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130話 ゾルタンに響く鐘の音


 憮然とした表情のリリンララと、なんと声をかければいいのか分からない様子のミスフィア。

 ルーティは、そんな2人をもう気にかけること無く、解決したとばかりにリラックスした様子で椅子に座っていた。まぁここにいる人だと俺くらいしかルーティがリラックスしていることは分からないだろうけど。


「あ、ええっと、そうだな」


 そして、なぜか俺が司会進行役を務める羽目になっている。ヴェロニアのお家騒動について俺は完全に部外者なのだが、2人が自分から喋らなくなったので仕方がない。


「こちらの目的であるミスフィアさんの助命及び教徒台帳引き渡しの拒否は、それらがサリウス王子の助けにならないということで受け入れてもらえるということでいいのか?」

「……もともと殿下に教徒台帳を手に入れさせるつもりはなかった。ミスフィアのことは、まぁ保留ということにしといてやろう」

「そりゃ助かる。ゾルタンとしてはそれ以上望むことはないだろう。次にサリウス王子になんと言って諦めてもらうかだが……」

「もともとゾルタンにいることのできる時間にタイムリミットを決めている。ヴェロニアでやることも山積みだからな」

「ならそこまでミスフィアさんを隠し通せば問題ないな。で、次にそちらの事情であるサリウス王子の王位継承、それが不可能ならレオノール派が王位を継承した後の王宮でサリウス王子の影響力をどう強めるか」


 王位継承問題が終われば、ミスフィアの存在はどちらの陣営にとっても利用価値が低くなる。これを解決するのが一番の方法だろう。

 だが実際のところ、王位継承はかなり難しいと思う。俺はヴェロニア王国の宮廷事情について詳しいわけではないからはっきりとしたことは言えないが、王位継承権は相手が上、政治的影響力も相手が上、そして現王妃が後ろ楯と完璧な布陣だ。

 またウグス王子もスポーツ好きな、筋骨隆々の美丈夫という噂くらいしか俺は知らない。

 政治的手腕をや軍事的才能を発揮しているというような話は聞かないが、悪評が立たないだけでも皇太子としては及第点だろう。

 つまりは、サリウス王子がつけいる隙は見当たらない。

 そのことはやはりリリンララが一番分かっているようだ。


「レオノール派が強行排除できないほどの勢力を保つ。それ以外ないだろう」

「でもあなたの性格じゃ、敵対派を懐柔するってのはできていないでしょ?」

「レオノール派に尻尾を振って、味方からの失望を招いたらどうする」

「そこを上手くやるのが政治でしょう。悔しいけどレオノールはそれが抜群に上手かったわ」


 リリンララはレオノールのウグス王子が王位を継ぐことを前提に話している。ミスフィアもそうだ。お互いサリウス王子の王位継承は絶望的だと理解しているのだろう。

 最初は俺が促さなければ会話にならなかったのが、次第に白熱した様子で議論するようになり、後はもう俺がなにか言う必要はなさそうだ。

 その時、遠くから鐘の音が聞こえた。


「?」


 鐘が外で鳴っているようだ。

 ここは地下室なので、知覚能力を加護で強化されていないと聞き取れないくらいだが。

 だが、すぐに全員がその音に気がつくことになった。


 カンカンカンカンカン!!


 地下室にまで音が届くほど、町中で鐘が鳴り響いている。

 なにか非常事態が起こったときの鐘だ!


