召喚された私より、元の世界の神様が激おこでした
第一話 召喚するということは……
見ると広場のようであった。
「成功だ。やった。これで国が救われる」
「鑑定はどうだ? 誰ぞ確認できぬか」
「いえ、全く分かりません」
「なんだと。鑑定が使えぬだと? とっとと、隷属契約をするのじゃ」
「はい」
なるほど、周りにいるのが俺を召喚した奴らか。言葉もわかるな。
ん?あれは水晶だろうか。中心にいる太った男が何やらやろうとしている
隷属契約?奴隷にしようとしているのか? やばいな。
『多茂津さん、お体をお借りします』
「えっ?」
多茂津の体を占有した何者かが、近くにあった石をつかんで水晶めがけて投げる。と同時に多茂津本人の意識が薄れていく。
『精霊の契約に従いその隷属契約ひぃ……』
石が水晶に当たり一部が欠ける。
「……んっ。なっなにを」
「この方を隷属契約しようとしたのでしょうが無駄ですよ!」
~~~~~
「お目覚めですか?」
「あれ? ここは?」
「ここは一時的な空間です」
「あなたは? いや、私は五十嵐多茂津です。初めまして」
「はい、初めまして。私は神です」
「あ、ども。香美さんですか。これは始めまして。あ、名刺、持ってきてないなぁ。申し訳ありません」
「(くすっ)」
「いえいえ、よろしいのですよ」
「香美さん。なぜ私はこんなところにいるのでしょう? 確か木曜日から休み貰って3泊の予定でキャンプ場で1人楽しく車中泊キャンプに来ていたはずだけど」
「はい、貴方は車でキャンプをしていました」
「そして、早めに就寝したはず。電気敷き毛布の能力を確認するために」
「はい、寝ていました」
「????」
「実は、貴方は他の宇宙の惑星の召喚儀式によって召喚されてしまいまして、もう二度と地球のある宇宙に戻れません」
「召喚? 元の宇宙? えっ?えっ?」
「はい。貴方は他の宇宙の星の魔術によって召喚されてしまいました。本当に、本当にごめんなさい!!!」
「なぜ香美さんが謝るのです?」
「そ、それは……」
香美さんの説明によると、香美さんは、香美さんではなく。神様で、アーシラト神と言うそうだ。
私が勝手に香美さんと勘違いしてしまった。平謝りだった。
アーシラト様によると、いつもは魔術的な構築が地球に及ぼされると、現地の神と地球の神、今回はアーシラト神がそれを防御して魔術構築を破棄するように、手を加え、召喚を防ぐのだそうだ。ところが今回は構築を防ぐことができずに召喚を許してしまったらしい。
そのため私が他の宇宙の星に召喚をされてしまったということだ。ただ、一時的にこの空間に呼び寄せるように介入することには成功した。
そして今回の件を説明するとともに、別の宇宙で生活できる術を与えるために呼び寄せたということだった。
元の世界に戻ることは出来ず、召喚された先の宇宙で生活せざるを得ないとのことであった。
「召喚した世界ではあなたを利用して、魔王と戦わせようとします。申し訳ありません」
「私を? 普通の人間の私をですか? でもそれはアーシラト様の責任ではありません。私を召喚した人に責任ではないでしょうか?」
「ええそうですね。ただ、貴方はあちらの宇宙の最上位の人の10倍の生命力、魔力、体力などの能力を持つようになります。こちらの宇宙から召喚されると凪の宇宙を通過します。その際に特別な能力を持つようになるのです。勇者召喚で人外の能力を持つのはその為です」
「はぁ。良くわかりません。まあ、私自身体力などは無いからなぁ。でも、どうせ生活するなら戦いなどはしたくなですね。何とかならないかなぁ?」
「そうですね、ならば言語読解能力を授けましょう。魔王と戦ってと言われたら、魔王と話し合いで解決できるようになるでしょう。戦う前に話し合いをしてみてください。それでも無理なら仕方ありません。この能力は知らない言葉も聞くだけで習得できます。もちろん書くことも」
