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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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13話 勇者ルーティは独りぼっち


 少し寄り道したせいで、市場への到着したときにはもう正午に近い時間だった。
 俺とリットは暑さで汗をかきながら食材を買い集める。

「レッドー、こっちは全部集まったよ」
「おう」

 買い物はメモを渡して2人で手分けした。市場の商人達は暑さでやる気がでないのか、呼び込みの声もなく、うちわハンドファン片手に店の奥の影に引っ込んでしまっている。おかげで呼び止められることもなく、無駄遣いをすることもなかったのは良いことだが、ゾルタンの市場らしい怠惰さに、俺は苦笑していた。
 リットの方も同様だったようで、普段市場を利用しないリットは面白そうに笑っている。

「私の故郷なら、夏でも市場はうるさい感じだよ。私はこれを毎日食べているから夏バテなんて無縁なんだって、お決まりの口上だったなぁ」
「俺の故郷は田舎だったからな、市場なんてものはなかったよ。それぞれの家が作っているものを持ち寄って物々交換さ」
「レッドの故郷ってそんな感じだったんだ。でもレッドは8歳の頃にはもう騎士団入りしてたんでしょ?」
「まぁね。故郷にいたのは、ほんの子供の時だけだったよ」

 だから、故郷に親しいといえるほどの人はほとんどいない。ルーティからも忘れられているかなと思ったくらいだったが……一年に数回帰るときは、ルーティはいつも村の入口で誰よりも早く俺を出迎えてくれた。

「ぐっ、あの頃は懐いていたのになぁ」

 それが今じゃアレスと仲良くなっていたとは。
 お兄ちゃん全く気が付かなかったよ。

「……それ信じられないんだよね」
「ん?」
「あのルーティがレッド以外の人間に心を開くなんて想像もできない」
「そうか?」
「うん、私、あんなに怖い人、他に知らないもの」
「怖い?」

 冗談かと思ったが、リットの顔は真剣そのものだった。

「闘技場で私、ルーティと向かい合った時、はじめて肌が粟立あわだつってこういうことを言うんだなって理解した。どんなデーモンよりも、私はあの時のルーティが一番恐ろしかったよ……だから、レッド、いえあえて元の名前で言うけれど、ルーティがギデオンに甘えているのを見た時、信じられない思いだった」
「ふーん、まぁちょっと表情が分かりにくいところはあるけれど」
「そのルーティが、アレスなんかに甘えるって、私想像できない」

 ずいぶんな評価だが、リットは本気で疑問を感じている。
 俺は少し不安になったが……。

「まぁルーティは俺より遥かに強い。今、勇者のパーティがどうなっているかは分からないけれど、風の四天王を倒したらしいし、上手くやっているんだろう」
「……それもそうね! 私達はゾルタンにいるんだし、気にしても仕方ないよね」

 考えてしまったことを否定するようにリットはそう言うと、俺の腕を取った。

「帰りましょ」
「ああ、帰ろうか」

 世界の運命を決める戦いから外れた俺たちにはもう、勇者達とは違う世界にいるのだから。

☆☆

 勇者パーティーの1人、武道家の加護を持つダナンは怒りで唸った。

「いい加減にしろアレス! これで何度目だ!」
「無くなったのならまた買いに戻ればいいだけのことじゃないですか」

 賢者の加護を持つアレスはダナンの怒りを気にした様子も無く言う。だがその唇は僅かに震えており、賢者である自分が無学なダナンによって子供のように叱られることに屈辱を感じていることが表れていた。

 現在、勇者のパーティは、ブラッドサンド砂漠にあるという先代魔王が残した兵器を手に入れに向かっている。
 現代の魔王軍に奪われる前に手に入れるか破壊してしまおうというのが、今の目的だ。
 だが、水、食料が切れ集落へ帰還することになること、これで3回目である。兵器がどこにあるか分からないというのもあるが、レッドことギデオンがパーティーを抜けてから、物資が途中で切れることが明らかに多くなっていた。

