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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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75話 私はもうあなたを助けない


「なぁ、俺のことはルールが守った方がよくないか?」
「俺で我慢しろ」

 ゴドウィンは情けない声をあげている。
 先頭をルーティとリット、その後ろをティセ、続いてゴドウィンとゴドウィンの後ろを庇うように俺が最後尾につき歩いている。

「だけどこの中じゃ薬屋が一番頼りないだろ」
「はっきり言うやつだなお前」
「命がかかっているからな!」

 そう言っているゴドウィンもゾルタンでは上位のレベルを持つ錬金術師なのだが、勇者が相手をするようなクラスの敵となると相手にならないだろう。そのことを本人もよく理解している。
 だが、この陣形だって考えてのものだ。

 ピクリとルーティが後ろに反応した。
 すぐさま俺はリットのアイテムボックスから借りた投げナイフを抜き投げつける。
 ナイフは忍び寄ろうとしていたアイアンスネークを貫き、破壊する。
 ルーティとの意思疎通に言葉はいらない、ルーティが僅かに視線でも動かしてくれればその意図に合わせて行動できる自信が俺にはある。
 数え切れないほどの戦いで身につけた兄妹きょうだいのコンビネーションだ。ルーティの超感覚スキルで察知した瞬間、俺もその感覚を共有できるといっても過言ではないだろう。

「小型で頑丈な作りじゃないとはいえ、鋼鉄のゴーレムを投げナイフで一発かよ。なんでお前薬屋やってるんだ? どんなやらかしで身を隠してるんだよ」

 ゴドウィンは頭を砕かれ動きを止めたアイアンスネークを見て、呆れたように俺にそう言った。

☆☆

「アイアンスネークがこの階層から消えました」

 スキルを使って、じっと気配を探っていたティセは、確信を持った様子でそう言った。
 アイアンスネークは合計4体発見し、破壊した。
 だがティセの気配察知スキルには少なくとも7体のアイアンスネークが確認されていた。3体はこの層から離れたということだ。

「人間の方は?」
「魔法で気配を消しているせいで場所までは。ただどうやら1人は下層へ移動したようです」
「別行動を取っているの?」

 リットが少し意外そうに言った。
 もし敵だと言うのなら俺達にとっては好都合だ。

「でも、相手にもアイアンスネークが破壊されたことは伝わってるはずでしょ? 仮にシサンダンとも悪魔の加護とも関係ない私達のことを知らない相手だとしても、アイアンスネークを破壊する脅威がここにはいるって理解しているはずなのに、戦力を分ける?」
「確かに奇妙です。私のスキルを誤認させるような魔法や武技を使っているのかもしれませんが……」

 だが人類最高峰の『アサシン』であるティセから隠れるならまだしも、誤認させることのできる存在がこの大陸に存在するのだろうか。

「ティセが感覚を誤認させていた場合でも対応できるよう構えておくが、今はティセの感覚が正しいとして動こう」
「分かった」

 俺の言葉にルーティが頷いた。
 そしてルーティは少し口元をほころばせる。

「どうした?」
「こんなときだけど、お兄ちゃんがこうしてパーティーを指揮するのって久しぶりだから……嬉しい」

 ルーティは俺の目を見てそう言うと、そのあとは真剣な顔をして前を向いた。

☆☆

 その異常は、ゴドウィンも含む全員が気がついた。

「何か来る!」

 リットが鋭い警告を発した。

「うげうげさんの糸がすべて引きちぎられました! 指先ほどの大きさの大量の群体スウォームです!」
「ルーティ! リット! レヴィテートを!」

 魔法を使えるルーティとリットが浮遊レヴィテートの魔法を素早く全員にかける。
 俺達は浮遊して急に発生した群体を待つ。

「蜘蛛か? アリか? まさか寄生白蛆パラサイトグラブじゃないだろうな?」

 ゴドウィンが冒険でよく見かける群体スウォームをあげる。たかが虫だと侮ることはできない。群体スウォームは武器では倒せず、範囲魔法や火などが必要で、駆け出しの冒険者などは一方的に倒される可能性のある厄介な相手だ。
 だが現れたのは虫ではなかった。

