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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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46話 2人の旅立ちに幸あれ

 私はアサシンギルド所属の暗殺者。アサシンの加護を持つティセ・ガーランド。
 生まれてすぐに奴隷商人に売られ、アサシンギルドに買い取られ、物心付いたころからずっと殺し屋稼業で食べている。好物はおでんのちくわ。
 色々あって勇者様のパーティーに参加することになってしまった。
 暗殺者の自分がもしかして英雄になれるのかななんて、ちょっとだけ夢を見てしまったが、雇い主の賢者アレス様に次が見つかるまでの間に合わせだと、はっきり言われてしまった。残念。

 ペットはハエトリグモの“うげうげさん”。さん、までが名前だ。
 前足をふりあげてゆらゆらしている姿はとても可愛らしい。アサシンに毒蜘蛛を扱うスキル『蜘蛛との共感』があってよかった。
 この恐ろしい状況でもうげうげさんは、元気に私の肩の上を歩き、元気づけようとその小さな前足を振って慰めてくれる。ありがとう。今日のごはんは奮発するからね。
 やったーと無邪気に喜ぶうげうげさんの姿を見てまたほっこり。

「ゾルタンまではあとどれくらい?」

 底冷えするような冷たい声がした。

「3日くらいだと思われます……」
「すごいわね。快速船でも1週間以上かかるはずなのに」

 多分、喜んでいるんだと思う。表情は何も変わらないけど。
 私の心臓の鼓動が1.5倍くらい早くなった。手も震えるし、全身汗びっしょりだ。
 もちろん、生存本能が悲鳴をあげている的な意味で。

 前に勇者様から、あなたは私が近くにいても平気なのね。と肩を叩かれたことがあるが、とんでもない。私は訓練で顔の表情と心の感情を切り離しているだけ、内心は涙目だ。

 現在、私は飛空艇を操縦している。
 アサシンギルドの親友の故郷に伝わる伝説で、先代か先々代かの魔王軍を裏切り飛空艇を奪い、人間とともに戦った正義のオークの英雄ホワイトファングというのがいたそうだ。
 もちろん彼女もそんな話を信じていたわけじゃなかったが、彼女は語るのが上手かった。
 聞けば、彼女の加護は『デッドリークルチザンヌ』、娼婦の暗殺者という意味。心地よい語りだったのはそのためなのだろう。

 そして彼女の語る物語には、ホワイトファングが、愛する幼い奴隷の少女に飛空艇の操作方法を教えるシーンがある。
 数え歌のようにして飛空艇の操作方法を教える歌のシーンなのだが、まさかその知識が本当に飛空艇の操作方法として使えるとは思わなかった。
 細部は違っているところもあったが、何かのために余らせていたスキルポイントをすべてコモンスキルの『操縦』に割り振り、足りない部分は動かしながら感覚的に理解した。
 おかげで分からない機能はあれど、普通に動かす分にはなんとか扱えている状況だ。

 それが仇となって、飛空艇を動かすためにこうして勇者様に連れてこられたわけだけど。

「あ、あの……」
「なに?」
「い、言いたくなければそれでいいんですけど、なぜゾルタンに?」

 本当は、なぜ仲間を置いて行くのかというのが聞きたいのだが、怖くて聞けない。
 助けてうげうげさん。

「?」

 助けを求めてうげうげさんを見たが、困ったように首を傾げていた。
 可愛い。

 勇者様は少し悩んだようだったけれど、懐から小さな紙包みを取り出し、私に見せた。

「この薬を作るためのレシピはあるけど、どのスキルが必要なのかまでは分からない。だから作った人がいるゾルタンへ向かっている」
「薬ですか?」
「そう」
「…………」
「…………」

「あ、あの、何の薬なのでしょうか?」

 その時、恐ろしいことが起きた。
 勇者様が私の目をじっと睨み……口の端を広げて笑ったのだ。

 誰かが言っていた。笑顔とは本来獰猛なものであると。
 私は心底恐怖した。

「ご、ごめんなさ……」
「この薬は私の希望なの。でもあと3つしかないわ。効果は1週間で切れるの。だから定期的に補充できるようにする必要がある……それで早くゾルタンにつきたい」
「は、はい! 頑張ります!」