「同じ場所を何度も往復して、この砂漠で何日時間を費やしていると思っている! 砂漠の民の協力を得られなかったのもお前が交渉に失敗したからだろ!」
「伝説の兵器ですよ? そう簡単に見つかるわけ無いでしょう。交渉についても最善を尽くしました、ですが砂漠の民はこの地の王にも従わぬ盗賊もどきの輩ですので。文句があるならあなたがやってくださいよ」

 アレスは肩をすくめる。その態度が余計にダナンを怒らせた。

「物資調達も交渉も、自分がギデオンの代わりにやるといい出したのだろうが! それをなんだ!」
「ギデオンと違って、雑用ばかりやっているわけにもいかないので」

 ダナンが些細なことで怒り出すのはいつものこと、アレスはそう考えていた。
 が、ダナンの表情がすっと真顔になったのを見て、アレスの脳裏に危険信号が走る。だが、遅すぎた。

「もういい、俺はギデオンを探しに行く。このままでは先に進めない」
「ちょっと待ってください。これから先代魔王の秘密施設にいくのですよ!? ここで抜けるのは困ります!」
「このままでは全滅だ。俺は魔王を倒すのに一番近道だと思ったからパーティーに入っただけだ。近道でなくなったのならここにいる意味はない」

 ダナンは本気だ。少なくともアレスにはそう見えた。
 助けを求めるように、座っているクルセイダーのテオドラを見るが、彼女は我関せずと言った様子で腕を組んで目をつぶっている。ギデオンの代わりに入れたアサシンのティセは、依頼主であるアレスには忠実だがこのような状況では役に立たない。

「ギデオンを追い出したのは取り返しの付かないことだったよアレス。早まったことをした」
「何度も言った通り、追い出したのではありません、彼は自分から言い出したんですよ」

 ダナンは傷だらけの顔に冷笑を浮かべたままだ。
 その時、

「ダナン、兄さんを探しに行くの?」

 ダナンの冷笑さえ凍りつくような、冷たい声がした。

「ゆ、勇者様。これは……」

 全身を筋肉の鎧で包まれたダナンが、1人の少女を前にして怯えるように身をすくめている。それは、草食動物が絶対に勝ち目のない大型肉食動物に睨まれパニックを起こし機能を停止した様子に近いだろう。
 勇者ルーティ。小さな身体を白銀の鎧で包み、腰に降魔の聖剣をき、無表情で大柄のダナンを見上げる少女。
 だが、彼女は神が決めた最強の者。世界を救うために超常の力を得た勇者なのだ。
 指で鋼を切り裂くほどの武闘家であるダナンですら、勇者には絶対に勝てないと本能が理解していた。
 ダナンの喉がごくりと鳴る。

「こ、これ以上アレスに任せていてはパーティーが全滅してしまいます。あなたのお兄さん、ギデオンが我々には必要なのです。勇者様だって……」
「だって?」
「い、いや、その……」

 だめだ。ダナンは膝を屈し、彼女の視線から逃れたいという衝動を堪えるので精一杯だった。それだけで、何百という殺し合いを生き抜いてきた男の精神はジリジリと摩耗していく。
 僅かな沈黙だったのだろうが、ダナンには数十倍にも長い時間に思えた。

「許すわ。いきなさい」
「え?」
「ダナン、あなたはギデオンを探しに行きなさい。私達は旅を続ける」
「い、いや、その」
「以上よ」

 それだけ言うとルーティは自分用のテントへと引き返した。
 パーティーのリーダーだからと個人用テントを使っているが、本当の理由はアレスでさえルーティと狭いテントの中で一緒にいることに耐えられないからだ。
 冒険中以外の時間、ルーティは基本1人で行動していた。ただ1人、ギデオンを除いては。