「ひっ!」

 ゴドウィンは、床を埋め尽くすそれを見て、思わず悲鳴をあげた。
 リットも息を飲み戦慄している。

「プレイグアイズか……」

 それは涙を流す人間の目玉だった。目玉から赤い触手のような血管が数本伸び、それで地面をずるずると這っている。
 それだけでもおぞましいが、さらに目玉はしばらく動くとブクブクと泡だち破裂した。
 破裂した液体がまた泡立ちそこから複数の目玉が湧く。

「高レベルの魔法だよ。召喚魔法と死霊魔法ネクロマンシーの複合魔法の一種で、死刑囚など恨みを持って死んだ人間の目を媒体に、ああして召喚された死者の目玉がさらに無数の死者の目玉を召喚し続けるんだ」

 床を覆い尽くす目玉が涙を流しながら宙に浮かぶ俺達を見上げている。
 その光景はさすがの俺も寒気立つのを感じる。

「制御はできない。ただ効果時間が尽きるまで増え続け、地面にいる相手を喰らい尽くすだけの魔法だ……しかし、召喚魔法だから目玉の群体スウォームが、どこで減ったかなんかが分かるんだ。それを利用して探知手段として使うこともあるという話を聞いたことがある」
「それじゃあこれを攻撃したら相手に見つかるってこと?」
「そうなるな、これは無差別に広範囲を攻撃する手段だから、俺達の位置が分かっていたら使わないはず。こうして、レヴィテートで回避できるし」

 凄まじい効果を持つ魔法だが、弱点もある。
 効果時間が切れるまで俺達はこうして宙に浮いていればいい。

「……アイアンスネークで私達の居場所を察知してるんじゃ?」
「もしかすると、相手の二人は情報共有できていないのではないでしょうか?」

 リットとティセが疑問を投げた、確かにこのタイミングでプレイグアイズを使うのは不可解だ。
 だが、俺が悩んでいると、ルーティが面倒くさそうに眉をひそめた。

「考えてもわからないから相手に聞こう」
「え?」

 ルーティが左手に印を作る。

「ライトニングオブジャッジメント」
「なっ!?」

 激しい稲妻が周囲に巻き起こる。
 雷撃は床を埋め尽くす目玉達に落ち、涙で濡れる床を伝って一瞬で遺跡中に広まった。
 勇者の加護の魔法は燃費こそ悪いが、瞬間火力だけなら賢者など魔法使い系上位の加護にも匹敵する。魔法戦士系の加護が剣と魔法の両立に苦心しているのが馬鹿らしくなるほどの力だ。
 ピクリとルーティが眉をひそめた。

「防がれた」

 そう呟いた途端、ルーティは剣を持ったまま走り出す。

「おい! 1人で先に……リット、ティセ! ゴドウィンを守りながら後を追ってくれ!」

 2人の返事を待たず俺も走り出す。
 俺がパーティーにいたころは、ルーティもここまで独断専行するようなことはなかったはずだ。俺がパーティーを抜けて1年以上の時間の間、ルーティがどのような戦い方をしてきたのか。

「ルーティ!」
「あの角の先」

 ルーティに追いついた俺は、注意する暇もなく角を飛び出す。
 そこのいた人物を見て、俺は一瞬戦意を忘れた。

「ルーティ! ようやく見つけましたよ!」
「アレス」

 そこにいたのは、かつて俺をルーティの元から追い出した賢者アレスだった。
 だが俺が知っているアレスの姿と、今のアレスの姿は大きく異なっている。
 王都の女性から人気の高かったアレスの顔が、今は頬が削げ髪は乱れボロボロに荒れている。目は大きく見開かれ血走り、遺跡の床の上で泡立ちながら消えていく死者の目玉達を思い起こさせた。

「ルーティ、一緒に魔王を倒しに行きましょう。世界を救えるのは勇者であるルーティだけです。そしてその隣には私が必要です。勇者と賢者。最上位加護の2つが揃えば魔王など恐れることはありません」
「あ、アレス、その姿は一体どうしたんだ……」