「ありがとうございます。もしかして私が召喚された世界は魔法があるのですか?」
「ええ、有ります。魔法と魔術がありますね。あっ!そうですねぇ。魔法も使えるようにいたしましょう。基本的な属性火、水、土、風、木、雷を基に、光と闇と聖と邪、正と負。序でに化学と科学、空間と時間も組み込んでしまいましょう。創作魔法も。そうだわ知識も必要ですよね。貴方は地球の知識を持っています。それらも魔法にしてしまいましょう。パソコンやスマホも使えるようにしましょう。あの宇宙の星の連中がこちらの世界の神々の子供を召喚したことを後悔させてやりますわ。魔法防御に、物理防御、対ショック防御、対閃光防御、エネルギー120%充填ですわ! かならず後悔させてやるわふふふふフフフフ腐腐腐腐」
「(なんだか怖い)」
「こ、こほん。そ、そうだわ」
「なんでしょう?」
「そこにある車は、インベントリに仕舞うことによって常に自動で整備され、必要なものは補充されるようになります。ただ補充は今現在の状態に戻るだけです。使用しても収納すれば今現在の状態に戻ります。そうだわ、積んでいるものについては機能が十全に生かされるようにしましょう。物理的には半永久に使えるようになります。ただ今の車と搭載物限定ですが」
「そうですか、ありがとうございます……。えっ!! インベントリが使えるのですか?」
「ええ、早速仕舞ってみてください」
『収納』
隣にあった車が消えた。インベントリは一覧で車に積んでいたものがツリー構造で分かるようになっている。
「そういえば多茂津さんはRPGは得意ですか?」
「得意とは言えないですね。でも、楽しんで遊んでました。それが?」
「あちらの世界も似たようなシステムです、あ、そろそろ時間です。お気をつけて暴れてきてください。召喚した者には厳罰を与え、召喚したことを後悔させるのです!! 私の意識の一部も一緒に飛ばします。二度と召喚したくないようにしてやります!! ふふふふふふふ」
その瞬間、意識が消えた
~~~~~
再び目覚めると……。
「お目覚めですか?」
「あ、あれ?ここは?」
目覚めたときは先ほどと同じ真っ白な空間だった。
「このたびは大変申し訳ありませんでした」
「えっと、もしかして神様ですか?」
「はい、こちらの世界の神でアーミラと申します」
「あ、これはどうも、五十嵐多茂津です」
「はい、アーシラト様より伺っております。それで召喚した者以外は何も悪くはありません。なるべくお手柔らかにお願いします。まだ発展途上でありまして……。その~。あ、でも……」
「はあ。ああ、もちろん私を召喚した者については厳罰にするように言われています。それはアーシラト様の要望ですから。二度とこんな真似をしないようにと。でも、それ以外の人については関係ないですからね。まあ、高圧的な態度を取られると分からないかな。キレやすいって言われていたし……」
「ありがとうございます。私からタモツさんにできるのは……。もうほとんど残っていませんね。後は年齢を若くするくらいしかありません。48歳を18歳にしておきましょう。あとは女神の加護と、自動車に特殊な処理をしておきましょう」
「え、年齢を?ありがとうございます。元の世界に戻れないので助かります」
「それと、召喚された世界には自動車やスマートフォン、パソコンなどは存在しません。使用されても問題はありませんが奇異な目で見られると思います。そうなってもお許し戴けないでしょうか?」
「分かりました。覚悟して使います。他に注意事項ってありますか?」
「亜人や魔人や魔物がいます。もちろん普通の動物も。どうかお手柔らかにこの世界を満喫してください」
再び意識が途絶える。
~~~~~
第二話 女神による神罰は手加減が無かった
「この人をこの世界に召喚しろと命令したのは誰ですか?」
「なんという無礼者、斬り捨てよ」
『麻痺』
