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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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81話 サンダーウェイカー最後の輝き

 だがシサンダンは短く息を吐き、表情をもとに戻した。

「アレス、ルーティは私が対応する。このまま進めるぞ」
「え、あ」
「剣を砕くのは想定外だが、お前が失敗すること自体は可能性として想定している。問題ない」

 シサンダンはドンと足を踏み鳴らした。

「どうしたシサンダン、余裕がなくなったじゃないか」

 俺はシサンダンを挑発した。これでペースを乱してくれればいいが、そう容易い相手ではないだろう。

「そうだな認めよう。お前の妹は危険な存在だ。なればこそ勇者以外になることは許されん」
「それはなんの話だ?」

「気をつけてください!」

 俺とシサンダンが睨み合っているところに、ティセが叫んだ。

「下から何か来ます!」
「下!? まずいリット! 逃げろ!」
「え?」

 リットの元に駆け寄ろうとした俺をシサンダンが止める。昇降機を抜け出そうとするリットの方にも、シサンダンは牽制した。

「まぁ待て」
「どけ!」

 俺の剣はシサンダンの腰から抜き放たれた剣で受け止められた。

「な、それは降魔の聖剣!?」

 一瞬、俺の注意はシサンダンの剣に注がれる。それは3秒程度の僅かな間だった。
 しかし、その瞬間は紛れもない失われた時間だ。
 これから起こるやり取りは30秒にも満たない戦いだった。30秒に比べれば、3秒は決して無視できる時間ではないだろう。

 まずリットのいる昇降機の床が弾けとんだ。

「二体目の精霊竜!?」

 鎧を身にまとったような姿をした精霊竜は狭い昇降機の空間の中でリットへと大きな口を開けて襲いかかる。
 リットは不安定な体勢のまま、ショーテルで精霊竜の顔を斬りつけた。
 だが、首の後に捕まり、竜と一緒に昇ってきた人物の姿を見て、リットは驚き、追撃を止めた。

「あ、あなたは!」
「ホーリーチェイン」
「な! え!?」

 リットの身体が聖なる鎖で縛られる。英雄リットを持ってしても抵抗することもできなかった強力な法術。

「テオドラ! なんで!!」

 リットの叫びを無視して、槍を構えたテオドラは昇降機から飛び出した。
 非常事態だと察知したルーティが昇降機の方へ走り出す。
 テオドラの槍とルーティの聖剣がぶつかり、両者はお互いに動きを止めた。

「なぜ?」

 ルーティは信じられない様子でそう問いかけた。

「すまない、だが世界は勇者を必要としているんだ。恨んでくれて構わない。この戦いが終わったら腹を切って詫びよう。この生命で償えるのなら捧げよう。だが勇者様! 世界を救えるのはあなたしかいないのだ!」

 その言葉は、ルーティの迷いをついた。実力では劣るテオドラが勇者ルーティを押しとどめる。
 鎖で縛られたリットに、テオドラの精霊竜は牙を突き立てようとした。

「リット!!!!」

 自分の身を気にしている場合ではない!
 俺は防御を捨て、シサンダンを突破するために剣を突き出しながら踏み込んだ。
 だが、シサンダンは俺を妨害せず、するりとかわす。
 俺の背筋に冷たい汗が流れた。

(罠か!?)

 誘い込まれている。この状況はシサンダンの手のひらの上。
 だが、だが、だが!

「サンダーウェイカー! 我が敵を穿つらぬけ!」

 俺は裂帛の気合を叫び、精霊竜の首から脳天にかけて、まっすぐに剣を突き入れながら昇降機の中へ飛び込む。
 精霊竜は即死した。現界できなくなった竜はその姿を薄れさせていく。
 リットを掴んで外に飛び出そうとした俺の視界に、勝利の笑みを浮かべているアレスの姿が見えた。

 ティセがアレスの魔法を食い止める為に2本のナイフを投げる。
 アレスは左腕で顔をかばい、ナイフを受けた。アレスの左腕から鮮血がほとばしる。
 だが、その痛みは、アレスの脳を駆け巡る勝利へつ渇望が抑えた。