 ああ! こんなこと聞くんじゃなかった!
 私は何も考えず勇者様を運べばそれでいいんだ。そうだ私は飛空艇の一部。私は歯車。ぐるぐるぐるぐる。

 うげうげさんが、ぴょんぴょんと私の肩を飛び跳ねる。元気出してと慰めてくれている。
 うん、がんばる。うげうげさんの可愛いパートナー見つけるって約束したもんね。

 うげうげさんの仕草だけが私の心の支えだ。

「いい天気ね」

 勇者様が空を見上げて言った。
 私は歯車。ぐるぐるぐるぐる……。

☆☆

「お世話になりました」

 アルはペコリと頭を下げた。
 時刻は夕方。
 今日一日、アルは店の手伝いをしてくれて、夕方にリットと訓練。
 そして夕食を一緒に楽しく食べ……この店を出て行く。

「ねぇ、明日の朝でもいいんじゃない?」

 リットがたずねた。
 アルは嬉しそうに笑うが、首を横に振る。

「いえ、ここは居心地が良いので……明日の朝までいると昼まで、そしてまた夕方までってなっちゃいます」
「そっか」

 アルの腰には俺が渡したショーテルが。
 肩には、リットが選んだ頑丈な旅人のクローク。上半身を覆うビッグホークが渡した白銀の胸甲ブレストプレート、この胸甲はアルベールが選んだらしい。
 直接会ったわけでもないのに、胸甲がアルの身体にぴったりと合うのは、実力不足の仲間がBランク級の依頼で倒れてしまわないよう、装備選びなどもアドバイスしていたというアルベールだからこそか。
 背中には背負袋。中には保存食に砥石、ロープに石鹸。ランタンに油壷。火打ち石に打ち金。俺が選んだ止血剤や解毒薬、3本のキュアポーション。鉄鍋に食器、そして寝袋。

 どこに出しても恥ずかしくない冒険者だ。

「私まで夕食の相伴に預かってしまって。すみません」

 シスターの服を着た女性が頭を下げた。
 彼女は元アルベールのパーティーであった女僧侶。名前はリーアだそうだ。
 そう。彼女と、そして他にも何人かの冒険者がアルとパーティーを組んで冒険者を始めることになった。
 冒険者ランクはアルに合わせてEランクパーティーから。

 事件は最後にもうひと波乱あった。
 コントラクトデーモンとアルベールの脱獄。
 そして残されたビッグホークは、その肥大した贅肉がすべて失われ、痩せこけたみすぼらしいハーフオークの若者になっていた。
 ビッグホークのしでかしたことは、本来なら処刑を免れなかったはずだが、コントラクトデーモンと契約して生き残った者として中央のデーモン学者が興味を示したとのことで、昨日、王都へ向けて護送されていった。

 結構大きな事件だったと思う。
 盗賊ギルドのナンバー2と街一番の冒険者が結託し、住民が暴動を起こしかけ、デーモンの暗躍もあり、未知の秘薬もあり、犠牲者だってでた。
 にもかかわらず、今日もゾルタンはいつもと変わらない日常を送る。
 サウスマーシュは不満を抱え、上流階級と下流階級では偏見があり、衛兵は嫌われている。
 アルベールはいなくなったが、代わりにビュウイがBランク冒険者に収まり、上手くやっているらしい。


 だが、一つ変わったことがある。

「私、感動しました! アル君の言葉で戦いが未然に防げたとき、本当の英雄の役割って、こういうことなんじゃないかって思えて!」

 アルベールの仲間達もあの場にいたのだ。
 騒動の後、この女僧侶リーアは、アルとアデミの演説に感動したとパーティーを組むことを申し出てきた。他にも何人か希望者がいるらしい。
 リーアの申し出を聞いて、アルは即答した。

「まだレベル1の駆け出しですが……よろしくお願いします!」

 最初に俺と会った時、自分の加護におびえていた少年の姿はそこにはなく、自分の加護を受け入れ前に進もうとする強い眼差しの冒険者がそこにはいた。

 この事件は、アルを変えたのだ。


「それじゃあ、いってきます!」

 アルは右手を差し出す。
 俺とリットはその手と強く握った。

「頑張ってね」
「薬が必要ならいつでも来い。割引してやるぞ」
「いえ! それよりも、すごい財宝見つけてお金持ちになって、レッドさんがリットさんにミスリル銀の指輪をプレゼントできるくらい薬買いますから!」
「それは素敵ね!」
「ミスリル銀か、大きく出たな」

 いいね、こういうやつは伸びる。
 俺はアルの癖っ毛の頭を撫でた。おそらくこうして子供扱いするのはこれが最後だろう。
 なんだか少し寂しい。

「頑張れよ冒険者アル」
「はい!」

 アルは満面の笑顔を浮かべ、そして少しさみしそうな顔をした後……。
 レッド&リット薬草店を後にした。

「行ったな」
「うん、行ったね」
「なんか、子供ができたみたいだったな」
「あ、私もそれ思った」

 俺達2人は顔を見合わせる。

「子供か、悪くないな」
「悪くないよね」

 俺達は2人で一緒に笑った。
 そうだな、俺達も幸せなゾルタンの日常に戻るとしよう。
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