「ちょ、ちょっと待って下さいルーティ!」

 慌ててアレスが追って行った。
 ダナンは長い息を吐くと、目をつぶったままのテオドラの正面に座った。

「それで、どうするのだ?」
「行くしか無いだろ」

 テオドラに尋ねられ、ダナンは肩を落として言う。

「これでもパーティーの攻めの要を自認してたんだがな」
「勇者様の次にだろう」
「そりゃ勇者様は別格だ。俺ぁ、勇者様に弱かった時期があったなんて信じられんよ」
「加護のレベルが低ければ、誰だって弱い頃はある……が、私も同意見だ。アレス殿なら初期の頃からパーティーにいるから知っているのかも知れんが」
「アレスねぇ……」

 ようやく落ち着いてきたのか、ダナンの口調がいつもの不遜なものに戻っている。頬の傷跡を撫でながら、ダナンは少し声を落として言った。

「アレスが、邪魔になったギデオンを殺ったって話、本当だと思うか?」
「ふむ」
「アレスが勇者様と婚姻を結びたいと思っているのは間違いない。あいつの実家は家柄だけの没落公爵家、お家再興が悲願だろうからな。世界を救った勇者と賢者のカップルとなれば絶大な支持を集められる。公国として国を持つことだって不可能じゃない……ヤランドララが言ってたことは否定できないだろ?」

 ギデオンが抜けた頃、勇者のパーティーには、もう1人仲間がいた。
 ヤランドララというハイエルフで『木の歌い手』という植物を操る加護を持っていた女性だ。
 彼女はギデオンが抜けて一週間ほどしたとき、アレスがギデオンを殺したのだと激しく責めた。彼女は1週間の間、植物を使って情報収集していたのだが、ギデオンが町を出た形跡が無かったのだ。

 これは、レッドがヤランドララの能力を知っていて対策して行ったからなのではあるが、ヤランドララは知るはずもない。
 アレスはギデオンとの約束を破り、ギデオンが足手まといになった自分を疎み逃げ出したとまで言ったのだが、ヤランドララは信じること無くパーティーを抜けてしまった。
 植物を操る彼女の能力は砂漠では十全な力を発揮できなかったのだろうが、それでもここにヤランドララがいれば、探索は随分楽になっただろう。

 ダナンはさすがにアレスがギデオンを殺したとまでは思わなかったが……これからギデオンを探しに行くことになって、ふと思い出されたのだった。
 ギデオンが殺されていれば、ダナンの旅は終わらないものとなる。

「ギデオン殿は戦闘巧者ではあった。コモンスキルだけでよくぞあそこまで戦えるものだと私は感心していたものだ」
「俺もだよ。ギデオンは尊敬できる兵法家だった」
「その割にはよく戦闘での失態を責めていたではないか」

 ダナンはぎくりと身体を震わせた。不遜な大男が恥じ入るように肩を落とす。

「俺は、こういう性格だから……失敗は失敗として責めなきゃ収まらないんだよ……だが俺の加護に誓って言うが、俺はギデオンがパーティーに必要ないだなんて、ましてや足手まといだなんて思ったことは一度もない」
「だったらそれをちゃんと伝えてやるんだったな」
「……てことは、あんたはギデオンは自分から出ていったと思うのか?」

 テオドラは手元にあった枝を2つに折り、焚き火に投げ入れた。

「ギデオン殿は当代一の武術の大家であるダナン殿と、聖堂騎士流槍術師範代のこの私が認めた男だ。アレス殿がいかに優れた術者とはいえ、武を代表する2人が尊敬する剣士が一対一で遅れを取るものか」
「そうだな!」

 テオドラの言葉には、自分に言い聞かせるような響きがあった。それをダナンも理解している。
 ギデオンは生きているはずだ。彼は共に背中を預けて死線を潜った仲間なのだから。我々が生きているならギデオンだって生きている。
 1人で先に死ぬはずがない。

「ちっ、こんなことなら早くギデオンを探しに行けば良かった。そうしたらこんな砂漠でしんどい思いをしなくてよかったのに」
「そうだな、ダナン殿より早く私が言い出していれば、私が探しに行けたものを」

 2人は顔を見合わせ、それぞれの笑みを浮かべた。
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