「これで終わりだ! アイアンウォール!」

 ミシリと俺とリットのいる昇降機から音がした。天井からだ。
 アレスは魔法で昇降機の上に膨大な量の鋼鉄のかたまりを生成したのだ。耐久荷重を遥かに超える重量物を乗せた昇降機のブレーキが砕ける音がした。

「レッド! 逃げて!!」

 “雷光の如き脚”のある俺だけながら逃げられたかもしれない。リットを掴んでいるこの手を離しさえすれば。
 俺がここにいてもリットを救えるわけじゃない。
 ギデオンだった頃の俺ならば、最も効率の良い選択をできたかもしれない。

「ごめんリット」

 だが、俺はもうレッドだ。サンダーウェイカーを手にしようとも、厳しい冒険の日々を生き抜く為に割り切れていた俺ではなかった。
 俺は届かないと知りながらも、リットを掴んでいる手を離さず、昇降機から飛び出そうとする。

「お兄ちゃん!!」

 ルーティから迷いが消えた。目の前にいるテオドラをはっきり敵だと認識する。
 両手で振るわれた聖剣は、テオドラの槍を切り裂き、その身につけているフルプレートごと、彼女の脇腹を深く切り裂いた

「さすが勇者様……だからこそ、私は……」

 人類最高峰の法術使いにして槍術の大家、テオドラが現れてから倒れるまでわずか30秒。
 だがそれは決定的な30秒。

「勝った! 私はギデオンに今度こそ勝ったんだ!」

 アレスが歓喜の叫び声を上げる中、俺とリットごと、鋼鉄のかたまりに押しつぶされるように昇降機は落下していった。

☆☆

 勇者の加護を持つルーティは、生まれた時から多くの感情が抑制された状態にあった。
 特に“恐怖”については加護レベル1から完全耐性を持っていたことで、恐怖というのがどういう感情なのかすら、ルーティは知らなかった。

「ああああああああ!!!!!!!!!」

 それは生まれて初めてルーティの口から溢れた出した、恐怖の悲鳴だった。
 最愛の人が死ぬ。目の前で死ぬ。死んだら二度と会えなくなる。二度の私の名前を呼んでくれない。その温かい身体に触れることも二度とできない。
 これからやっと自分の気持を伝えられると思ったのに。これから何も起きない日常スローライフを、愛する人と過ごせるはずだったのに。
 ルーティの中にある何かが砕けていく。これまでルーティが人生という名の地獄を生き続けるために支え続けてきた何かが失われていく。

「そうだ」

 呆然とするルーティ目掛けて、シサンダンは4本の神・降魔の聖剣を振り上げた。

「勇者でなくなったお前は、テオドラの裏切りに、そしてギデオンの死に動揺する。お前の強さも、この刹那だけは私が上回る。すべてはこの時のための布石だ!」

 こんな状態であっても、ルーティは降魔の聖剣でシサンダンを迎え撃った。シサンダンの攻撃を、正確に受け流す。

 ……部屋に聖剣の断末魔が聞こえた。

「アレスの持つ神・降魔の聖剣をその模造品で砕いたのは賞賛に値する。まさしく貴様は勇者の域すら超えている。しかしその代償は支払うべきだ」

 ルーティの持つ降魔の聖剣は、刀身の半ばで砕け折れていた。

「あのときの一撃で、お前の剣はすでに傷ついていたのだよ」

 シサンダンは剣を振り回し、ルーティの自分の周りの床を切り裂いた。
 虚ろな目で折れた剣を見つめるルーティと、シサンダンの姿は、この部屋の下にあった空間の中へと消えていった。

☆☆

 静まり返った部屋に笑い声が響いた。

「く、くくくく、あはははははははは!!!!!!」

 アレスは狂ったように笑う。

「勝った! これで私はまたルーティと共に旅を続けられる! どうだ、私の方がギデオンより優れていた! これが証明です! やつは死に私は生きている! 勝利者と敗北者! 賢者と愚者! あははははははは!!!!!!!」

 アレスは笑いながら右手で印を組んだ。

「カッタートルネード!」

 無数の風の刃を内に秘めた竜巻が巻き起こった。
 竜巻はティセが再び投げたナイフを弾き飛ばし、そのままティセを襲う。

「きゃあああああ!!!!!

