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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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41話 英雄の誕生

 現れたのは、アルベール、黒い布で顔を覆ったストーカーデーモンが9人、それに無表情のビッグホーク。

 待て、ビッグホークがなぜここに?
 この短時間で俺に追いつけるはずが……。

「やはり俺の見込みに狂いはなかった。お前は俺と同じ英雄に属する人間だったようだな」

 俺の驚きを無視してアルベールは大げさな身振りで話を続けている。

「お前は俺を出し抜いたと思っていたようだが見通しが甘かったな。この程度想定の範囲内だ」

 嘘つけ、ただバックアップとして後ろに控えていただけだろ。
 想定していたのなら対応が遅すぎる。あの場からアルとアデミを連れ出された時点で半分負けたようなものなのに。

「アルベール、なぜビッグホークがここにいる?」

 アルベールはそのあとも何か色々と喋っていたが、一向に俺の疑問について答える様子が無かったので自分から聞く事にした。

「それは……」
「それはこのビッグホークがただの抜け殻だからさ」

 説明しようとしたアルベールの声を遮り、ビッグホークが声を発した。
 その声は、鈴がなるような耳心地良いもので、ビッグホークの声とは明らかに違っていた。

「……そういうことか、最後の疑問点もこれで解けたよ。どこからか薬の知識を得たとしても、50体の中級デーモンを生贄にするなんて、どうやってそんなことができたのか。そこだけが分からなかったが、コントラクトデーモンが背後にいたのか」

 ビッグホークの顔が醜怪に歪んだ。

「我は望みを叶える者。この者の望みはゾルタンの王になることだった。だから力を貸してやったのだよ。非才で知性の欠片もないこの男の身体を乗っ取り、我が代わりにこの男の能力と人格の範囲で王になってやることにした。この男の意識は残してある。我が見たもの、我が感じたものはこの男も感じられる。美食も美姫も堪能したことだろう。
 指先一つ自分の意志で動かせないという些細な欠点はあるが、満足いただけていると信じているよ」

 コントラクトデーモン。契約の悪魔。
 願いを叶える悪魔との契約についての物語は、大陸中に伝わる有名なものだ。
 その物語の大半が悲劇的な結末で終わり、愚かな契約者の魂はコントラクトデーモンの加護に吸収され、加護レベルをあげるために使われたり、デーモンの武具の材料に使われたりする。

 その主役がこの上級デーモン。デーモン以外の存在の願いを叶えるという契約書を交わすことで、本来使えないほどの強大な魔法……現実を変えるような神にも等しい力を行使することができる。

 上級デーモンは下位のデーモンに対して絶対服従させるスキルを持つ。デーモン学者によれば、下位のデーモンにも上位のデーモンに服従する効果を持つスキルがあるらしい。加護の衝動だけでなく、スキルとしても縛っているそうなのだ。
 その力を使って、アックスデーモン達を召喚し、生贄にしたのだろう。
 そして恐らくは、薬の知識そのものもこのデーモンがもたらしたに違いない。

「上級デーモンか」

 直接戦闘向きのデーモンではないとはいえ……。

(まともに戦えば勝てる相手じゃないな)

 この場にルーティ以外でもいい、ダナンでもヤランドララなど仲間がいて、俺もサンダーウェイカーといった装備が万全なら勝てる可能性は十分にある。
 が、今は俺1人だけ。魔法の装備は一つもなく、武器は銅の剣だけ。
 上級デーモンと戦える状態ではない。

 ないが、

「まともに戦えないのはそちらも同じだろう」
「…………」

 巨漢のハーフオークの姿をしたデーモンは表情を変えない。
 だが、俺は自分の予測が正しいことを確信している。

「コントラクトデーモンが本気で動けば、もっと簡単にゾルタンを制圧できていたはずだ。なぜそれをしなかったのか」
「……なぜだと思うのかね?」
「俺はデーモン学も少し勉強していてね。コントラクトデーモンに関する論文は随分読んだ。コントラクトデーモンの契約は凄まじいパワーを持つが、同時にコントラクトデーモンにも制御できない部分がある。そうだろう?」
「さて?」
「契約はビッグホークをゾルタンの王にする。そのためにあんたはビッグホークの身体を乗っ取り、ビッグホークとしてあらゆる悪行を重ねて成り上がってきた……だが盗賊ギルドナンバー2止まり。さぞ困っただろうな」