轟音と共に、光が多茂津を襲おうとした騎士たちに襲い掛かり、全てが地に伏せ動けなくなる。
「な、何がどうなって」
太った男がうめく。
「わ、私です」
17~8の娘が一歩前に出てきて、名乗りを上げる。
煌びやかなドレスを纏い、高価そうな宝石で身を固めている。
いかにも贅沢三昧をしていそうな人間だ。
その隣にはさらに豪華絢爛な装飾を身にまとっている女性がいる。その反対側の隣には太った男。どれも贅沢な装飾が目を引く。それぞれの体つきも……。はっきり言うとデブと言える体型だろう。
「なぜ、この人を召喚したのですか?」
「この人? いま、魔物達がこの地を襲い、国民が疲弊しております。是非、貴方様には魔王討伐を行っていただきたいのです」
「ほう、魔王を」
「ええ」
「ちなみに貴方のお名前は?」
「私はソフィア・フレーレリカ。第一王女です」
女神は名前を聞かなくても全てわかっている。あくまで確認だ。
ちなみに隣にいる太っているのが国王である。
「なるほどわかりました。この人は多茂津さんです。ところで国民が疲弊していると言いましたか?」
「ええ」
「なぜ、あなたはそんなに贅沢をしているのです?」
「えっ?」
「もう一度聞きましょう。なぜ疲弊している民たちがいるのに、あなたはそんな贅沢をしていられるのですか?」
「……」
「答えられませんか?」
「ずいぶん贅沢三昧をしている王族ですね。民の生活を鑑みない王族など存在意義がありません」
「きさまぁ。これ以上の無礼は許さんぞ」
太った国王が何かを言っている。その瞬間太った国王の両足が不自然な方角に折れ曲がり、顔面から国王は倒れこむ。
「うががががが」
「この方は、普通の生活をしていたところ、貴方たちの身勝手な召喚によって勝手にこの世界に呼ばれました」
「も、もちろん、魔王を倒した暁には褒美も、そして帰還の魔術で元の世界にお帰りいただきます」
「それは無理です。あなた方も知っていて召喚したのでしょう? 下位の世界から上位の世界に戻すことはできません。 水が重力に逆らって上に流れますか?」
「……」
「それに、私は怒っています、我らの子供たちを理不尽に召喚魔術を使いこの世界に召喚した者たちには必ずその責任を負わせます」
「そんなことをしたらあなたは一生追われる身になりますよ」
その時、王女の腕が曲がらない方向に折れ曲がった。
「えっ? ぎゃゃゃゃ~」
「まだわからないのですか? 私が誰か。私は召喚されたこの方の世界の女神です」
「そんな嘘が通用すると思っているのか」
「まあ、信じる信じないはそちらの勝手です」
「……」
「あなた方が最初にこの方に言う言葉は謝罪の言葉だったのですよ。残念です。それなのにまだ上から目線でものをいうとは。この国の王族は愚かさによって滅びます。召喚などという軽率な行為を行ったこと。一応、こちらの世界の女神アーミラからも召喚行為を行った首謀者に厳罰を与えてもよいとのことです。もっとも私にはそんな許可は不要ですが。実につまらないことをしたものですね。王族の無知によって一族は滅びることになり、これから先その血は穢れたものとして扱われるでしょう」
「えっ。アーミラ神から。ま、まさか……」
「この国では、突然、王族が死に絶えても国の体裁を保つ事は可能ですか?」
そういいながら周りを見渡す女神。
「それならば、わ、私が何とかいたしましょう。宰相をしていますロイタールです」
一歩前に出てきた線の細い男性。
「そうですか。では貴方に任せましょう。民を飢えさせてはいけません。国を崩壊させてもいけません。わかりましたか?」
「は、はい。仰せのままに」
「では、王族と召喚の儀式を行った魔術師、それに召喚を薦めた人物を教えてください」
ロイタールに教えてもらった王族。そして魔術師を並ばせる。
全部で8人、王、王妃、第一王女、第一王子、第二王子、魔術師とその弟子、そして召喚を薦めた貴族。