 全身を切り裂かれ、ティセも自分の流した血の海に倒れた。

「薄汚い暗殺者の分際で、依頼主である私に刃を向けるとは」
「……なぜなんです」
「は?」
「アレス様はルーティ様のことが好きだったでしょう、なぜこんなことができるんですか」
「意味が分かりません。ルーティは勇者なのですよ?」

 勇者だから、勇者であるためにはどんな犠牲も許される。それが勇者であるルーティにとって最善であり幸福だと、アレスはそう言い放った。
 ティセは歯を食いしばった。傷口から血が流れ落ちるのも構わずに立ち上がり、ショートソードを構える。

「ほぉ、すごいですね。私なら立ち上がれませんよ。ですが無意味な痛みです。そのまま倒れていれば命までは取られずに済みますよ? 出血死しなければですが」

 こんな男にルーティ様を任せる? そんなこと許されるはずがない。
 例え世界や加護を与えるデミス神様が許しても、この私が許さない。
 ルーティ様は勇者である前に私の友達なんだ。確かに強い。でも不器用で、ずれてて……恋もしている。
 ルーティ様は普通の女の子なんだ! それが分からないこんな男に私の友達を任せられるか!

 だがティセの身体はティセの意思を無視して倒れた。アレスはその様子を見て笑う。
 悔しさでティセの両目に涙が溢れた。

 ティセが涙を流したから、だから、ティセの代わりに“彼”がアレスの前に立ちはだかった。

「は?」

 カバンから飛び出してきたちっぽけな蜘蛛は、両腕を振り上げアレスの前に立ちはだかる。
 相手は強大、仲間は誰もいない、勝ち目は皆無。
 だからどうした! うげうげさんはちっぽけな身体で友達を傷つけた“悪党”へと立ち向かう。

 そのちっぽけの姿を見て、最後に残った1人も立ち上がる。

「く、うおおお! ざっけんな!!」

 ゴドウィンが叫びながら雷石と発煙棒を投げた。轟音と煙がアレスを襲う。
 ゴドウィンにはこの戦いにどういう意味があるのかは分からない。そもそもが無理やり連れてこられ、こんなところに軟禁され、不満はたっぷりある。さっきも自分は関係ないと逃げ出したし、今もなんで俺がこんな目にと心底思っている。
 それにゴドウィンは悪人だ。ビッグホークの右腕として、他人から軽蔑されるようなことを何度もやった。デーモンと手を組み危険な麻薬をばら撒いた主犯の1人だ。
 だがそれでも、悪人には悪人なりの考えがあり信念がある。許されない一線がある。

「お、俺も悪党だがな! そんな俺でも自分のことを悪党だと思っていない悪党だけは許したことねェんだよ!! それだけは我慢ならねぇんだ!」

 ゴドウィンは恐怖で歯をカチカチと鳴らし、それでも闇を作る魔法のダガーを抜いて吠えた。
 それを見てアレスは呆れている。

「無価値なクズどもめ。これだから頭の悪いのは嫌いなのです。フォースショット」

 力場の拳が煙も魔法の闇も吹き飛ばし、ゴドウィンは壁に叩きつけられ血を流しながら動かなくなる。
 アレスはゴドウィンが見た目通りに雑魚だと確認し、足を持ち上げる。

 そして、床で両腕を振り上げているうげうげさんを躊躇なく踏み潰した。

「勝てるわけ無いでしょう」

 もはや自分に歯向かうものはいない。
 あとは鋼鉄の壁の下敷きになり、惨めにも原型とどめず潰されるギデオンの断末魔を聞くだけだ。今踏み潰した虫けらのように惨めに潰れる音を。

☆☆

 昇降機が下層の床へと近づく。あとほんの数秒でレッドとリットは死ぬはずだった。

「ふぅぅぅ」

 全身傷だらけの大男は残された左腕にすべての意識を集中する。
 頭上に迫る昇降機を見ることもせず、両足から伝わる力が左腕を通して爆発するイメージを作る。

「俺は難しいことはよくわからねぇ。テオドラが何を考えているかも、勇者様が何を考えているのかも、何が正しくて、何が間違っているのか、俺だけがきっと何も分かってないんだろう」

