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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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77話 最奥の決闘

 俺とルーティはリット達のところへと戻った。
 後から追いかけていた4人とはすぐに合流できた。アレスと出会い、決別したことを話すと、リットは喜び、ティセは少し驚いた表情を浮かべ、ゴドウィンはなんのことか分からないのでよそ見をしていた。

「アレスなら精霊竜スピリットドレイクを召喚できるのも当然」

 ルーティの言葉にティセも頷いた。
 アレスが人類最高峰の魔法使いスペルユーザーであることは、俺も認めるところではあるのだが……。

「アレスのことも気になるが、アレスと一緒にいたらしいもう一人のことも気になるな」

 アレスを置いて地下へ進んだらしいが。その後の動きは不明だ。
 気配を消す能力に関してはもう一人の方がアレスより上だとティセは言う。
 アレスに聞いておけばよかったとも思うが、あの状態では不可能だったと諦めた。

「テオドラの可能性は?」

 リットが当然の推測を言った。

「普通に考えればそうなんだが、別行動したのが不可解だ。テオドラなら危険な古代エルフの遺跡で単独行動を取るなんてしない。感情よりも理性を優先するタイプなんだ」
「あー、たしかにそういう感じするわね」

 俺の知っているテオドラの考え方からすると、もう一人の行動とは合わない。それにテオドラがアイアンスネークのようなゴーレムに関する知識があるという話も聞いたことが無い。
 ゴーレムの操作にはスキルはいらないが、高度な知識と繊細な魔力による制御が必要になる。理論上は魔法が使える加護なら誰にだって操作できるが、実際に操作できる人間は滅多にいない。
 高価とは言え、疲れも知らず量産もできる便利なゴーレムが労働力の代わりにならないのは、その操作の難しさが原因だ。

「となると、ルーティがパーティーを出てから新しくアレスの仲間になった人?」
「そうなるかな」

 話しながら、俺達はゴドウィンの錬金術道具が置いてある部屋へと戻っていた。
 俺は火をおこし、部屋にある鍋でハーブティーをいれる。ルーティにも俺にも、少しだけ落ち着く時間が必要だった。ほんの数分だが、俺達は沈黙する。


「なぁ、俺、いつまでこの遺跡に閉じ込められなきゃいけないんだ? 薬を作るなら別の町でもいいだろ」

 白い湯気のあがるハーブティをゴドウィンが小声で文句を言った。
 だが、ルーティが振り返ると、慌てて「い、いや、べつにまだここにきて一ヶ月も経ってないからいいんだけどよ」と、訂正したが。ルーティはやっぱり怖いらしい。

「考えておく」

 ルーティはあれで結構、ゴドウィンの状況については申し訳ないと思っているようだが、それはゴドウィンに全く伝わっていなかった。
 何を勘違いしたのか、ゴドウィンはますます慌てて謝り倒している。
 そんな様子を俺とティセが生暖かく見守っていると、

「じゃあ……シサンダンは関係ないのかな」

 リットがぼそりと呟いた。

「シサンダンか」

 アレスに再会した衝撃で、意識から飛んでしまっていた。

「でもアレス様は賢者の加護持ちですよね。加護を持たないアスラデーモンなら気がつくのでは」
「いや、アレスは一度会った人間をもう一度“鑑定”したりはしないはずだ。ロガーヴィアのガイウスのときも、途中で入れ替わっていたから気がつけなかった」
「今、シサンダンはダナン様の姿を得ているのですよね?」

 だとしたら騙されたとしてもおかしくない。

「じゃあアイアンスネークはシサンダンが用意したのか。何のために?」

 はじめはルーティのことを探しているのかと思った。魔王軍が勇者を狙うのは理にかなっているいて分かりやすい。
 だがシサンダンはアイアンスネークで俺達のことを知り得たのにもかかわらず奥へと進んでしまった。
 ダナンの姿を使って不意打ちするつもりだとしたら、アイアンスネークなど使わず、アレスと一緒に俺達を探すのが良いはずだ。

「ならば目的は別。アイアンスネークは私達ではなくこの遺跡そのものを調べる為に使った」

 ルーティが言った。
 俺も頷いて同意する。

「そうだな、火の四天王ドレッドーナの率いる部隊は各地の遺跡から兵器や財宝を集めている。遺跡の盗掘は魔王軍の戦略の一つになっていると考えられる。シサンダンもそのために来た可能性があるな」

 しかしドレッドーナの部隊はあくまで、魔王軍が制圧している範囲で盗掘を行っている。大した防衛戦力を持たないゾルタンとはいえ、前線から遠く離れたこの地に魔王軍が盗掘にくるというのは前例がなかったはずだ。
 まだ謎が残るな。

