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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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48話 暗殺者は新しい仕事に就く

 昼からはちゃんと店で仕事をした。
 リットに店番を任せ、俺は作業場で薬の調合を行う。今は解毒薬を作っていた。
 悪魔の加護の生産拠点はもうないが、残った薬を当局がすべて摘発できたかは疑問だ。
 それにこれから薬の禁断症状の治療も行われる。
 禁断症状を軽減する薬も必要か。

「いっそ、キュアポイズンポーションを量産するべきかな」

 薬の中毒は、魔法的には毒による効果として扱われる。
 キュアポイズンを使えば、精神的な依存症はともかく肉体的な中毒症状は即座に治療できる。
 だがキュアポイズンポーションは一本300ペリルと非常に高価なので、裕福な冒険者や商人、貴族くらいしか手を出せない薬なのが難点だ。

「薬草を煎じた解毒剤で対応できればいいんだけど」

 キュアポイズンポーションは魔法を封じ込めて作るマジックポーションだ。魔法の使えない俺には作れない。
 しかし薬草を使った解毒剤では、少しだけ症状を緩和する程度だ。薬学的には麻薬中毒は毒とは違う。
 ふえるポーションで1本を5本に増やして安価で売ることならできるが……。

「口が固く信頼できて流通させられる権力もある協力者でも得られれば」

 ゾルタンでの俺の知り合いは下町など中流から下流階級の者に偏っている。
 俺のツテではどうしようもない。

「まっ、リットと相談して、それでも駄目なら諦めるか」

 キュアポイズンポーションが無ければ死ぬということもないだろう。
 ただ問題があるとすれば、悪魔の加護に手を出したという涜神とくしん行為を聖方教会が問題視しており、普通なら麻薬中毒患者の隔離と治療を行う教会が積極的に動いていないことか。
 禁断症状に苦しむ患者を救うには薬が抜けきるまで看病できるパートナーが必要だ。ゾルタンには診療所がいくつかあるが、入院患者の治療というのはあまりキャパシティがない。
 あくまで診療所は訪れた者の治療ということがメインであり、入院も短期間で、あとは自宅でというやり方だ。

「どちらにせよ俺には大きすぎる問題だな」

 いろいろ考えてしまうが、なにか結論のでる問題ではない。
 俺は薬屋としてできる範囲で精一杯やるとしよう。

☆☆

 夕方、あらかた調合が終わり、店の様子見に行くと、リットが笑顔で接客していた。
 店の方は結構繁盛していたようだ。

「サウスマーシュの暴動騒動で、いざというときの備えのための薬……例えば止血剤とかが結構売れたよ。あと衛兵達が二日酔いの薬をかなりの数買っていたわ。キュアポーションもいくつか売れたね」

 店で売っているキュアポーションは、下町の冒険者達に依頼して協力してもらい俺が作ったポーションに魔法を封じ込めたものだ。拘束時間も含めてバイト料は13ペリル。
 駆け出しの冒険者には、拘束時間は長いが、魔法を使うだけでお金がもらえる楽な依頼と人気だ。

「おお、すごいな、過去最高の売上じゃないか?」
「多分1番か2番だと思う。午後からしか開店してなかったのにね。それに各診療所も薬が足りていないみたいだから、明日以降でそっちからも注文くると思うわ」

 リットが今日の売上をメモした紙を差し出した。
 受け取ってざっとを目を通すと、たしかにすごい売り上げだ。

「これならもうちょっと薬の調合をした方がいいな。それにこのペースだと原料となる薬草も足りなくなるな。明日は山に薬草を採りにいくとして、今日はもうちょっと調合を頑張るか」
「お店の方も今日は客足が遠のくまで開いた方がいいかも」
「ちょっと残業させることになるけど。お願いできる?」
「いいよ! 普段はうちで薬を買わないお客さんも来ているみたいだから、ここでレッド&リット薬草店の薬の質の高さを知ってもらおうよ」

 質が高いかと言われるとちょっと悩むところだが、失敗薬は無いと自負している。
 客からもクレームが来たことは無いし、中級調合スキルを使った薬や魔法を使える加護を持つ店主によるマジックポーションを売る店には薬の価値で勝負しても勝ち目はないが、薬を使うのはそのような高級品を使う者だけではない。