 コントラクトデーモンの顔が僅かに歪んだ。

「怠惰の町と呼ばれるのは伊達じゃない。市長も各種ギルド長も、裏社会を取り仕切る盗賊ギルドまでも、ここのトップは100%年功序列で決まる」

 そう。
 この町のトップへの昇進は年功序列。
 ある程度の役職になった後は、実績、加護、本人の人柄すら関係ない。
 年齢の高いものが偉く、低いものは歳を取るのをのんびり待つ。そこに野望の入る余地はない。

 なぜか?

「揉めるのが面倒なんだろうな。頑張らなくてもそのうち自分の番が回ってくる。それでよし。ビッグホークの盗賊ギルドナンバー2だって、副ギルド長なんて肩書があるわけじゃない。実力的にそうだというだけだ。あんたがどれだけ優秀でも、盗賊ギルド長になるにはあと20年は待つだろうな」
「……いやはや全く、ここは度し難い町だ」

 コントラクトデーモンは片手で目を覆い、嘆かわしいとばかりに首を振った。

「これまでも似たような願いは叶えてきた。我の知識と判断力とデーモンの加護の力を持ってすれば容易いことのはずなのだがね。白状しよう、参ったとも。どれだけ実績を重ねても、どれだけ見返りを用意しようとも、慣例だからと首を縦に振らない。ゾルタン人はとんでもない怠け者どもだ」
「契約に縛られているあんたは、今更ビッグホークの身体を捨てることができない。契約の奇跡はすでに行使されている。その奇跡で願いを叶えられなかったら契約不履行ってことになるからな」

 そうなればデーモンはビッグホークの魂を手放さなければならない。契約不履行の場合、契約者から奪ったものはすべて返還され、デーモンの加護レベルもいくつか失われる。
 大損というわけだ。

「そこであんたは、同じ余所者であるアルベールに目をつけたのか」

 盗賊ギルドとアルベールが親しくしているのは周知の事実だ。
 その仲立ちにビッグホークの姿があったことも、いくつかの証言から裏付けが取れている。

 コントラクトデーモンは、契約によってビッグホークの持っていない力を使うことはできないが、同じ契約ならビッグホークの姿のままでも奇跡を起こすことができる。
 コントラクトデーモンは今更ごまかすこともなく、俺の言葉に同意した。

「契約者というのは誰でも良いわけではないのだ。十分な意思の強さを持ちながら、それでいて心に鬱屈した闇を抱えているものでなければな。その点、このゾルタンは最悪の場所だ。みな、多少なりとも不満を抱えているのに、仕方がないと諦めている。怠惰の罪はこれはこれで利用価値はあるのだが、契約者には向かない。アルベールがここに来たのは幸運だった」

 アルベールの加護はザ・チャンピオン。
 生まれついての英雄だ。だが、彼はそれだけの成果をあげることができなかった。
 弱くはないが、中央で彼は、個人としてはBランク冒険者として通用せず、パーティーの活躍に助けられる形で、Bランクパーティーに在籍していただけだった。

 彼の周りに、ザ・チャンピオンの加護のスキルはどう取ればいいのかを教えてくれる者が誰もいなかったのもあるし、彼自身の才能や協調性の悪さなど要因はいくらでもある。
 だが今重要なのは、彼はそんな自分の境遇に満足していなかったという点だろう。
 なぜならば、彼は英雄ザ・チャンピオンなのだから。

「ゾルタンでならアルベールは、Bランク冒険者として通用した。アルベールがやってきた時点で、この町のBランク冒険者は先代市長のミストーム師と冒険者ギルド幹部のガラディン、聖方教会のシエン司教、衛兵隊長のモーエン。この4人がパーティーを組み、忙しい中、時間を見つけて対応していた。とんでもない人手不足な状況だ。たとえ多少の実力不足に目をつぶってでもBランクに近い能力を持っているなら構わなかった」