「待ってください」
「どうしたティセ?」
「アレス様の気配が動いた気がします。微かですがもう一人の気配もします」
「何? 奥から戻ってきたのか?」

 リットが立ち上がった。

「シサンダンかも知れないのなら、放ってはおけないわ」
「そうだな、アレスにまた会うのは気が重いが、騙されているなら教えてやらないと」

 決別したとは言え、アスラデーモンに騙されているのなら放置するわけにもいかないだろう。
 俺達はアレスを探しに動き出した。

 だが、このフロアにはすでにアレスの姿は無かった。

☆☆

「こ、これは!?」

 アレスは目の前の光景に驚愕し、言葉を無くした。
 そこにあったのは硬質な未知の物質で構成された古代エルフの遺跡にはそぐわない生々しい光景だった。
 部屋にもともとあったであろう装置はすべて破壊され、花崗岩でできた石の棺がならんでいる。
 棺の中には、ウッドエルフの干からびたミイラが、鎧を着て、百年以上経ってなお赤錆1つ浮いていないエルフの剣を胸に抱いたまま横たわっていた。

「ウッドエルフは自然との循環が重要な思想だ。死者は儀式の後森に置かれ、動物によって食われるという風習だったはずだが、なるほど、循環から外れ永遠に縛られようとも、この先にあるものを守りたいようだな」

 浅黒い肌をした青年の顔にニタニタと笑みが浮かんだ。

「勇者の遺物は近いぞ」

 アレスの胸に漠然とした不安がよぎる。
 なぜウッドエルフ達が初代勇者の遺物を隠しているのか。『勇者』の遺物ならば、希望の象徴だ。それがなんの言い伝えすら残っていないほど厳重に隠す意味とはなんだ。
 2人は奥へと進んでいく。
 ウッドエルフ達はそんな2人を虚ろな目で睨みつけているが、シサンダンは鼻歌を歌いながら、ウッドエルフ達の亡念をわらう。
 部屋にはまとわりつくような敵意が満ちている気がした。アレスは思わず寒気を感じたほどだった。
 だが彼らはアンデッドなどではない。ただの死体だ。そもそも加護を持たないアンデッドでは、いくら身体能力を強化しようが2人の相手になるはずもないが。

 部屋の出口に差し掛かった時のことだった。
 2人を不意に猛烈な敵意が襲った。反射的にシサンダンは剣を抜く。
 次の瞬間、エルフの剣がシサンダン目掛けて飛来した。シサンダンは抜いた剣を両手で持ちそれを受けた。
 鋭い一撃だった。剣を握るシサンダンの指には、まだしびれが残っている。

「誰だ」

 ウッドエルフの1人が、ずるりと音を立てて立ち上がった。
 そしてそのままドサリと倒れる。

「だ、ダナン!?」

 アレスが叫んだ。棺の中に隠れていた男はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「シサンダン、お前がちんたらしてくれたおかげでこうして先回りできたぜ」

 アレスは混乱していた。ダナンとはこの遺跡に一緒に来ているのだから、ここにいるのはおかしくない。
 しかし、このダナンは、アレスが再会したダナンは多くの部分で違っていた。
 特に右手が無いのが大きな違いだ。
 それでもなぜか、このダナンは本物のダナンであると確信できる強い存在感を秘めている。

 アレスにもようやく理解できた。
 アレスが再会したと思っていたのは、このアスラデーモンが化けたダナンだったのだと。

「ダナンか。まさか生きていたとは。ゴキブリ並の生命力だな」
「ははは。嫌味のつもりなのかもしれねぇが、俺はゴキブリやネズミの生命力を尊敬している。ああいう強さもまた、生き物の強さの1つだろうが」

 ダナンは左手を突き出し、じりじりと間合いを詰めた。

「おい、アレス。こいつは俺の獲物だからな。手ぇ出すなよ」

 戦いの昂揚を全身に発しながら接近してくるダナンに対して、シサンダンの表情には余裕がない。

(指のしびれが取れない。武技か)

 最初の一撃はわざと受けさせるための不意打ちだったのだろうと、シサンダンは理解した。震える指には思うように力が入らず、剣を初めて握った初心者のような不器用な動きしかできない。

(やられた。今両方の腕を壊されたのはまずい。アスラデーモン本来の姿に戻っても6本とも動かないままになってしまった)

 アスラデーモン本来の姿は6本の腕を持つ悪魔だが、化けている時に受けたダメージが消えるわけではない。
 この状態で片腕を切り落とされれば、3本の腕を切り落とされれたのと同じだ。

(だが、お前も右腕を失っている。それでまともに戦えるかな)

 シサンダンの攻撃の間合いにダナンが踏み込んだ瞬間、隻腕の武闘家とアスラデーモンは両者同時に地面を蹴った。
 シサンダンが飛び込み振り下ろした剣をダナンの左手が払う。
 次の瞬間、払った状態からダナンの左腕がムチのようにしなり、シサンダンの顔面を捕らえた。

「アグッ!?」

 シサンダンは数歩よろけて後ずさる。
 すぐに剣を構えようとしたが、シサンダンは力が抜けたように片膝をついた。

「ああそうだ」

 ダナンがシサンダンを見下ろしながら言う。

「てめぇを許すつもりはないし、ここでぶっ殺すけど、これだけは礼を言わないとな」
「なんだ?」
「俺が自分の左手を随分と怠けさせてきたことに気づかせてくれてありがとよ。使おうと思えば左手ってのはこんなに動くもんだとは知らなかったぜ。おかげさんで前より強くなれた」

 ハッタリではないことが、旅の間ダナンの戦い方を見てきたアレスには分かった。
 不条理にもこの武術馬鹿は、右腕を失ったことで本当に強くなっていたのだった。
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