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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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39話 ビッグホークは夢に狂って演説する


 夕方頃、アルは屋敷のバルコニーへ続く扉へと連れてこられた。
 粘着爆弾による緑色の粘着物はすべて洗い流され、服も新しいモノに変えられ、その上からきらびやかな装飾を施された白銀色の胸甲ブレストプレートを身に着けさせられていた。
 すぐ隣には、縄で縛られたアデミがいる、こちらはボロボロに汚れた服のままだ。何日もこのままなのだろう。

「危険なことは何もない。君はただ、自分の加護の望むがままに従えばいいだけだ」

 そういってビッグホークは意味深に笑う。
 ビッグホークが両手で扉を開けると、大きな歓声が聞こえてきた。

「な……!?」

 アルの目に飛び込んできたのは、広大なビッグホークの屋敷の庭に収まりきらないほどの、歓声を上げる人々だった。
 そのほとんどがサウスマーシュの人間だ。ボロボロの服に汚れた顔。だがその目は大きくギラギラと輝き、両手をあげてビッグホークの名を叫んでいた。

「なんで……」

 アルの知る限り、ビッグホークは顔役ではあるが、決してサウスマーシュの人間から好かれていたわけじゃない。そもそも移住者の多いサウスマーシュでは、ハーフオークに対する偏見が強い者も多く、「あの豚面」と隠れて陰口を言っている者も多かったはずだ。

「人の好悪とは、ほんの僅かなきっかけで変わるのだ」

 ビッグホークは脂肪の詰まった大きな腹を揺らして笑った。

「サウスマーシュ区の住民を苦しめる俺も、サウスマーシュの不満を集めて議会に抗議する代表となれば、こうして歓声を受ける英雄にもなれる。人は英雄を求めているのだ」

 ビッグホークが丸太のような腕を振ると、人々はさらなる大きな歓声をあげた。

「我らのビッグホークさん! 我らの顔役!」

(そんな、こいつは皆を苦しめてきた悪党だよ! なんでそんな簡単に騙されるんだ!)

 だが現実に、数々の残虐な伝説で恐れられるビッグホークは、まるで勇者であるかのように、人々から歓声を浴び、気持ちよく手を振っていた。

「さて、諸君。つい昨日、俺はゾルタン議会、そして衛兵屯所に抗議に行った」

 歓声が引いていく。
 まだ声を上げる者には周りが注意して黙らせ、全員がビッグホークの次の言葉を真剣な表情で待つ。

「目的はもちろん、ここにいるアル君の家族を襲った卑劣な犯罪者についてだ」

 サウスマーシュの人々は怒声をあげた。
 ビッグホークが手を挙げると、怒声はすぐに静まったが、全員がアルに対する同情と、衛兵達に対する敵愾心てきがいしんに満ちていた。

「俺は尋ねた。なぜ衛兵隊が束になっているのに少年1人見つけられないのかと。すると彼らはこう言った。お前たちが騒ぐからだと」

 再び怒声。

「これが詭弁きべんだということは明白だ! なぜならば我々が声を上げたのは正義が為されないからであり、正義を要求する声によって正義の施行が妨害されているなどということがあるはずがない!」

 そうだ! そうだ! という同意の声がいくつもあがる。

「ゆえに真実はただ一つ! 衛兵は望んで不正をなしているのだ。アル君の家族を襲った犯人は、衛兵隊長の息子アデミ! 衛兵達からも可愛がられていたそうだ! 彼らは正義よりも、我らの痛みよりも、仲間の子供を取ったのだ。憤るか? 悔しいか? だがこれがゾルタンだ! 我々は余所者だ! 我々が何人死のうが、議会も衛兵もゾルタンは一粒だって涙をながすことはない! ゴミが死んだとあざ笑うだけだ!」

 怒声が巻き起こる。先程より強い。
 その様子をビッグホークは満足気に眺めた。

「だが君たちは慎重で賢明なサウスマーシュの人間だ。富めるものから虐げられ、僅かなパン屑を奪い合う。そんな生活で身につけたモノがこう言うのではないか? 本当に衛兵が黒幕なのか。何か証拠はあるのか……よろしい、ならばお見せしよう!」

 後ろから、アルを裏切った二人の衛兵とアデミが縄で縛られたまま外套を着たボディーガードにつれてこられた。

「へへ……」

 衛兵はうただれてはいるが、口元には笑みを浮かべている。

「彼ら二人はこうして縄目につながれてはいるが、彼らこそ真の衛兵だ、真の正義を知るものだ!」

 二人の衛兵が前に出た。
 静まり返った聴衆に対し、二人はまず深々と頭を下げた。

「私は私達を告発する! ここにいるアデミは我々が匿っていた! すべてはアル君たち、そして君たちサウスマーシュ区のデタラメな訴えだったということにするために!」

 一瞬の間、そして爆発的な怒声。

「静粛に! 静粛にするんだ!」

 ビッグホークが何度も叫び、ようやく聴衆は静かになった。

(くそ……!)