全員がその場で斬首された。容赦なく。刃物を使ったわけではない。気が付いたら首と動体が分かれていた。血が降り注ぐということもなく。しかし、死んではいない。首だけの状態でも生きているのだ。
その体は目の前で黒炎によって消滅させられた。黒い炎に包まれたと思ったらその場から消えたのである。僅かな灰すら残らずに。さらに多茂津の体を使っている女神はそれぞれの首の髪をつかみ、それを王城の円錐形の屋根の部分の外周に沿うように突き立てた。顔は城下を見渡せるようにして。
目は見え、音は聞こえ、考えることもできるが、声を出すことはできない。首に痛みは全くないが感覚はある。
つまり、かゆくても掻けず、眠くても眠れない。不快な感覚だけが神経を蝕んでいく。狂いたくても狂えない。
「1年間貴方たちは死ぬことはできません。その状態で反省なさい。1年たてば魂は消滅します」
魂の消滅、それは存在したことすら認められないということである。宇宙の記憶として記録されることが無いということになる。
普通は死んで魂はその世界から消えるが、宇宙の記憶には残るのである。その魂は輪廻による復活がありえる。しかし完全に消滅するとそれもあり得ないのである。
~~~~~
「ロイタール、二度と召喚魔術など使わせないように。この国にあるそれらに関する書物はすべて焼却するように」
「はい、仰せのままに」
「ところで、今までにも召喚魔術を使ったことはありますか? この方以外で」
「確か、300年ほど前に使った記録がございます。その時は特に問題なかったとか」
「なるほど、その時はこの方の世界と違う宇宙からの召喚か、同じ宇宙内での召喚だったのでしょう」
「うちゅう?ですか?」
「ええ、この世界とは別の空間の世界の事です、世界によっては召喚されるのを好まない神がいるということです。例えばこの王国内で人さらいが発生したら普通は攫った人間を許さないでしょ? 特に他国がそれをやったら普通は抗議するはずです。民は国の宝なのですから。自分たちの世界でそうなのだから、他の神が管理する世界から人を攫ったら神がお怒りになるのは当然でしょう?」
「それは確かに」
「召喚する前に誰かがそれに気が付いてくれれば私がここまで出てくることはなかったのです。この方もここにいなかったはずです」
「申し訳ありません、本来は私どもの役割でした」
「それに気が付いただけで良しとしましょう。その代り、今度召喚魔術が使われたら……。その国は亡ぶ事になりますよ」
「は、はい。し、しかし、魔王が攻めてきたら我々はどうすればよいのでしょう?」
「それは自分たちで考えなさい。この世界の女神に祈るか、兵を鍛えるか、魔王との話し合いで解決するか方法はいくらでもあるでしょう。抑々、見も知らずの人を召喚して国を守らせるという行為がどれほどの愚策か考えるべきです。無関係の人間を巻き込むなど言語道断!! 彼らはこの世界に対してなんら責任を負うものではないのです」
「……」
「それでは私は帰ります。この方はここであったことは何も知りません。後は任せます。もし、王家復活を行うなら一番血筋が遠いものを選びなさい。血が濃ければ濃いほど王家は呪われるでしょう。また、この方に危害を加えようとしたら神罰を与えます。よろしいですね? 最低限の事で構いませんこの方の面倒を見てあげなさい。また、この方の思うことを最優先に。魔王討伐、戦争への強制はしてはなりません。わかりましたね」
「ははぁ」
多茂津の体が一瞬輝くとともに、そこに存在した意識体は光となって天空に戻って行った。
そう、多茂津の体を間借りしていたのは女神アーシラトであった。
やがて麻痺が解けた近衛隊、王城守備隊は起き上がりはしたものの、即座に行動を起こせるものは誰もいなかった。
麻痺を受けていても体が動かないだけで意識はあり、その場で起きた出来事を全て聞いて、見ているのである。
王族全てが懲罰を受けていることに嘆く近衛隊もいる。しかし召喚という行為に対しての神から直接受けた罰に対して何も言うことは出来なかった。