 コントラクトデーモンの話に、アルベールは少し顔を歪めた。
 事実であっても、この話はアルベールにとって不快なのだろう。

 当時の状況は非常にまずかったと、俺もモーエンから話を聞いている。
 4人とも本業でも忙しい身で、まだ衛兵として現役であるモーエンはともかく、残り3人はもう引退してもおかしくない年齢だった上、普段の仕事で戦闘訓練も足りなかった。格下相手にも危うい場面が何度もあったそうだ。
 パーティーを外れ、ランクが未査定になっていたアルベールがゾルタンにやってくると、町は即座にアルベールをBランク冒険者として認めた。そうするしかない状況だったのだ。

 アルベールはゾルタンで英雄となった。

「だが、俺はこのゾルタンがつくづく嫌になった」

 アルベールが吐き捨てるように言った。

「目の前に冒険者を必要としている依頼があるというのに面倒くさいと無視するクズ。目を離せば不平不満ばかりの役立たず。それが俺の仲間だと? それが俺と同じBランク冒険者だと? 認められるか! そしてそんなやつらのなかで生きる俺はなんだ! アウルベアを倒すだけで騒ぎ立てるような町だぞ! そこで英雄を気取る俺はなんなのだ! この町で終わるのであれば俺の人生とはなんのためにあったのだ!!」

 アルベールがゾルタンで周りから英雄だと持て囃されれば持て囃されるほど、それに仲間が能天気に喜んでいる姿さえもが、彼の鬱屈した闇を育てる原料となっていたのだろう。
 そこを悪魔につけこまれた。

「……だが安心しろDランク。俺は英雄となる男だ。コントラクトデーモンと契約しようとも、邪悪な企みには加担しない」
「これだけの事件を引き起こしてか? 死んだやつもいるんだぞ」
「必要な犠牲だ。俺の望みは、このゾルタンも一丸となって魔王軍との戦いに参加すること、それだけの戦力と気概のある町にすることだ。変革には血の犠牲が必要なのだ」
「魔王軍と?」

「この話を聞けば、レッド、お前も我々の行為が決して邪悪なものではないと理解できるだろう」

 コントラクトデーモンが話を続ける。

「まず、今の魔王軍は、先代魔王達のような、これまで何度もこのアヴァロン大陸……我々は眩光げんこう大陸と呼んでいるのだが……この大陸を攻めた主流派とは異なるのだ。多くの種族が今の魔王に征服されてしまったため、みな従っているがね。征服されていないデーモン族とまだ勢力を保っているドワーフ族は結託して、レジスタンスとして魔王軍と戦っている……戦況は芳しくないが」
「それで?」
「我がここにいるのはもちろんこのハーフオークの望みを叶えるためでもあるのだが、同時に後方のゾルタンにも積極的に魔王軍と戦ってほしかったからでもある」

 なんだ? 話がえらい方向に飛んだな。

「アルベールの望みは勇者と共に魔王を倒す英雄になることだ。代償の契約も魂ではなく、魔王を倒すまでその生涯を魔王との戦いに捧げることにしている。どうかね、決して悪意による契約ではないと伝わってくれればよいのだが」
「本当なのかアルベール?」
「ああ、本当だ」

 アルベールは俺をまっすぐ見据えた。
 その瞳は野望に燃えている。

「俺はこのデーモンから力を得た、どんな怪物でも殺せる魔剣ヴォーパルブレード! そして、クズ加護持ちにも戦える力を与える悪魔の加護! 俺はゾルタン議会を掌握し将軍となる。そしてこのゾルタンを軍事国家にして、勇者の戦いに馳せ参じるのだ!」

 アルベールは吠える。
 アルベールには、今押し寄せる魔王軍の兵士、肩を並べる勇者ルーティや武闘家ダナン、そして自分の声に呼応して槍を振りかざす兵たちの姿が見えているのだろう。

「俺はザ・チャンピオンのアルベールだ! 今こそ、俺は、辺境でしか通用しない落ちこぼれ冒険者アルベールではない、英雄の加護にふさわしい俺に! 魔王と戦う英雄たる俺に! 本当の俺に変わるのだ!」

 勇者のパーティーから離れた俺と、勇者のパーティーを目指すアルベール。
 同じ戦力外として追放された俺達は、しかしどこまでも対照的だった。
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