「この風邪薬ください!」

 小さなハーフエルフの少女がコモーン銅貨を10枚差し出し、元気に言った。
 生姜を使った身体の新陳代謝を高める薬で、スキルを使う薬のようにすぐに効くような薬ではないが……こういう薬だって需要はある。

「落とさないようにね」

 リットは微笑むと、薬を入れた袋を渡した。

「ありがとうございます! お母さんがカゼを引いてつらそうなの!」
「きっと楽になると思うよ」

 ペコリと少女は頭を下げると、軽やかな足取りで店を出ていった。

☆☆

 私はティセ。暗殺者だったが、今は多分飛空艇の操縦士だ。

「これなら明日には到着しますね」

 夜になり、私は休むために飛空艇を街道から離れた森の近くに着陸させた。
 今は地図を広げて航路について勇者様に説明している。

「そう」

 私が地図を指でなぞりながら話す内容を、勇者様は静かに聞いていた。
 たまに私の方を見てピクリと頬を動かすのだが、何か怒らせたのではとびっくりしてしまう。
 うげうげさんが、大丈夫大丈夫と前足で私の肩を叩いて元気づけてくれた。
 うん、頑張るよ私。
 ひっ!? また勇者様がピクってなった! 私の方じっと見てる!!
 大丈夫、平常心、平常心……。

「明日はこのポイントに着陸して」

 勇者様が地図を指差した。
 ゾルタンから歩いて1日くらいの位置にある山の近くだ。

「ここですか? ここからだとゾルタンは随分遠いですけど」
「飛空艇は目立つ。ゾルタンでは、勇者であることを隠したいの。あなたも、私のことはただの旅人として接して」

 えええええ? 無理無理無理無理!!
 いや、別に飛空艇を離れたところに置くのはいいんだけど、そこから歩くのもいいんだけど!

 勇者様が一般人を装うとか無理無理!

 だって、隣りにいるだけで私冷や汗すごいもん! 背中とか大変なことになってるし! 毎晩下着洗ってるし!
 こんな私は圧倒的に最強なんですよオーラ出している人なんて、勇者か魔王しかいないって!
 私も魔王には会ったこと無いけど。

「そうですか、でも失礼ながら勇者様はあまり旅人について詳しくないのでは」
「あなたの言うとおりよ。私はずっと勇者として生きてきたから。だから私が上手く旅人の振りをできてなかったら、あなたがフォローしてほしいの」

 まじかー。

「私に勇者様の案内役が務まるかどうか。私は卑しい暗殺者に過ぎません」
「関係ないわ。あなたは今も私が旅人について詳しくないことを指摘してくれたもの」

 そこで評価されちゃったかー、多分誰でも指摘できると思うけどなー。
 しかしあまり反論しても怖いし、諦めるしかないのだろう。雇い主の要望はできるかぎり応えるのが暗殺者の仕事だ。
 群衆に紛れる訓練は受けているし、それで勇者様を……無理だろうなー。でもそうは言えない。とりあえず頷いておけば今日は無事に生き残れる。
 困難な状況から生還することも暗殺者の大切な能力なのだ。

「じゃあ、明日の予定は以上よ。あなたはもう休んでいいわ。見張りは私がするから」

 そう言って勇者様は甲板へ出ていった。

 私はティセ。暗殺者で飛空艇の操縦士だったが、今では旅人に扮した勇者様のフォロー役だ。
 まさかこんなことになるなんて、ただの暗殺者だった頃の私は思ってもいなかったのです。

 いや本当に。

☆☆

 夜中、1人で汗でぐちょぐちょになった下着を洗っていると、勇者様がなにやら歩き回っている気配がした。
 耳を澄ませてみると。

「……いない」

 と何やらがっかりしたような声が聞こえた。
 いないって、そりゃ飛空艇には私達しかいないんだから誰もいるわけないのに。
 何をしているんだろうね?

「?」

 うげうげさんも、「さあ?」と首を傾げていた。
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