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真の仲間Episode.0ショートストーリー 勇者の村の少女A 前編

Episode.0発売記念SSです

ルーティが旅立つ前の物語になります


 魔王軍がアヴァロン大陸に侵攻してきて1ヶ月頃のこと。

 魔王軍は西のフランベルク王国を滅ぼし、ひとまず侵攻の手を休め足場を固めていた。

 まだ前線はアヴァロニア王国の外である。

 だがすぐに俺達バハムート騎士団も魔王軍との戦争を戦うことになるだろう。

 その日、俺は故郷であるアンゲル村へと戻り、村とルーティの状況を確認しようとしていた。


☆☆


 俺の生まれたアンゲル村は、王都の街道から少し離れたところにある田舎の村だ。

 アンゲル村にはこれといった特産品もなく、作物や家畜で生計を立てるこの周辺ではありふれた特徴の村である。

 のどかな景色の中を、俺は走竜にまたがり進む。

 やがて村の門が見えてきた。


「お兄ちゃん」


挿絵(By みてみん)


 門のところにいる人影が、俺に向かって手を振っている……俺の大切な妹ルーティだ。

 俺は走竜のお腹を軽く蹴って早足を指示した。


「ギャウ!」


 走竜は一声吠えると、グイっとスピードを上げた。

 村の門へとたどり着くと、俺は手綱を引いて走竜の脚を止める。


「お兄ちゃん」


 走竜から降りた俺の腕の中にルーティが飛び込んできた。


「おかえりなさい」

「ただいまルーティ」


 背中に回ったルーティの腕が俺の身体をぎゅっと抱きしめた。

 その健気さに、俺は頬が緩んでしまう。

 俺が帰ると連絡すると、ルーティはいつもこの門で俺を待っている。

 どうやら朝からずっと待っているようで、さすがにそれは悪いと連絡せずに帰ったら、すごく悲しまれた。

 村で最初におかえりなさいを言うのは自分でなければならないと強い視線で主張され、それからはできる限りの到着時間を伝え、こうして門のところで会うようにしている。


「父さんと母さんは?」

「ん、今は村の外」

「村の外?」


 父さん達は農業で収入を得ている。

 冬は内職で小物を作ったりもするが、村の外へ行く用事など滅多にはないはずだ。


「……何か問題が起こっているのか」


 考えられる用事……それは村に危険が迫ったということだろう。

 父さんと母さんは元冒険者らしい。

 実力はDランク相当の平凡な冒険者だったようだが、村の人達の中では戦える側ということになる。

 モンスターが村を脅かすことになれば、武器を手にとって他の戦える者達と共に防衛に回る。


「うん、最近モンスターの動きが活発になったらしい、西の村でも被害が出た」

「それで警戒しているのか、村もなんだか静かだしな」

「大人達が巡回してる、それに……」


「ギデオンさん」


 女性の声がした。

 桃色の髪に黒塗りの胸当てをした少女。


挿絵(By みてみん)


「クラウディアちゃんか」

「私はもう今年で16です、ちゃん呼びはやめてください」

「おっと……悪い、最後に会ったのが小さい頃だったからついな」


 村にはちょくちょく帰っているのだが、その目的は大体ルーティに会うためだ。村の人との交流はほとんどなく、クラウディアという少女とも小さい頃に少し話したことがある程度の関係だ。