 アルはデタラメだと叫びたかった。衛兵の演技は下手くそで、よく見れば誰だって彼らが嘘をついていることくらい見抜けたはずだ。

「人は自分が信じたい嘘には簡単に騙されるものだよ」

 ビッグホークがアルの耳元でそう囁いた。
 アルの首をつかむビッグホークの太い指は、簡単にアルの首をへし折れるだろう。アルが叫ぼうとしたその瞬間に込められた力は、アルを黙らせるのに十分な威力を持っていた。

 衛兵の下手くそな茶番は続き、聴衆はビッグホークの思う通りに反応する。
 サウスマーシュ区の貧困も、待遇の悪さも、環境の劣悪さも、このゾルタンが嵐の通り道であることすら衛兵と議会のせいであるかのような演説が終わり、再びビッグホークが喋りだす。

「これが証拠だ。まだ信じられないものはいるか? まだ議会と衛兵を正義だと信じているものは? このビッグホークを疑っているものはいるか?」

「ビッグホークさん! 我らの顔役!」

「よろしい! 我らはこれで一丸となった。ではこれから何をするか、どう変えていくか……我々はもう忍耐と寛容を捨て去るべきなのだ!」

 アデミが無理やり跪かされる。

「俺はここに宣言する。これは、盗賊ギルドがやるような陰湿な陰謀ではない! 正義の名の下に行われる応報だ! 革命だ!」

 アルにショーテルが渡された。

「衛兵が悪を裁かないのなら、我々が断罪する! 議会が我々を虐げるのなら、我々は議会を必要としない!」

 アデミが怯えた目でビッグホークを、そしてアルを見た。

「応報せよアル君! 君の両親を襲った悪党に、裁きの刃を下すのだ! 悪党の首を革命の火にくべ、新たなゾルタンを作る創造の火を燃やせ!」

「ま、まさか、僕にアデミを殺せというの!?」
「そうだ、経緯はどうあれ、このアデミが君の両親を襲ったのは事実。それはあの晩見た通りだ」
「で、でも! そう仕向けたのはあなたなんでしょ!?」
「違うな、俺達は確かにアデミに薬を渡した。斧も渡した。逃げるアデミを保護してやった。だがそれだけだ。アデミは悪魔の加護の衝動に負け、殺戮のために君の両親を襲った。君が死ぬような目にあったのも、アデミ自身が望んだことだ」

 それまで救いを求めてアルを見ていたアデミは、そう言われ恥じ入るように目を伏せた。

「我々がやらずとも、アデミは君を苦しめていただろう。君は何度もアデミに殴られているし、よく分かっているだろ?」
「……そうだけど」
「それにな、アデミは加護が2つある……斬れば君の加護は大きく成長するぞ」

 ドクンと加護が疼いた。
 眼の前にいるのは敵だ。
 あの晩、斧を持ったアデミは、僕を殺すつもりだった。殺そうとしたのだから殺されても文句はいえない。だって敵なのだから。敵を殺すのになんの躊躇がある。
 アルの思考に加護の戦闘衝動が交じる。

 どのみち、殺さなければ別の誰かがアデミを殺すだろう。
 だったらまだ殺す理由がある僕が殺した方がいいのではないだろうか。

 アルはショーテルを抜いた。
 アデミに殴られた時の痛みがよみがえる。
 あの時の憎悪を思い出す。涙を流した屈辱で心が焼け付く。

 その時、ショーテルの刃にアルの顔が写った。

「あ」

 その顔は怯えていた。戦いの衝動なんてどこにもなかった。

「決めた」

 アルはショーテルを振り上げた。そして迷わず振り下ろす。
 ビッグホークの大きな顔が笑う。

 はらりと、アデミを縛っていた縄が落ちた。
 アデミは驚いてアルを見上げる。

「アル……」

 ビッグホークの顔から笑顔が消えた。
 無表情にアルを見つめ、抑揚のない声で語る。

「手元が狂ったのか? それともためらったのか?」
「違うね。僕の剣はアデミを斬ることを望んでいない。僕は僕の斬りたいものだけを斬る」
「……もう一度だけ聞くが、考え直す気はないのか?」
「僕の剣は、僕とアデミの敵と戦うと決めたんだ。僕はウェポンマスター! 僕の剣だけには嘘はつけない!」