『たかが召喚しただけなのに』なぜここまで? と思う関係者もいたが。神にとってそれは『たかが』ではなかったのである。人の考える『たかが』と神の考える『たかが』は次元が違うのである。神にとっては『たかが異世界の人間の数万人』と言う言い方もできるのであるから。
王族がいなくなれば近衛隊が不要になると言うわけでもない。近いうちに王を決める必要もある。
もちろん血縁が一番遠いものを探し出して。
ロイタールは近衛隊、守備隊たちに指示を出していく。治安維持などは必要である。
ロイタールも王家の遠い血縁ではあるが、自身が王になろうなどとは思わなかった。それは王の行いを止められなかった自身への負い目もあったのだろう。
この現場を見ていない貴族たちは騒ぐだろう。だが屋根の上にある生きた首を見れば真実と受け入れるしかなくなる。また、近衛隊には貴族の二男や三男などもいるため彼らがそんな嘘をつく必要があるはずもないのである。
~~~~~
第三話 女神が去って
やがて目を覚ました多茂津はおなじみのセリフ「知らない天井だ」を使わなかった。
ベッドの上で目を覚ました多茂津はなぜこんなところで目を覚ましたのか不思議に思ったが
「(ああ、召喚されて異世界に来たんだった。そういえばアーシラト様の件を対応しないと)」
「お目覚めですか?」
なんと『お目覚めですか』3連発である。多茂津にとっては目覚めるたびに聞かされた言葉なのでだから。
そこに立っていたのは地球でもおなじみのメイドであった。ただし、メイド喫茶のきゃぴきゃぴしたメイドではなく、しっとりと仕事をこなす本物のメイドである。
スカートは足首まであり、生地は綿、黒のスカートに白のエプロン。頭にはカチューシャと地球のと全く変わりはない。
「あれ、ここは?」
「はい、ここは王城の賓客がお泊りになる部屋です」
「たしか、アーシラト様に体を乗っ取られて、後のことは覚えてないな」
その時ドアが激しく開き、一人の男性が入ってきた。
「お目覚めになられましたか。よかった」
「あなたは?」
「挨拶が遅れまして申し訳ありません。私はロイタールと申します」
「ロイタールさん? 私は多茂津といいます」
「何か覚えていることは有りますでしょうか?」
「召喚されたと神様から聞いて、たしか何かを話したような? でも気が付いたらここで寝ていた。ってことですね」
多茂津は女神アーシラトに体を乗っ取られたことはわずかに記憶していたが、そこから先は覚えていなかった。それはアーシラトが記憶の一部を消して、元の世界に戻ったからである。
アーシラトは多茂津が日本人であること、平和慣れしていることを鑑み刑罰の内容が精神に耐えきれないと判断したためその記憶を消していったのである。
「このたびは大変申し訳ありませんでした。タモツ様の体を通して女神さまが降臨し、召喚した者に厳罰を与え、二度と召喚魔術を使用しないように言われました」
「ああ、だからその間の事を覚えていないのか(ということは、私が神罰を下さなくてもよくなったってことか、よかった)」
「それで女神さまの言伝になりますが。タモツ様の行動の妨げはしてはいけないと言われています。これからいかがなさいますか?」
「(この世界の事何も知らないんだよなぁ)そうだ、この世界の事を教えてもらうことってできますか? 私の世界と常識も何もかも違うと思うので」
「分かりました手配しましょう」
~~~~~
第四話 お城での1週間
この世界の人々は、日が昇って日が沈むまでが基本生活のリズムである。
もちろん、夜はローソクやランタンなどで灯りを取る。ランタンは光の魔法石に魔力を流すことで光が灯る仕組みである。魔力は本人が行使する必要はない。魔法用の石があり、そこから魔力が供給供給される。