 ダナンはぐっと拳を握った。キュアポーションで塞がった傷が再び開き血が流れる。

「だがこれだけは自信を持って言える!」

 ダナンはこれまで培ってきた己の武のすべてを込めて、拳を突き上げる。

「武技“昇龍咆しょうりゅうほう”!!」

 左腕から龍が駆けた。これは拳で海賊のガレー船に大穴を穿ち沈没させたダナン必殺の武技。
 龍は昇降機を砕き、そして分厚い鋼鉄のかたまりを粉々に砕き、上へ上へと昇り進む。

「ギデオン! そしてリット! テメェらは俺の仲間だ! ならば助ける! ならば死なせねぇ! それだけは絶対だ! 誰にも文句は言わせねぇ!!」

☆☆

「これはダナンか!!」

 テオドラが意識を失ったことで、リットを縛っていたホーリーチェーンは外れたが、俺達のスキルを持ってしても、逃げ場のない場所で落下中に頭上の大質量をどうにかする方法はなかった。
 もはやこれまでと諦めかけていたが、下から“気”の龍が突き抜け、頭上の大質量の鋼鉄を破壊する。

「リット構えろ!」
「ええ!」

 龍に運ばれながら、俺達は降り注ぐ鋼鉄の破片を背中を合わせてそれぞれの剣で打ち払った。

「ダナン! あいつはいつもここぞというときに現れるんだ!」

 俺達はダナンの龍につかまって、一気の上層へと戻る。

☆☆

 もう一度、俺とリットはアレスと対峙した。

「アレス!!」

 戻ってきた時、ホールの様子は一変していた。
 シサンダンとルーティの姿はない。部屋には穴が空いている。2人は下に落ちたのか。
 テオドラは昇降装置の近くに倒れている。意識は無いようだ。
 ティセ、ゴドウィンも倒れていた。重症を負っている。
 アレスの足元には踏み潰され、傷ついたうげうげさんがいる。彼も戦ったのだ。
 そして左腕から血を流しているアレスは、俺を憎悪を込めた目で睨みつけた。

「なぜだ! なぜお前は死なない! そんなクズ加護でなぜ!」

 俺とリットはアレスに向かって走った。
 勝ち目があるとすれば接近戦しかない。

「死に損ないが! 死ね! 死ね! 死ね!! ガルガンチュアストームジャベリン!!!」

 アレスが右手で印を組んだ。嵐の槍が俺達に向けて放たれる。

「くっ!?」

 速すぎる、かわしきれない!
 俺は歯を食いしばって耐える覚悟を決める。

「風の精霊よ!」

 リットの叫び声が聞こえ、俺の周りを風の精霊達が舞った。
 巨大な嵐の槍が俺達を貫き、激しい雷撃と暴風にさらされる。

「ぐぅぅぅぅ!!!!」

 リットの精霊魔法では、賢者の最上級魔法のすべてを相殺することはできなかったが、意識を失わない程度にまでその威力を減じることはできた。
 俺の後ろでリットが弾き飛ばされ、床を転がる音がした。立ち上がってくる気配はない。
 リットは自分の防御はせず、すべての力を俺の身を守るために使ったのだ。
 振り返りたくなる衝動を、俺は歯を食いしばってこらえる。振り返ればそれだけ時間が無駄になる。リットが命をかけた想いを無為にする行為だ。
 それはアレスの魔法よりずっとずっと辛い痛みだった。

 もうアレスは目の前だ。あと3歩。それで俺の剣の間合いに入る! 魔法を使う余裕はない! 印を組む間もなく斬る!

☆☆

(と思っているのだろうが……)

 賢者アレスは心の中で今度こそ勝利を確信した。

(ギデオン、お前がいなくなったあと、私はより強力なスキルを得た。賢者だけが可能な、両手を使った秘術と法術の“連続発動”、すでに即死法術“ライフデス”の発動準備は整っている。リットの精霊魔法もなく、加護による即死耐性も持たないお前じゃ、私の即死魔法は絶対に防げない! お前の忌々しい頭脳でも、知らないスキルは対応できまい! 私の勝利だ! 今度こそ死ね!)