「そうか、ならプランBだ」

 ビッグホークが左手をあげた。
 錬金術師の加護を持つ小男は、腰のアイテムボックスから斧を取り出す。

「あ、う……」

 それを見てアデミが怯えたように声を上げた。

「アデミ!?」
「無駄だ。悪魔の加護による暴走の条件を教えてやろう。薬を服用すると、生来の加護のレベルを悪魔の加護に変換する。生来の加護のレベルを変換すればするほど加護の衝動は少なくなり、猛烈な解放感と多幸感を服用者は感じることができるというわけだ。だが、悪魔の加護が生来の加護のレベルを上回った時、強い依存性と人格の凶暴化が起こる」
「アデミしっかりして!」
「特に生来の加護のレベルをすべて変換し尽してしまうと大変だ。薬の原料となったアックスデーモンの影響があらわれ、斧を見ると殺戮衝動に駆られてしまう。これが最近起こっている事件の真相だよ。俺達に取っては、なかなか便利な特性だったがね」

 アデミはアルを突き飛ばした。
 バルコニーで何を会話しているのかまでは下の聴衆には伝わらないが、何か異常が起きたことは伝わった。
 聴衆は不安げにざわざわと声があげ、バルコニーを注視している。

「アル君、君は英雄だ。家族を殺されかけながら、それでも対話の道を選ぼうとした。だが卑劣なアデミはそんな君の想いを踏みにじり、斧による惨殺という悲劇で応えた。これは許されざる行為だ。彼らとの対話は無意味であると、アル君は身をもって我々に示してくれた」

 ビッグホークはおどけて肩を揺らした。

「台本はこんな感じだが、どうかね? 何かこうして欲しいという要望があれば受け付けるが……しかし早いほうがいいぞ。アデミに殺されないうちにな」

 錬金術師の持っている斧にアデミが飛びついた。
 アルは絶望的な感情にかられながら、それでも剣を構える。

「な!?」

 だが、次の瞬間、斧は両断され、錬金術師の男は肩口から血を流し崩れ落ちていた。

「“英雄リットは俺達を出し抜いたと思っていたようだが……そう思わせるのが一番安全なんだ” だったか? 言えてるな。そう思わせるのが一番だ」

 ここまでアルを運んできた外套を着たボディーガードの手には銅の剣が握られている。
 彼が鋼鉄製の斧を両断し、錬金術師の男を斬ったのだ。

「飛ぶぞ、捕まれアル!」

 外套を着た男はアデミを抱きかかえ、アルに叫ぶ。
 アルは彼の首にしがみついた。

「ば、ばかな!? ウェブリー! 気でも狂ったか!」

 ウェブリーと呼ばれたボディーガードは、ビッグホークに向けてフードの下からニヤリと笑うと、二人の子供を抱えたまま、三階のバルコニーから飛び降りた。

☆☆

 変装の外套クロークオブディスガイズや、幻術、変容術など姿を変える魔法や魔法の道具は多い。
 変装対策に、そういった魔法の痕跡を調べるのは常識だ。
 もちろんビッグホークも念入りなディテクトマジックによる侵入者対策は怠っていなかった。

「そこに付け入る隙がある」

 コモンスキル:変装。
 服、化粧、演技。そういった技術による変装を重視する者は少ない。魔法で解決できることに貴重なスキルポイントを割くことは愚か者のすることだ。

 だからこそ、俺は自分の変装が絶対に見破られない自信があった。
 このために調査をリットに任せ、自分は変装する相手を尾行し、その動きを観察したのだ。

「れ、レッドさんですよね!? 顔違うけど! こ、ここから飛び降りて大丈夫なんですか!?」
「軽業スキルマスタリー:スローフォール!」

 俺は落下しながら時折、壁を蹴って勢いを減じる。
 スローフォールは、手の届く距離に壁などがあれば、それを使って減速しながら着地するマスタリースキルだ。
 これも飛行フライの魔法があれば解決するわけで、アレスからはさんざん文句を言われたが、単独で先行することが多い俺には重宝するスキルなのだ。

 俺は無事着地すると、バルコニーから身を乗り出し、まだ状況を理解できていないビッグホークに軽く手を振った。そして二人を抱えたままその場を走り去った。
 我に返ったビッグホークの叫び声が聞こえたときには、もうヤツの姿は遠いものになっていた。
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