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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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72話 ゴドウィンは冷や汗を流す

 私はティセ。勇者ルーティ様の友達だ。
 先行するレッドさんを追って、私とリットさんもようやく遺跡の入り口へとたどり着いた。

「……気に入らないわね」

 遺跡に入ろうとした時、リットさんが厳しい表情でそう言った。

「どうしたんです?」
「山に人の気配がする」
「気配ですか」

 『スピリットスカウト』の加護を持つリットさんは自然の多い環境では気配を察知するスキルが働くようになるそうだ。
 でも、ここは冒険者が薬草を取りに来たり、付近の集落の人が伐採や狩りにくる場所でもある。

「そうした人達もこんな奥まではこないわ」
「気配は近いんですか?」

 私は後ろを振り返った。
 そこにはさきほど私達が倒した、二匹のキマイラが倒れている。
 確かに、ここに入り込めるのはそれなりの実力者だろう。

「多分ね。正確な距離は分からないけど」
「精霊竜を召喚したやつでしょうか」
「かもね、足跡はどう?」

 自然の中なら遠く離れた相手の気配という曖昧なものすら感じ取れる『スピリットスカウト』に対して、私の『アサシン』は、群衆の歩く石畳の上の特定の足跡を見つけられるほど、追跡スキルに長けている。

「遺跡の中に入りこんだのはルーティ様、ゴドウィン、それにレッドさんの3人ですね。私が来た時より増えている足跡はルーティ様とレッドさんだけです。私達が来る前、ここ一ヶ月くらいにこの遺跡に入り込んだ足跡はレッドさんともう1人」
「もう1人?」
「一度遺跡の上層を調べたみたいです。一度調べてそれからは再訪していませんね」

 レッドさんは遺跡入り口から少し入り込んだところにある薬草を採取に来ているようだ。適度な湿気があってキノコや苔などが豊富なのだろう。
 うげうげさんはこれくらいの湿度が好みのようで、カバンの隙間から顔を出して宝石のような黒い目を輝かせている。

「もう1人このゾルタンに、この遺跡を調べようとする冒険者が?」

 私達は遺跡の奥へと歩き出した。
 歩きながら、リットさんはもう1人について考え込んでいるようだった。

☆☆

 ゴドウィンの部屋に行くと、ゴドウィンはリットさんの姿を見て怯えたように後ずさった。

「大丈夫よ。たしかにあなたのせいで怪我もしたけど、恨んだり復讐してやろうかななんて思っていないから」
「わ、悪かったよ」

 ニマァっと笑うリットさんに、ゴドウィンはブルブルと震えている。
 リットさんはどうやらそれが面白いらしく、わざとらしく剣を抜いて見たりしていた。
 この人、わりと子供っぽいわね。

「ルールさんはどこですか?」

 ゴドウィンの前では、私はティファ、ルーティ様はルールと偽名で通している。
 私はともかく、勇者ルーティの名前は有名過ぎる。

「あの人なら薬屋とどっかいったぞ」
「そうですか」

 となると、足跡を追った方が早そうかな。
 幸い、足跡はくっきり残っている。古代エルフの遺跡の硬質な床に残る足跡なんて、スキルでもなければ判別できないだろうけど。
 部屋を出ようとした時、リットさんが振り返った。

「どうしたんです?」

 リットさんは腰のアイテムボックスを広げ、中から、コマンドワードを唱えると辺りの光を覆う闇を発する魔法のナイフ、布に縫い付けられた消音性の高いチェインシャツ、それに破壊すると煙を発する発煙棒と音と光を発する雷石を取り出し床においた。

「リットさん!?」
「ゴドウィン、別にあなたの命なんて私にとってはどうでもいいんだけど、あなたが必要な人もいるみたいでね。もしかしたら誰かがこの遺跡に侵入してくるかもしれない。そいつは私と同じか、それ以上に腕が立つ。多分勝てないと思うからこれでなんとか自分の身を守って」
「あ、あんたより腕が立つ相手だって!? 冗談じゃない、俺も連れてってくれよ!」
「こっちはこっちでいろいろと立て込んでいるのよ。合流できそうになったらすぐに戻ってくるから」