 俺はアレスに声をかける。神経質な方で旅の間だろうとも身だしなみを整えていたアレスの変わり果てた姿はあまりに衝撃的だった。

「さあルーティ。私の手を取って。他の仲間なんて必要ないと思ったのでしょう? いいでしょう、確かにダナンもテオドラもヤランドララもティセもギデオンも邪魔なだけでした。文句ばかり言う何の役にも立たないクズばかり。私達2人だけで魔王を倒しに行きましょう。輝かしい未来が私達を待っています」

 アレスは俺の言葉には反応しない。口元をヒクヒクと神経質そうに痙攣させながら満面の笑顔を浮かべ、ルーティに手を伸ばす。

「アレス」

 ルーティが静かな声で、若干の哀れみを視線に込めてアレスの名を呼ぶ。

「ルーティ……」
「私はもうあなたとは旅をしない」
「え?」
「これから先のことは私にも分からない。でももうあなたとの旅は終わり。私は勇者としてではなくルーティとして先へ進むから」

 アレスが必要としているのはルーティではなく勇者だ。
 だからルーティはアレスとの旅を終える。決別の言葉だが、ルーティなりに長い間一緒に旅を続けてきたアレスに対するケジメの言葉でもあった。

 アレスは顔に笑顔を貼り付けたまま俯いた。

「ルーティは優しいですね。ギデオンがいるから、足手まといを捨てられないから、私よりクズな加護持ちを選ぶんでしょう?」
「違うぞアレス、ルーティは……」
「黙れ!!」

 アレスの左手が印を作る。

「アレス!? なにを……ぐっ!!」

 フォースハンマーの魔法により作られた力場の拳が俺の身体を弾き飛ばした。
 激しい音を立てて俺は後方の壁に背中から叩きつけられる。
 衝撃で肺の空気が吐き出され、一瞬呼吸が止まる。こらえることができず俺は膝をついた。

「さあルーティ! これで大丈夫! 魔王を倒しに行きましょう!」

 アレスはルーティに向かって両腕を大きく広げた。ルーティがこれから自分の胸に飛び込んてくるのを確信しているかのようだった。
 たしかにその瞬間にはルーティは飛び込んでいた。
 だがそれは抱擁を受けるためではない。

「あなたは結局、私のことを何一つ見ていなかった」
「え?」

 アレスは驚いて自分の腹のあたりに突き立てられたルーティの剣を見た。

「あ、ああああああああ!!!!!????」

 アレスは絶叫した。
 何が起こったか分からない様子で、溢れ出る血を呆然と見つめている。
 ルーティは躊躇なく、剣を引き抜いた。

「私は優しくなんか無い」
「う、うああああああああ、な、なぜ、なんの間違いが、私は賢者アレスだぞ、なぜ刺された……」
「急所は外した。あなたの魔法なら治療できるでしょ。でもこれが私の答え。私の大切な人を傷つけたあなたに剣を突き立てるのに、私はなんの躊躇もない。もしお兄ちゃんが深手を負っていたら、多分私はあなたを殺していた」

 ルーティは淡々とそう言った。
 そして踵を返し、俺の方へと向かう。

「お兄ちゃん大丈夫? すぐに治療するから」
「あ、ああ、頼む」

 俺の傷はそう深くない。フォースハンマーは破壊力よりも吹き飛ばすことを目的とした魔法だ。俺は加護レベルが高いのもあり多少の打撲で済んでいる。

「る、ルーティ……私の方が重症ですよ……治療を……」

 アレスが傷口を押さえながら、ルーティに懇願した。
 ルーティは振り返ることなく答える。

「私は勇者ではなくルーティだから。もうあなたを助けることはないわ」

 ルーティは、そう言ってはっきりとアレスを拒絶した。
アレスが改心する場合の話も何通りも考えたのですが、アレスはこれから最後まで悪役を貫いてもらうことにしました。
同情の余地が無いこともないのですが、自分のためにルーティの周りから大切な人を遠ざけ傷つけ、勇者であることを強要する存在として、ルーティ編の決着まで書き進めたいと思います。
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