね。そんなことに気づくなんて。」
「そうですね、昔から誰かに見られたりとかそういう違和感に敏感で。まさか本当にやってるとは思いませんでしたが……。あなたも大変なんですね。」
「なんかそういわれるだけで救われたように感じます。」
女神っているんだなー。
「ただ……沢山の異性に優しく接している立花君も悪いですからね?」
「はい。」
そうですよね、仰るとおりです。
「本題なのですが、これを開けてもらえませんか。」
一つの封筒が渡される。
「朝比奈さんはまだ見ていないのですか?」
「はい、後で一緒にみるようにと。」
「わかりました。開けますね。」
封を切り、中のものを出す。それは手紙と二枚のチケット、そしてそれとは別の新幹線のチケットだった。手紙には『リリーは読むな!』と大きく書いてあった。
「これは……花火大会のチケットですね。一学生にしてはかなりいい場所の。」
「えっ、そうなんですか!?」
なんとなく嫌な予感がする。
「読んでもいいですか?」
「いいですよ、私は読んじゃいけないみたいですし。」
そこにはこう書いてあった。
先日のデートの件なのですがリリーの母にこのことを伝えると大変喜んだ様子で『娘にとうとう春が来たわ!これはチャンスね!』といって新幹線及び花火のチケットやホテルの予約を勝手にしてしまったようです。花宮さんの許婚なのですよ?、と何度言っても『そんなの関係ないわ!リリーの初デートなのよ!!失敗なんか絶対させないわ!!』と返されるばかりでした。そういうわけで明日の朝、リリーと新幹線に乗ってもらいます。香奈さんにはこちらから連絡いたしますので安心してください。
勿論、リリーはデートどころか異性と遊んだことはありません。ですので、万が一リリーとそういう関係になったとしても入学は認めますし、その後の手当てもいたします。なのでどうか一人の女性としてエスコートしてあげてください。そういえば『デート中は名前で呼びあってほしいわ!』とも言っていました。頑張ってください。
追記:娘に恥をかかせてしまった場合は無論退学ということにいたします。
「……こ、これはっ。」
まさに権力の暴力。しかもさらっと最後怖いことかかれてるし。
「なんて書いてあったのですか?」
「まあ要するに、新幹線に乗って花火大会に行き、終わった後ホテルに泊まって帰ってきなさいと。あとデート中は名前で呼び合えって朝比奈さんのお母さんが。」
「えっ……えっ!?」
朝比奈さんは驚いた様子でこちらを見る。……本当だよ?
「本当……みたいですね。わかりました。……その、よろしくお願いします。」
「こ、こちらこそ。」
こうして朝比奈さんと俺は出会って三日でお互い初めてのデートをすることになったのだった。
リリーさんまだ続きます。