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114話 暗黒大陸

 ゲイゼリクの船は3本のマストを持つキャラック船と呼ばれる帆船だった。ヴェロニア軍はガレー船のイメージがあったので少々意外だ。


「海賊だった頃のあの人の船の名はマザー・エルヴィール号。嵐の王ストームキングの姿や、静かなる海サイレントブルーの果てを見た船さ。あの人は一箇所にとどまらず、お宝の話を聞けば世界中をどこだって行ったから」

嵐の王ストームキングというと、西方航路の嵐の巣か。まさか、暗黒大陸に?」

「ええ、5ヶ月間くらいだったかしら。私たちと妖精海賊団のリリンララは7隻の船団を率いて暗黒大陸へ渡った。暗黒大陸の港を襲い、アヴァロン大陸にはない様々な財宝を手に入れたんだ」


 幻影は嵐の海を越え、灰色の大地を映し出す。

 ヒゲに覆われたドワーフや牙をむき出しにしたオークの暮らす港を、ゲイゼリク達が襲撃していた。そこに映し出されたのは見たこともない武具、兵器、モンスターの数々。

 鞭のようにしなる薄刃の刀剣、錬金術の爆薬でアンカーを打ち込むカラクリ仕掛けのハンマー、巨人の頭蓋骨に鎖を取り付けたおかしな武器。

 ドワーフの機械弓は引き金を引くだけで次々に矢を発射し、海賊達へと襲いかかる。

 オークの『竜騎士』が操る鱗のない不気味なドレイクが甲板に降り、手頃な船員に食らいつき、飲み込んだ。


「野郎ども! ビビるんじゃねぇ!」


 ゲイゼリクが叫ぶ。

 オークの戦士から奪ったサーベルを振り上げ、ゲイゼリクは先陣を切って暗黒大陸のドレイクへと斬りかかった。


「これが暗黒大陸なのか」


 嵐の王ストームキングと恐れられる、常に嵐が吹き荒れる破滅の海の先。

 大山脈“世界の果ての壁”によって阻まれる東方への境界と同様に、西へ行く勇敢な探検家達を阻む境界。その海を超えた先にある魔王の住む世界を、俺達はミストーム師の記憶を通して見ているのだ。


「……お兄ちゃん」


 ルーティが俺の腕を掴んだ。

 これはルーティにとって行くはずだった世界であり、ここで戦うのが生まれた時からの宿命だった。

 俺はルーティの肩を抱き寄せ、身体を寄せた。

 暗黒大陸の光景は、どこも荒野が広がっている。アヴァロン大陸ではありふれた木々の生い茂る森はない。地上は荒野と山に覆われ、暗黒大陸の大都市は、暗黒大陸の地下に広がるアンダーディープという名の大空洞にあるらしい。

 不毛の荒野を光届かぬ地の底を、ルーティは独り進むはずだった。


「面舵一杯!! 全速力だ!!!!」


 ゲイゼリクが叫んだ。

 空を舞う無数のワイヴァーン騎兵の群れ。


「船長! 魔王軍の物資に手を出したのはまずかったんじゃ!」

「馬鹿野郎! 海賊が魔王なんぞにビビってどうする!」


 激しい閃光と轟音が背後から響いた。


「うわあああああ!!!」


 海賊が悲鳴をあげる。船団のうちの一隻が雷鳴まとう嵐の槍に貫かれ、真っ二つに裂け沈んでいるところだった。


「ガルガンチュアストームジャベリン! やったのはどいつだ!!」

「我だ」


 両手から稲妻をほとばしらせる白髪のデーモンが、ワイヴァーンに跨がり海賊たちを見下ろしながら応えた。


「あれは風の四天王ガンドール」


 ルーティが俺にささやく。ティセも驚いた様子で僅かに唇が歪んだ。

 俺がパーティーを抜けた後でルーティ達が戦った魔王軍四天王の一人。無敵のワイヴァーン航空騎兵隊を指揮する風のデーモン。

 アヴァロン大陸侵略の前線指揮官のような存在で、滅亡したフランベルク王国の王都を焼き尽くしたのは、彼ら風の航空騎兵達だ。

 ガンドールは再び巨大な嵐の槍を作り出す。


「ずいぶん古臭い船に乗っているな、博物館から盗み出したのか? 荒野の民の落伍者らくごしゃか……一体何を血迷って我らの倉庫を襲ったのだ」

「うるせえ! 目の前にお宝があるのにビビって逃げ出すようなやつが海賊になれるか!」


 ゲイゼリクが叫んだ。自分の船を馬鹿にされて怒っているようだった。

 だがガンドールには伝わっていないようで、眉をひそめて首を傾げている。


「そんな船で海賊だと? ますますわからん。まぁいい、どの道ここで死ぬのだから」

「ち、ちくしょう! 空なんて飛んでないで俺と勝負しやがれ!」


 ゲイゼリクは悪態をついてサーベルを振り回すが、ガンドールは意に介した様子もなく嵐の槍を投げつける。

 その瞬間。


「コントロールウィンズ!」


 ミスフィアが印を組んで魔法を発動した。

 ガンドールのガルガンチュアストームジャベリンを包む風が、不自然に拡散すると、船の帆へと集まり強力な追い風となる。


「なんと!?」


 初めてガンドールの表情が変わった。

 ガルガンチュアストームジャベリンは目標をある程度だが追尾する。この嵐の槍を回避するには、接触する寸前に身をかわす必要があるのだ。だが、嵐の槍の周りは雷のエネルギーに満ちており、直撃を避けても電撃で身体を焼かれる。

 上級魔法に相応しい、強大な魔法だ。

 俺はリットがアレスの魔法で倒れた時のことを思い出し、あの時の恐怖と怒りが蘇ってくるようだった。


 その必殺の魔法に対し、ミスフィアは風を操る中級秘術魔法のコントロールウィンズの魔法で対抗した。

 もちろん、風を操ったところでガルガンチュアストームジャベリンは止められない。だが、嵐の槍が引き起こす風を操作し、それを船の推進力に変えたのだ。

 嵐の槍が近づけば、船は加速し遠ざかる。海賊船は嵐の槍と共に、ガンドールを置き去りにした。


「ひゃっほおおお!」


 ゲイゼリクが歓声をあげた。だがあまりに強すぎる追い風にマストはたわみ、ギシギシと嫌な悲鳴をあげている。


「船長! このままじゃマストが折れちまいます!!」


 海賊の一人が泣きそうな顔で言う。だがゲイゼリクはニヤリと笑ってマストを蹴った。

 青くなる海賊達を笑い飛ばすと、ゲイゼリクは大声で叫ぶ。


「折れるんじゃねえぞ! 俺の船なら根性みせやがれ!」

「そんな無茶な」


 ミスフィアが呆れたように言った。


「海賊なんて毎日無茶やってるようなもんだろ! クハハハハ!!」

「……確かにそうですわね」


 危機的状況だというのにミスフィアもゲイゼリクと一緒に笑いだす。


「俺ぁあんたに王様の振る舞いってやつを教えてもらうつもりだったが……あんたの方が先に海賊の振る舞いを憶えちまったな!」

「全部あなたのせいですわよゲイゼリク! ……責任取ってくださいね」


 ミスフィアの後半の言葉は風の音にかき消され、このときはまだ、ゲイゼリクに届かなかったようだった。

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