供給されると言っても、6角柱のガラスの無い箱がランタンであり、その中の上に光の魔石が針金で吊るされ、その下に魔力石が固定されて置いてあり、遮蔽版をその間に挟むと魔力供給が絶たれ、遮蔽版を外すと魔力が供給されランタンが光るという仕組みであった。
1日はほぼ地球と同じ1年365日。6か月に分けられており、ひと月は60日、6月が65日ある。1日は12刻。1刻は地球時間で2時間。半刻が1時間と言う仕組みだ。
まあ、24時間でほぼ間違いない。1週間は10日。6月の最終週のみ5日となる。9日働いて1日が神の日で休みである。6月の最終週は全て休み。と言う具合である。
そのため多茂津の時計関係はカレンダーは役に立たず、時間のみ使えるということになる。
1日のスケジュールは大体6時(3刻)に起床、8時(4刻)までに食事、8時から休憩をはさみながら座学、12時(6刻)から食事と休憩。
14時(7刻)から剣術、魔術訓練を16時(8刻)まで夕食の18時(9刻)まで自由時間、夕食後の時間は寝るまで自由。風呂もあるので風呂に入ることもできるが、2日に1回である。寝る時間は特に決まっていはいないが大抵21時(10刻半)である。
実際は座学については3日ほどでこの世界の大体の事が分かった。人間族や亜人族、魔人族などや生態系についての違いに驚かされた。
人族、魔族、亜族が三大知的生命体。文化を育むこともしている。
魔物、動物、昆虫、植物などが基本知性のない生命体になる。基本はあくまで基本で当然例外もある。
知性が無いとは言っても、蟻の様に集団行動をするものもいるため完全に知性が無いかと言うとそうでもない。 コロニーを作り簡易ながら家を作る魔物もいるのである。亜族と魔物の中間に位置する魔物である。
代表的なのが、オーク、ゴブリン、コボルト、グレムリンなどがそれにあたる。
剣術については高校まで体育でやっていた剣道が役にった。体術についても同じである。幼いころに齧っていたことは役に立つものである。もちろん実戦向きではないと言われたが完全な素人よりはマシであった。
魔法・魔術については魔法陣を使わないものは魔法で、魔法陣を展開(羊皮紙などを使用する)させるものは魔術となるらしく、魔術については専門的な知識が必要なため、多茂津には無理であった。その代り、魔法はイメージを的確にとらえることが可能だったので直ぐに覚えた。
多茂津はこの世界に来るときに女神に与えられたスキルをこの間に確認できたが、それらはこの世界で生活するにはあまりにもオーバースペックであることが分かった。実際、女神は多茂津本人を使って神罰を下すために与えたつもりであったが、召喚という行為に対する怒りに我を忘れ意識体の一部を使って自ら神罰を下したため意味がなくなった。与える必要のないものであった。また、スキル回収も行わなかったためそのオーバースペックな状態でスキルが残ってしまったのである。
例えば魔法はこの世界では考えられない科学を融合した性能であった。肉体能力ははるかに高い能力を示した。そして、上位魔法も覚えたが、はなるべく使わないでほしいと念押しされた。
その間にステータス(鑑定スキル)の見方も覚えたのだが、名前と年齢、スキルしか表示されなかった。HPやMP、STRなどは表示されなかった。それは多茂津本人のステータスを見たときであり、他者のステータスで見るとHPなども表示された。
貴賓室は結構広く、床も石材でできていたので、車を出すことができた。
2トン弱の重さに耐えうる床であった。
また、車をインベントリにしまう時にうっかり荷物をしまい忘れて仕舞ったため、車をインベントリから出したら仕舞い忘れた荷物が召喚時の状態で車に積まれたままに存在した。つまり、召喚時のときに車に搭載していたものはいくらでも増やせるということを意味していた。車自体は増やせないが、タイヤを外してインベントリにしまうと召喚時の時の状態の車もどりタイヤが4本ともついていたのである。外したタイヤとは別に。
