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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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36話 下町で剣を買おう


「レッドさん、酔い止め貯蔵庫から出しときますね」
「ああ、頼む」

 アルはすっかり店の仕事を覚えてしまった。
 もう1人で店番させても何の問題もないだろう。
 子供の物覚えの良さには驚かされる。

「あと、リットさんもいつまでもイチャついてないでレッドさんを離してください。そろそろ灰色ヒトデ草の調合しないと駄目でしょ」
「えー、だって最近忙しくてレッドと一緒に居られる時間が少ないんだもの」

 俺のあんまり柔らかくない膝の上に頭を乗せていたリットは、口をとがらせて文句を言うが、素直に離れた。
 最近は、ちゃんとアルが働かなければいけないときには文句を言うようになったため、リットは文句を言われるまで安心して俺にベタベタするようになった。

「しかし、ここまでしっかり手伝ってくれるならちゃんとバイト代出さないとな」
「いいんです。美味しいご飯を毎日食べさせてもらっていますから」
「とはいってもなぁ」

「じゃあさ」

 リットが口を挟んだ。

「アルの使うショーテル買いに行こうよ」
「え? そ、そんな悪いですよ、バイト代より高いじゃないですか。それに僕には、貰ったショーテルがありますし」

 ショーテルは珍しい武器だけあって、ちょっと高い。
 鋼鉄製ショーテルの値段は60ペリル。
 同じ鋼鉄製のロングソードが30ペリルなので倍だ。
 これが標準の値段で数打ちの量産品。名高い刀匠の作ならさらに高くなるし、魔法を込めれば数千ペリルに跳ね上がる。

 刀剣というのは他の武器に比べて値段が高い。
 というのも鋼鉄を鍛造するのに、初級とはいえ鍛冶スキルが必要なためだ。
 刀身全体を鍛える必要がある刀剣は、最短でも加護をレベル5まであげてスキルポイントを注ぎ込まないといけないため、製作できる者が限られてしまっている。
 その点、鋳造のみで作れる銅の剣はスキルが必要ないため、素材自体は鉄より高いのにも関わらず、10ペリル以下の安い値段で取引されている。
 素材の性能から両手剣やポールアームのような長大な武器は作られていないが、銅の剣は駆け出しの冒険者の味方なのだ。

 1ペリルがおおよそ庶民の1日の生活費だ。
 つまり60ペリルのショーテルは2ヶ月分の生活費。
 アルが貧民街のようなサウスマーシュに住むことを考えれば、アルの生活費4ヶ月分くらいになるかもしれない。
 半月程度のバイト代にしては高すぎると、アルは思うだろう。

「でも、アル。貰ったショーテルがしっくり来てないんだろ?」
「そ、そんなことは」

 図星をつかれたようでアルは言い淀んだ。

「まっそりゃそうだ。慣れれば使い手が武器に合わせることだってできるだろうが、最初のうちは自分の体格や癖にあった武器を使うべきなんだ」
「私も最初は自分用の剣を作ってもらったわ」

 リットは懐かしそうに剣を習い始めた時のことを思い出しているようだ。
 俺も、村の鋳物屋のおじさんに、あーだこーだ相談しながら、最初の銅の剣を作ってもらった時のことは今でもはっきりと憶えている。
 銅の剣は型を作ってそこに溶かした銅を流し込んで作るのだが、そのため形状に自由が効くのだ。
 これも、剣の道の入門者に適した性質だろう。
 鉄の鋳造でも成形後に一度、ハンマーで鍛造する必要がある。
 これはスキルレベル1でいいのだが、それでも鍛冶スキルがいるため作れる者は限られてしまう。

 まっ、アルにはちゃんと鋼鉄製のショーテルをプレゼントするけどね。
 ウェポンマスターは銅のショーテルなんて納得しないだろうし。

「そうと決まれば、昼から行こう」
「え、今日なんです!?」
「鍛冶屋は夕方には店閉めるしな」
「で、でも」
「もちろん、私も付きそうわよ。いや、むしろレッドが付き添いね。私の方がショーテル詳しいし」
「リットさんまで」

 俺はアルの側まで近づき、その癖っ毛の頭をなでた。

「子供が遠慮なんてするな。こういう時は元気に礼の一つでも言ってくれれば十分なんだ」
「……はい、ありがとうございますレッドさん、リットさん!」

 アルは頬にえくぼを浮かべ、子供らしい表情で笑った。

☆☆

 下町の外れにあるドレイク武具店。
 自称ドレイクスレイヤー。ドワーフのモグリムの店だ。

「いらっしゃい」

 受付にいるのはモグリムの奥さんであるミンク。こちらは人間の女性だ。年齢は40代後半くらい。
 見た目は恰幅のいいおばちゃんだ。
 身長の低いドワーフのモグリムと並ぶと、奇妙な絵になるのだが、それがなぜかしっくりくる。そんな2人だ。
 ハーフヒューマンが多く住む下町でも、ドワーフと人間の夫婦は珍しい。

「レッドちゃんじゃない、そろそろ銅の剣を卒業する気になったの?」
「いやこっちのアルに剣をプレゼントしようと思ってね」
「もしかして、最初の一振り?」
「そう、だからモグリムと相談したいんだけど」
「んまぁ、それは張り切らないといけないわね! すぐにうちの人呼んでくるから」