 さらにリットさんは不可視インヴィジビリティの魔法が込められたマジックポーションをおいた。

「これも渡しておくけど……気休めよ。多分通用しないレベルの相手」

 ゴドウィンはぶつぶつと文句をいいながら床に置かれた様々な物品を拾った。

「頼むよ、あんたらみたいな英雄同士の戦いに巻き込まれるなんて真っ平なんだよ」
「処刑されるよりマシでしょ」

 リットさんがそう言って肩をすくめると、ゴドウィンは諦めたように座り込んだ。
 その姿は哀愁が漂っていて、少しだけ同情してしまう。
 うげうげさんも元気だせよと右腕を上げていた。

☆☆

 もしアレスが飛空艇によらずまっすぐに山に入っていれば、山の中でレッドを見つけ、その後を追うこともできただろう。
 だがそれはできず、アレスは自分の魔法を頼りに山の中を探し回ることになっていた。

「この辺りのはずなんです」

 アレスはイライラと自分の腕をかきむしりながら言う。
 アレスの魔法はアルベールの血を使って、ルーティのいる方角を知るという魔法だ。
 円盤の上に垂らされた赤い血は、アルベールの魔法に反応してルーティのいる方角へと引き寄せられる。
 だが、円盤は、上下方向には対応していない。
 ルーティが現在いる場所は山の地下に広がる古代遺跡。

「なぜ! なぜ見つからないのですか!」

 かきむしった腕から血が流れるのも構わず、アレスは叫び続ける。
 その様子を眺めながら、シサンダンはどうしたものかと悩んでいた。

 シサンダンが姿を借りているダナンという男は、頭の良くない人間だというのがシサンダンの印象だ。記憶は奪えなかったが、ガイウスとしてロガーヴィアに潜入していた頃に、何度か話したことがあった。
 おそらくその印象は間違っていないとシサンダンはアレスの態度から確信している。
 すでにシサンダンは勇者ルーティが古代エルフの遺跡に入り込んでいることを予想していた。見つからないのもルーティが地下にいるからだろう。
 だがそれを愚かな武闘家ダナンに化けている自分から提案していいものか。
 アレスという男は酷く追い詰められている。思考停止状態にあるといってもいい。

 だがアスラデーモンという種族は、本質的には人間どころかエルフや他のデーモンとも全く違う価値観と哲学を持つ種族であった。
 シサンダンもこれまで多くの人間を喰らい、その記憶を見てきたが、それでもシサンダンの思考が人間の思考を理解することはできない。
 人間に紛れ込むときは、姿を借りている人間の記憶から似たような状況を選び出し、その時の対応をなぞっているだけだった。
 今回はダナンの記憶をシサンダンは得ていない。だから、必要な時以外は口を開かず、アレスの後を追っていた。

(だがこのままじゃ先に進めんな)

 シサンダンが喰ってきた無数の記憶の中にはアレスに似た、追い詰められた男の記憶もある。それを参考にするしかないとシサンダンは決めた。

「なぁ、今思い出したんだが、この山には古代エルフの遺跡があるんだが」
「それがどうしましたか! 無駄口を叩いていないでルーティを探してください!」
「いや、その遺跡には地下があるらしくてな」
「……どうしてそれを早く言わないのです!」
「すっかり忘れててよう」
「くっ、これだから無能は嫌いなんです。どこですかその遺跡というのは!」

(上手く行ったか? これでアレスが思いつけなかったことを思いついたではなく、アレスなら思いつくはずだったことを忘れていたという印象を与えられたと思うが)

 アレスは何の違和感も感じていない様だ。
 シサンダンはじっと待ったかいがあったとほくそ笑む。

(それに、こいつは使えるな。騙すだけではなく、味方として引き込めるかも知れん)

 さすがに今、正体をばらしても説得は不可能だろう。だが、こいつが勇者に拒絶され夢破れたあとなら?
 すべてを失った後、それでも手を汚せば自分の望みが叶うと知れば、この男はどんな手段でも取るのではないだろうか?

(タイミングの問題だな。それに今のままではこいつが敵対を選んだときに勝てないかもしれん)

 アレスの魔力は本物だ。できるなら古代エルフの遺跡に眠っているはずの“アーティファクト”を手に入れてから事を動かしたい。
 シサンダンは先頭を歩きながら、どのような企みを仕掛けるか考えている。シサンダンにとって、この相手を陥れる方法を考えている時間は最も楽しい時の1つだ。その点では、ロガーヴィアでリットを陥れたときは実に愉快だった。
 シサンダンは、アレスからは見えないよう密かに邪悪な笑みを浮かべたのだった。
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