「ふむ、よく鍛えているようだな」


 俺はクラウディアを見て言った。

 クラウディアの加護は『射手』。腕の筋肉の具合を見るに、加護の適性通り弓を使っているようだ。

 モンスターとよく戦っているようで、加護レベルもこの若さにしては十分高い。

 アンゲル村では五指には入る実力だろう。


「当然です、村を守っているのは私達ですから」


 言葉には少しトゲがあった。

 どうやらクラウディアは村を守る自警団みたいなことをしているようだ。

 だから子供の頃に村を出て騎士となった俺のことが気に入らないのだろう。

 まぁ気持ちは理解できる。


「別に王都の騎士様に褒められたからといって嬉しいわけじゃありません」


 そうつぶやいたクラウディアをよく見たら少し顔を赤くして照れている。

 俺のことは気に入らなくても、外で活躍する実力者から認められることは嬉しいようだ。


「と、とにかく、ギデオンさんはせっかくの休暇なのだから家で大人しくしていてください!」


 ぷいっと顔を背けてクラウディアは立ち去ろうとする。


「待ってくれ、相手はどんなモンスターなんだ?」

「さぁ?」


 クラウディアは肩をすくめた。

 はぐらかしているわけじゃないか。

 俺の表情を見て、クラウディアはムッとした様子で睨む。


「騎士様みたいに自由に使える兵士なんてここにはいませんので! 戦力を村から遠くまでやるわけにはいかないです!」

「いや、分かったよ、ありがとう、武運を祈る」

「もちろん、ゴブリンだろうがオークだろうが、私の弓は必ず仕留めます」


 クラウディアは意思の強そうな目でそう言った。


☆☆


 久しぶりの家。


「お兄ちゃん、おかえりなさい」

「さっき言ったじゃないか」

「おかえりは何度言っても嬉しい、お得」


 ルーティは真面目な顔でそう言った。

 可愛い。


「お兄ちゃんは座って待ってて、お湯を沸かしてくるね」


 ルーティは台所へと歩いていった。

 その間に、俺はお土産をアイテムボックスから取り出し机に並べる。


「色々ある」


 戻ってきたルーティは白湯の入ったコップを置くと、机の上に並べられた小物と俺を交互に見て嬉しそうに微笑んだ。


「うん、今回も色々持ってきたぞ。いつもの蜂蜜の小瓶、南方の花、ルーティの青い髪に似合いそうな耳飾り、それに砂糖菓子」


 俺が説明するのをルーティは楽しそうに聞いている。

 その視線はテーブルのお土産ではなく、俺の顔を見つめている。


「どうだ、気に入ったものはあったか?」


 俺の言葉にルーティは首を振った。


「全部嬉しい、お兄ちゃんが私のために帰ってきて、私のためのお土産を並べて、私のために説明してくれる……嬉しくないはずがない」


 ルーティは上機嫌だ……この上機嫌な時に見せる表情の可愛い変化が、父さん達ですら分からないというのだから、全くこの村の人の目は節穴みたいなものだと言わざるを得ない。

 本当ならこのままルーティと一緒にいて副団長の苦労から癒やされたいのだが……。

 俺は白湯を飲み終えると立ち上がる。


「さて、ちょっと出かけてくるよ」

「やっぱり行くんだね」

「うん、村に被害が出るかもしれないからね」


 ルーティは少し悲しい顔をしたあと、首を横に振った。


「分かった、やっぱり私のお兄ちゃんはかっこいい……帰ってきたら、またおかえりなさいって言うね」


 ルーティはそう言って微笑んだ。

 可愛い妹だ。


☆☆


 村を守る柵の外。

 柵といっても木で組まれた獣除け程度のもので、今向かってくるゴブリン達にとって乗り越えるのは容易い。

 多少の足止めにはなるだろうが、柵を当てにして防衛戦を行うのはリスクが高すぎる。


「ここで食い止めるのが上策だな」


 俺はクラウディア達が守っている場所を見つけ、走竜と一緒に向かっていた。


「ここで食い止めて!」

「「「は、はい!!」」」


 クラウディアと3人の男が弓を構えている。

 視線の先には猛進するゴブリン達。

 ブラックウルフの背中に乗り、石の槍を構えている。

 鎧は身につけていないが数が6騎と数で負けている。

 それにあの機動力は弓にとって厄介だ。

 だが怯まずクラウディア達はゴブリンめがけ矢を放つ。

 倒れたのは3騎。


「す、すみません!!」


 外した1人が叫んだ。

 クラウディアは素早く2本の矢をつがえた。


「武技:二重撃ち!」


 2本の矢が2騎のゴブリンを射落とす。


「くっ……!」


 だがあと1騎が止められない。

 残りの3人はやはり戦いの経験が浅いようで、敵が目の前に迫っているのに腰の鉈を抜こうとせず、必死に弓を構えようとしていた。


「ひっ!」


 無防備なクラウディア達へとゴブリンの槍が突き出される……が。


「はぁっ!」

「ギッ!?」


 走竜に乗り、すれ違いざまに斬りつけた俺の剣がゴブリンとブラックウルフの首を両断した。

 バハムート騎士団御用達の鍛冶師と付与術士に鍛えられたこの騎士の剣は、鋼鉄の鎧でさえ容易く斬り裂いてしまう名剣だ。


「ギデオンさん……!」


 安堵と悔しさの入り混じった声で、クラウディアは俺の名を口にした。


最強勇者となったルーティも良いですが、旅立つ前のルーティは儚い感じで可愛いですよ!

ウェブ版読者にも見ていただきたくて、許可をとってキャラデザラフを挿絵として使わせていただきました。

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書籍版真の仲間15巻が7月1日発売です!書籍版はこれで完結!
応援ありがとうございました!
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― 新着の感想 ―
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