10.朝比奈・シャーウッド・リリー Scene1
あれから数週間。学校や美織と決めたバイト先の飲食店、かすみの家の仕事(屋敷の掃除や家事全般)にも少し慣れてきたころ、俺は学食でかすみと美織と一緒にお昼ご飯を食べていた。
「ごめんなさい、ちょっと隣いいかしら?」
話しかけてきたのはブロンドの髪をした美人だった。
「すみません、ここは私の席ですので。」
美織がすかさず俺の隣に座る。いや、お前さっきまで目の前でアクアパッツァ食べてたじゃん。
「あなたはさっきまでそこの席でアクアパッツァ食べてましたよね?」
あなたも言うんだ……アクアパッツァ。
「アクアパッツァアクアパッツァうるさいわ。食事中なんだから静かにしなさい。リリーも私の許婚に何か用かしら?」
俺アクアパッツァ口に出してないよね。しかもかすみが一番言ってるよね?
というかこの人リリーさんっていうんだ。
「そうでした。花宮さんにもお話がありますから二人とも放課後、理事長室に来れますか?」
理事長室!?もしかして俺何かやらかした?
「俺は時間がかからなければ大丈夫です。」
「生徒会長が私たちに何の用でしょうか。少しくらいどんな話か教えてくれてもいいですよね?」
かすみが言う。……ってリリーさんって生徒会長さんなんだ。
「そうですね、分かりやすく言うと……女子高における男子の危険性とでも言いましょうか。それでは放課後にまた。」
あっ、何にも食べないで帰るんだ。
しかしまあ……なるほどね。そりゃ女子高に、ある日突然男がきたら特待生っていっても納得できないよな。
「また退学になるのかなー。」
「大丈夫よ、悠樹。私が意地でもそんなことはさせないわ。」
すごい頼もしい。花宮の御威光がまぶしいよ。
約束どおり放課後校長室に来た俺たち。
「待ってましたよ。どうぞ、座ってください。」
導かれるままソファに座る。目の前には生徒会長と理事長。
「ここに呼ばれたのはどのような件でしょうか?」
かすみが質問する。
「そう焦らないでください、まずは自己紹介から始めますね。私はシャーウッド・オリヴィア、この学園の理事長でこの娘の祖母です。」
この娘って生徒会長のことか。確かに雰囲気はどことなく似ている気がする。
「私は朝比奈・シャーウッド・リリー、イギリス人と日本人とのハーフです。言わなくても分かるかと思いますがこの学校の生徒会長をしています。名前はお好きなように呼んでください。」
「朝比奈も、シャーウッドも、リリーもなんかすごいいい名前だな。」
「ふふっ、そうですか。そんなの初めて言われましたよ。」
「悠樹、許婚の前で他の女口説かないでくれない?」
かすみが不機嫌そうに言う。思ったこと言っただけなんだけどな。
「それで悠樹君。香奈さん……かすみちゃんの母があなたは無害だといっていたけれど、一応こちらでもあなたがこの学校にいても危険が及ばないか確認させてもらうわ。」
「具体的には何をすればいいのでしょうか?」
「そうね……じゃあ、うちの娘とデートしなさい。」
「えっ?」
「おばあちゃん!?」
「了承しかねます。私は悠樹の許婚です。それを差し置いてデートなど……ありえませんわ。」
「そうですか、じゃあ悠樹君を退学にさせてもかまわないと?」
かすみは理事長に思いっきり睨みつけている。が理事長は平然としているようだ。
「しかしあなたにも悪い話ではないですよ?悠樹君がリリーに手を出さなければいいのですから。あなたが悠樹君を信頼しているなら答えは決まっているでしょう?」
なるほど。こんなに可愛いうちの娘に手を出さないならきっと大丈夫でしょうってことか。
「……わかったわ。」
「花宮さん!?それでいいのですか!?」
「ええ、私は悠樹のこと信じてるもの。」
「そんな……。」
かすみが言いくるめられるなんて思いもしなかった。この理事長、只者じゃない。
「じゃあ日程はあとで知らせるわ。帰っていいですよ。あとリリーは少し残りなさい。」
そうして俺は、歯を食いしばって珍しく悔しそうな表情をしているかすみと共に理事長室を出たのだった。
話の前から悠樹色に染まってない枠です。