 ミンクは「あんたー! あんたー!」と叫びながら店の隣にある鍛冶場へ走っていった。
 アルはポカンとしている。

「タンタとはよく遊ぶみたいだが、お店に入ることはあんまりないか」
「はい」
「下町の方はこんな感じだ。変な人ばかりだよ」

「変な人とはなんだ!」

 ガラガラと響く声をあげながら、ドワーフを基準にしても小柄なアルとあまり変わらない身長の男が肩をいからせてやってきた。ドワーフらしく、豊かな髭が口の周りを覆っている。

「自覚なかったのかドレイクスレイヤー」
「貴様! まだ疑っておるのか! よし、また聴かせてやろう、儂がエンカー湖の主、呪われし霧の大帝、ミストドレイク“ファフニール”を屠った、あの戦いを!」
「やめろやめろ、聞き飽きた。だいだいファフニールなんて名前のミストドレイク、聞いたこと無いぞ。エンカー湖だって秘境のように話すけど、漁業でそこそこ有名な土地だぞ? 村だってある」
「そう! あの邪悪で狡猾で暴虐なファフニールは村人達を奴隷のように扱い、毎日のようにうら若き娘を生贄に捧げさせていたのだ! 村人たちは命惜しさに助けを呼ぶこともできなかった!」

 モグリムの話は毎回変わる。
 どうやらどこかの湖で、なにかしらのモンスターを倒したらしいというところまでは事実のようだ。
 逆に言えばそこ以外は全部テキトーな設定だ。

「いい加減におし!」
「グアア!?」

 ほら話を続けようとしたモグリムの後頭部を、ミンクが蹴飛ばした。
 体格差もあり、モグリムは顔面から盛大にコケた。

「客に無駄話なんてしてるんじゃないの! このアルって子の最初の一振りなんだよ! ちゃんと納得の行くもん作ってやんな!」
「おーイテテ。全く、蹴らなくてもいいじゃないか」
「いいから早く!」
「はいはいっと」

 モグリムは立ち上がり、顔を覆う髭についたゴミを手で払った。

「んじゃ、そこのエルフの坊主だな! ショーテルか、なかなか難しい注文だが心配することはない! 裏の倉庫に武器が沢山あるから、そこでどんなバランスにするか決めようじゃないか」
「は、はい!」
「じゃ、私も付き添うわね。ショーテルのことならちょっと詳しいわよ」

 リットがそう言うと、モグリムは目をしばたたかせた。

「英雄リットから武器づくりの手伝いしてもらえるなんて、お前さん運がいいな」
「本当にそう思います!」

 アルは嬉しそうにそう言った。

☆☆

 3人は奥に移動し、俺は店で適当な武器を眺めている。
 モグリムは職人系加護上位の『ルーンの鍛冶司』という加護を持っている。
 本来ならばこんな下町ではなく貴族や上位ランク冒険者向けに店を構えてもおかしくないのだが、どうも加護と相性が悪いようで、武具に魔法効果を与えることが苦手なようだ。
 だが通常の鍛冶であれば完璧なので、下町一番の鍛冶師として大いに尊敬されている。

 ……ほら話は別として。

 ガチャリとドアが音を立てた。

「いらっしゃい」

 カウンターにいたミンクが声をかける。

「おや、レッドじゃねえか。なんでこんなところでサボってるんだ?」
「ん、なんだ、ゴンズにストサンにニューマン先生? 珍しいトリオだな」

 入ってきたのは、俺もよく知る3人。
 ハーフエルフ大工のゴンズ、ハーフオーク家具屋のストームサンダー、人間医者のニューマンだ。

「俺とニューマン先生は、もともと一緒に来る予定だったんだ。俺は大工の道具の注文に。先生は医療用のメスを打ってもらいにだ」

 ゴンズが言った。ニューマンも頷いている。

「俺は家具を削るカンナとナイフの修理を頼んでたんだ。それでバッタリと二人にあってな」

 三者三様。
 端正な顔立ちのゴンズ。恐ろしげな顔をしたストサン。ハゲた頭に温和な笑みを浮かべるニューマン。
 それぞれが下らない下町の冗談を言い合いながら、ドワーフの鍛冶屋で談笑する。

「これがゾルタンだよ」
「何か言ったかレッド?」
「俺も話に混ぜてくれって言ったんだ」
「おう、じゃあ同棲生活の、のろけ話でも聞かせてもらおうか」
「それは私も興味あるな。レッド君、そこんところどうなの?」

 三人はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。

「いいだろう、聞きたいなら聞かせてやるよ。ただし覚悟しとけよ。俺にリットのことを語らせたら、せっかく修理した道具が錆びついちまうまで話すぞ」

 三人はこんな下らない冗談にも大笑いし、ストサンは俺の背中をバシバシ叩く。

「全く、幸せもんだなお前は」
「だが奥さんはいいもんだぜ」
「私にもどこかに良い人がいればいいんだけど」

「あの診療所の子は?」
「ちゃんと彼氏がいますよ。しかもCランク冒険者」
「まじかー、先生じゃ勝てないな」
「Dランク冒険者のお前が言うか」
「俺にはリットがいるし」

 俺が得意げにそう言うと、三人は顔を見合わせ頷き、三人で俺の頭をビシバシ叩き始めた。
 俺は慌ててミンクのいるカウンターに逃げる。

「はぁ、何バカやってるんだい」

 ミンクは呆れていたが、その顔は楽しそう笑っていた。
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