「俺とリットで上の様子を見てくる」

「我々も行こう」


 上にいくのは俺とリット、それにガラディンとシエン司教の4人。

 ミスフィアがここにいることはあまり知られたくないし、リリンララを抑えるのにルーティもいた方がいいだろう。

 また、ガラディンとシエンは状況によってはそのまま自分の持ち場に戻らないといけないかもしれないな。


「待って」


 だが外に出ようとした俺達をルーティが呼び止めた。


「全員で行こう」

「全員? ルーティもミスフィアさんもか?」

「ううん、リリンララもティセも他のハイエルフ達も」


 ガラディンやシエン司教だけでなく、さすがのリットも不安そうな目で俺とルーティをチラリと見た。


「分かった。全員で行こう」


 だけど俺はルーティに同意した。


「大丈夫、ここでなにか起こったら困るのは多分リリンララも一緒だ」


 それにリリンララの顔には困惑の表情が浮かんでいる。

 今起こっていることはリリンララの企みではないだろう。

 一緒に連れて行ったほうが役に立つかもしれない。


「それよりも早く上へ」


 みんな、まだ困惑している様子だったが、すぐに鐘の鳴り響く地上へと戻っていった。


☆☆


 外では町にある見張り台の上で衛兵が半狂乱になりながら耳に痛いほどの音量で鐘を叩いていた。

 そして、通りには中央区の住人達が普段の取り繕った佇まいも忘れて、城塞としても機能するゾルタン中央議会を目指し走っていた。


「何があった!?」


 ガラディンが住民達を誘導していた衛兵の1人と捕まえて聞く。


「ガラディンさん!! それにシエン様!!!」


 真っ青な顔をしていた衛兵は、声を掛けてきた相手がガラディンと分かると泣きそうな顔で叫んだ。

 周りの住人達も、その名を聞いて立ち止まると、わっと集まってくる。

 目立ちたくない俺はさりげなくガラディンとシエン司教と少し距離をとった。

 まぁ今更感はあるんだけど、まだただの薬屋レッドで通用するはずだ多分。


「俺達は今、鐘の音を聞いて飛び出してきたところなんだ。一体何があったか説明してくれ」

「はい、俺も隊長から聞いただけで詳しくはわからないんですが……」


 その次の言葉を吐き出すのが恐ろしいかのように、衛兵はぶるりと震えた。


「ヴェロニアが攻めてきたから市民を避難させろって」

「バカな!!」


 ガラディンの後ろからリリンララが飛び出した。


「な、あ、あんた一体……」


 驚く衛兵の胸ぐらを掴むと、リリンララは激しい剣幕で詰め寄る。


「確かなのか! 確かにサリウスの船が攻めてきたのか!?」

「わ、分からねえよ! 俺は隊長から聞かされただけだって言ってるだろ!!」

「ありえない! 軍を動かしてはいけないことくらいサリウスも承知しているはずだ!」

「お、俺が知るかよ……! く、苦しい!!」


 衛兵は振りほどこうとするが、胸ぐらを掴んで衛兵の身体を持ち上げるリリンララの腕はびくともしない。

 慌てて肩を掴むガラディンの太い腕すらも、リリンララは意に介さなかった。

 だが、


「離して」


 ルーティはそう言って、リリンララの腕に手を置く。

 それだけでリリンララの腕から衛兵の身体が滑り落ちた。


「けほっけほっ……何なんだまったく!」


 衛兵は不愉快そうにぼやいた。

 だがガラディンやシエン司教の手前、それ以上は何も言わず、市民の避難誘導に仕事へと戻っていった。

 リリンララは力の抜けた自分の手を不思議そうに見つめている。

 その手は震えていた。


 しかし、サリウス王子が軍を動かした?

 軍を指揮するリリンララが不在の状況で軍を動かすとは少し違和感がある。それに脅しではなく、他国の領土を侵略し占領したとなれば、いくら辺境とはいえアヴァロニア王国の諸侯や聖方教会の司教達も黙ってはいられないはずだ。

 サリウス王子の立場を考えれば、それは王位継承を確実にする切り札を手に入れられる状況でしか切れない手……そんな当然の判断を誤るほど追い詰めたつもりもないはずなんだが。

 だが本当に軍を動かしたとなると、もうのんびりとはしていられない。

 せっかくルーティがこのゾルタンでのんびりスローライフを楽しもうとしているのに、なんだってこんな事態になってしまうんだ。

 ルーティをちらりと見ると、いつもと変わらない様子だ。


 今の所、逃げている人々の中に戦いに巻き込まれた様子の人はいない。少なくとも本格的な戦いはまだ起こっていないようだ。


「とにかく、港区に行ってみましょう。でもガラディンとシエン司教は自分の持ち場に戻ったほうがいいと思う」


 リットの言葉に、ガラディン達は頷いた。


「そうだな、すまんがこちらは頼むぞ」

「立場のある我が身が歯がゆいですね。ミストームのことをよろしく頼みます」


 二人は年齢を感じさせない身のこなしで、群衆を器用に避けながら部下の待つそれぞれの場所へと走っていく。

 もうどちらも70近いはずなのに元気なものだ。ゾルタンの人々が頼りにしているのも頷ける。


「行くぞ」


 まだ硬直しているリリンララの肩を俺は叩いた。


「あ、あぁ……」


 リリンララはよろめく自分の足に首を傾げながらも、やがて真っ直ぐ歩けるようになった。

 『勇者』の加護を全開にしたルーティに威圧されたのだ。並の人間なら気絶してもおかしくない。

 リリンララは自分が怯えていたことには、気がつかなかったようだ。

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