そんな感じでうっかり車を出しているところをエミーに見られてしまったので他には内緒と言うことで車の説明とインベントリの説明をした。
車に入れて持ってきていた紅茶をエミーとともに堪能したりもした。雑談の中でこちらとあちらの世界について話をした。
座学での話はどちらかというと貴族目線での話が多かったが、エミーの話は市井の民の生活習慣の話が多かった。
時折、エミーとともに王城から出て、王都市街で食事をしたり説明なども受けていた。もちろんその時は許可をもらってだ。
ロイタールついて言うと、車に積んでいた酒を渡すと喜ばれた。始めのうちは断っていたが、一度飲ませるとありがたく受け取ってくれた。決して買収などではない。
そんな感じでのあっという間の1週間であった。のだが、ここで最初の認識との食い違いが発生した。
多茂津は7日で1週間と思っていたが、こちらの世界では10日で1週間であったのだ。これについては多茂津が納得していたので問題はなかったが、感覚のずれはこれからもあるだろうと多茂津は感じていた。
こうして多茂津はこの世界の知識を手に入れた。そして今更ながらわかったことがある。
この世界は。剣と魔法のファンタジー世界であると。
~~~~~
第五話 そして出発の時
「これまでお世話になりました、ロイタールさん」
「いえいえ、何も役に立てませんで」
「いえ、身分証まで作っていただいて本当にありがとうございます」
「うう、タモツさん行ってしまうのですね。寂しいです。折角、お友達になれたのに」
エミーさんはベッドで起きたときに一番最初に顔を合わせたメイドだ。
1週間多茂津の身の回りの世話をしていたためか、フランクに接するようになった。
本来メイドがこんな接し方をすれば即クビが飛ぶ。だが、この世界で友達のいない多茂津が気楽に接してほしいと言ったため本当にぶっちゃけて接してきた。
「エミーさんにもお世話になりまして、またここに来るときにお茶しましょう」
「はいぃ」
部屋に車を出してエミーとお茶をしながら雑談などをしていた。この世界のこと、元の世界のことをお互いに話すだけでも十分な情報になった。お茶しましょうとは車に入れていた紅茶の事であり、当然この世界には存在しないものである。
部屋に車を出せたのか?だって? 貴賓室は無駄に広くクルマ3台くらいは余裕で出せそうな広さであったし、木造ではないので重量にも耐えられた。
紅茶については袋ごと持っていた全種類をエミーさんにプレゼントしている。全て100円ショップの物であるが。どうせ車をインベントリにしまえば召喚時の状態になるのであるから。
「タモツさん、これを。旅の道具になります」
ロイタールから、差し出されたのは短剣と皮鎧に巾着袋と金属板だ。
見てみたところ短剣には相応の意匠が施されており、巾着袋には金貨が簡単に数えきれないくらい入っていた。 ロイタールは既にインベントリのことは知っており、必要最小限のものを用意してくれたようだ。
よく見ると金属板にも短剣にあるのと同じ意匠が施されている。
「これは?」
「迷惑をおかけした償いのお金になります。少なくて申し訳ありませんがお持ちください。金属板は身分証になります。魔法が施されていますのでどの国のどのギルドでも通用します。爵位は不要ということでしたので、王家にかかわる意匠のみ施してあります」
爵位をくれるということだったのだがそれはお断りした。まず、自分が爵位をもらう理由が分からない事、貴族社会が面倒なこと、貴族のマナーを知らないので断った。
しかし身分証は大切だ。お金もこちらの物は持っていないのでありがたい。
「ありがとうございます、いただいていきます」
そうして多茂津は王城の門をくぐり王都の街に歩き出した。
にぎやかな城下町をぬけ街の門を抜けて外に出た。ここからは自由気ままな旅の始まりである。
だが気になった人もいるのではないだろうか?