 ティセの放ったナイフが刺さったままの左手で、賢者アレスは魔法を発動しようとする。
 だが、その時、アレスの左手の人差し指がアレスの意思を離れて勝手に動いた。
 左手の印が崩れ、魔法の発動は失敗した。

「な!!!?」

 アレスが振り返ると、血の海に沈んだティセが、アレスが得るはずだった勝利の笑みを浮かべていた。

「私の友達を舐めるな」

 アレスの人差し指に結ばれていたうげうげさんの糸、その糸をティセが引っ張っている。ティセはアレスが連続魔法のスキルを使えることを知っていた。床に倒れ伏しながら、その瞬間を狙っていたのだ。

 うげうげさんはただの蜘蛛じゃない。ティセと共に成長してきた蜘蛛だ。
 その加護は『闘士ウォーリアー』。身体能力を強化するだけの最下級の加護ではあるが、踏み潰された程度では死なない能力を持っている。
 うげうげさんは無策で飛び出したわけではなかった。踏み潰されるのに耐えながら、アレスの指に糸をかけたのだ。

「だ、だが、それなら私が気が付かないはずがない!」

 それでも普通なら、能力で劣るうげうげさんの行動をアレスは察知できたはずだ。

「へ、へへ」

 床に倒れたゴドウィンが力なく笑った。

「……く、蜘蛛なんかのために命賭けるたぁ……俺も落ちぶれたもんだ」

 ゴドウィンが投げた雷石、発煙棒、そして命をかけた抵抗。それらはすべてうげうげさんの行動から目をそらさせるため。

「く、お、おおおおお!!!!」

 レッドが迫る。アレスは必死に魔法を使おうとした。
 2人と1匹が命をかけて稼いだのはテオドラの30秒にも満たない、わずか1秒の時間、わずか指1本の自由を奪うだけの妨害。
 だがこの1秒を2人と1匹は信じた。それだけあればレッドは勝てると。

☆☆

 俺のサンダーウェイカーが魔法を使おうとしたアレスの右手を切り飛ばす。

「う、うあああああ!!!」

 アレスの悲鳴も構わず、つづけて左手も切り飛ばす。

「魔法の発動には手で印を組むことが不可欠だ! これでもう魔法は使えない!」
「あ、あああ、あああああああ!!!!!」

 アレスは両手を失った。『賢者』であるアレスに取って、それは自分のすべてを奪われたのに等しいだろう。魔法を失ったのだ。

「アレス、もう終わりだ」

 俺はアレスに向けて最後の一撃を加えるべく、剣を振り上げる。サンダーウェイカーは部屋の照明を反射し光り輝いた。

「た、助けてくれ! シサンダン! 殺される! テオドラ! 私の手を戻してくれ! 誰か、誰か助けて! 助けてくれ!!」

 アレスは床にへたり込み、もがきながら助けを求めた。だがアレスの声に応える者はいない。

「な、なぜだ、なぜお前ばかり、私の方が強いのに、私の方が賢いのに、なんでお前ばかりみんなよってかたって!!」
「分からないのか」

 アレスは俺を見た。絶望に満ちた目で。

「た、助けてくれ、わ、私はただ、『賢者』であろうとしただけなんだ、ギデオン、私は……私はただ……」
「ダメだ」

 俺は、すべての力を込めて、サンダーウェイカーを、かつての仲間に振り下ろした。
 剣はアレスの肩口から脇を走り、アレスの身体を完全に両断する。
 アレスの口から血があふれた。

「ゆ、夢、私の、夢が……ゆ……」

 アレスは赤く染まった口からゴボゴボと言葉を呟き、ついに心臓の鼓動を止めた。
 その様子を、リット、ティセ、うげうげさん、ゴドウィン、そして俺、全員が見ている。
 最後に「がふっ」と血の混じった咳をすると、それっきり賢者アレスは二度と動かなかった。
 賢者アレスは死んだのだ。
1話でレッドを追放したことでこの物語をスタートさせた賢者アレスはこれで退場です。
アレスはスローライフを送ろうとするレッドが、もう一度だけ本気で戦わなければならない過去でもありました。
最期の最期まで自分のやっていることが間違っていることだとという自覚も、自分が悪人だという自覚もない悪役でしたが、加護は生きとし生けるものに与えられる力なので、これでもう彼は『賢者』にこだわることはないでしょう。
+注意+
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