え?皮鎧とお金と短剣だけで旅? 無謀なんじゃね? と。
しかし、多茂津のインベントリには車中泊していた車が保管されており、そこにはペットボトルに入れられた米、各種調味料、クーラーボックスに入れていたスーパーの肉や各種野菜、コンテナボックスにはカセットコンロ、CB缶、ミニグリルパン、食パン、袋麺、各種レトルト、各種調味料、インスタントコーヒー、各種紅茶、そのたもろもろが入っているので、次の町や村までは余裕なのである。それに、一旦車をインベントリにしまえば使った分が再び元通りになっているのである。
能々考えればインベントリにしまえば、召喚時の状態に戻る。それだけでチートと言えるだろう。
それに、3泊の予定で車中泊キャンプをするつもりだったので、普段は積まないものまで積んでいた。
街道を暫く歩いたら、石畳が途切れ、道は砂利道で林道のような道になっている。
周りを見ると左には麦畑が続いている。麦畑の先に見えるのは霞の様に見える山々。街道の右側は果樹園だろうか?
「異世界って言っても、発展途上の地球のようなものだよな。ヨーロッパののんびりした風景のようだ」
多茂津はのんびり歩いている。
どこかで車を出して運転していこうかと思っていたが、天気も良く歩きを続けることにした。
多茂津の車はPHEVで100VACで2000Wまでの電化製品が12時間連続で使える。もちろんエンジン発電をすれば別である。そんなモーター駆動のAWDミニバンタイプである。EVだけで300kmの走行が可能で、電力がなくなると2リッターガソリンエンジンが電気を作り蓄電と当時にモーターに電力を送る。広告での謳い文句は『一般家庭にエンジン発電で15日間分の電力供給が可能』である。林道を通ることも多かったのでタイヤはセミオフロード用のタイヤに履き替えていた。この選択は、この世界において都合がよかった。
それから4時間ぐらい歩いた。
「このくらい歩けばそろそろ王城に近い村に到着するはずだが」
王城で見せてもらった地図を撮影し、タブレットのそれを見ている。GPSが機能していないので詳細の場所までわからない。徒歩で休憩を入れずに4時間。腕時計の歩数計を見ると20km弱歩いたことになっている。考えると役に立つのは歩数計での換算の大雑把な距離だけだ。それでも村に到着すれば歩いた距離を地図に書き込める。
再び歩き出す。
村に到着したのはそれから1時間してからであった。
王都から一番近い村、休憩なしの徒歩で5時間の距離であった。村は簡易的な木の杭柵で囲まれていた。まだ王都からは近いので、それほど大げさな防護壁などは必要ないのであろう。
「最初の村か」
王都からほどほど離れているが、それほど遠いわけでもない村。それでもこの世界で最初に訪れる村である。
多茂津はワクワクしていた。
多茂津はこれからどんな異世界冒険譚を築き上げていくのであろうか?
女神からもらった力で蹂躙していくのか、はたまた元の世界のように景色やオートキャンプを1人で楽しんでいくのでしょうか?
ふと、書きたくなって書きました。プロットも何もありません。『召喚に対する神の怒り』のようなものが頭に浮かんだので、書いてみました。
まあ、私の頭の中のごちゃごちゃを吐き出したかったというのが本音です。
文も矛盾があったり、読みにくい部分があると思われます。ごめんなさい。
一応短編にしていますが、もしかしたら長編に変更するかもしれません。
その時は名前など変更する可能性があります。
長編に変更する場合には、短編は削除するかもしれません。ご了承ください。
車にどんなものを積んでいたか、長編になったら書けるかもです。
もしかしたら追加したり、書き直したりするかもしれません。
メインを放っておいて何をしていると思われる方もいらっしゃると思いますが、一度頭に浮かぶと吐き出さないとメインの話を侵略しそうだったのでお許しください。